王墓発見さる!

 横浜に帰って数か月が過ぎたある日、夏は、新聞を見てハッとしました。

                    

              ♬ 和太鼓 ♬ アラビアのロレンス序曲

                           

 そこには「佐賀県の古代遺跡で千八百年前の弥生の王墓発見。甕棺(かめかん)の中から十字型銅剣とガラスビーズの首飾り出土」と書かれています。


 夏は新聞を読みながら、心臓がドキドキしてきました。

                             

「ねえねえ、りん早く早く! この写真見て! もしかして・・あの丘じゃない?」


 走り寄ったりんは、食い入るようにその写真を見ていましたが


「ねえちゃん! そうだよ! あの丘だよ。私たちが“はやと”に初めて会ったあの丘にまちがいないよ。でもなんで、あの丘が新聞に出てるの?」 


「九州で弥生時代の王の墓が発見されて、中から十字型の銅剣と首飾りが出てきたらしいよ。写真の丘は、絶対あの丘だよね。それに首飾りは、私がはやとにあげたものと同じだよ」


「この銅剣は、はやとがいつも腰につけていたし、ガラスビーズの首飾りは、ねえちゃんがあげたものにまちがいないよ! 私わかるもん!」


「だとすると、わたしたちは千八百年前の弥生の国に行ってたみたいだね。はやとはおとうさんのあとを継いで立派な王になった。そしていつの日か亡くなっておとうさんと同じあの丘に葬られた。きっとそうなんだ」 

 夏は、あの丘を思いうかべながらつぶやきました。


「お墓が発見されたって・・・はやとは死んじゃったの?ゆきもそう?・・・」

 りんが夏の顔を見上げて不安そうにいいます。


「うん、千八百年も前のことだからね。せっかくお友達になったのに残念だけどね」

 夏はりんの頭をなでながら優しく答えました。 


「おにいちゃんや妹みたいだったのに・・・。はやとやゆきが死んじゃうなんて!」

 りんの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちました。

 

                 

 あの丘で、夏たちに出会った“はやと”はその後、ゆきとともにムラムラを統一し平和な“クニ”をつくりました。 

 そして“クニ”の王となり大勢の人から永く慕われました。


 はやとは、夏からもらったガラスビーズの首飾りを、生涯身に着けて離すことはありませんでした。

 そして王“はやと”は亡くなったのち、夏たちと初めて出会ったあの丘に埋葬されたのです。


 王たちの眠るあの丘に。




 ある晴れた日、佐賀県吉野ケ里遺跡の北墳丘墓(きたふんきゅうぼ)と呼ばれる丘の上で、王墓に向かい、語りかける夏とりんがいました。


        ♬ ヒューヒュー 風の音 ♬ アラビアのロレンス序曲 

         

 夏の胸には、緑色の勾玉(まがたま)のペンダントが大切そうにつけられています。


「ここで“はやと”と“ゆき”は眠っているんだね。ふたりは遠い昔に、私たちの国をつくってくれたんだね」と夏。


「じゃあ、私たち、感謝しなきゃあね。こんなにいい国をつくってもらったんだから!」とりん。


 ふたりは丘の上からさけびました。


「ありがとー! はやと~!」

「ありがとー! ゆき~!」

「私たちもがんばるからね~!」


 りんが、桜貝のネックレスにそっと触れました。

 すると、その声がふたりに届いたかのように、さわやかな一陣の風が「ヒューッ」と丘を吹き抜けていきました。


                    ♬ 逢いたくていま

                       

 丘の彼方には、あのなつかしい”ムラ”が遺跡となって広がっています。

 その日も丘の小道は、お花で満開でした。



         <第一章 横浜から弥生のクニへ> おしまい


      ◎ 次回からは <第二章 弥生桜の丘> が始まります

        

                    




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る