巫女舞(みこまい)

 木かげでくつろぐ三人。

 そこでゆきは、ゆっくりと舞いの練習を始めました。

 巫女(みこ)さんが舞ったあの優雅な舞いです。

                                          

                      ♬ 和太鼓

                            

 将来、神とお話しする巫女になるのでしょう。

 そのために毎日練習しているのです。


 しばらく、ふたりは見とれていました。


「そうだ! 鏡を使ったらどう?」


 夏はリュックから手鏡を取り出すと


「ほら、きれいだよ」とお日様に向けました。


 その手鏡で反射された光は、一筋の帯となって木かげを明るく照らしたのでした。


「ゆきもやってごらん」


 鏡を受取ったゆきは、つぎの瞬間に固まってしまいました。

 ゆきの顔が鏡に写っているのですが、彼女は鏡を知りませんから、おどろくのも無理はありません。


 ゆきは、鏡に写る自分の顔を不思議そうに、そして少しずつ、うれしそうに表情を変え、長い間見つめていました。


 そして、つぎにお日様に向けました。

 反射した光の帯が遠くの木かげまで届くと、夏に向かって「ニコッ」と微笑(ほほえ)むのでした。


 ゆきは、この不思議なものがすっかり気に入ったようで、しばらく遊んでいましたが、やがて右手に鏡を持ったまま、巫女舞いをはじめました。


 お日様に当たった鏡が「きらっ、きらっ」とかがやき、優雅な舞いがいっそう引き立ちます。


 ひとしきり舞うと、ゆきは鏡を大事そうに夏に返し、舞いに見とれていた、りんの手を引きました。

 いっしょにやろうといっているようです。


「私、できないよ。やったことないもん」

 りんは両手でバッテンをつくります。


 横から夏がいいました。

「りん、あのダンスがあるじゃん。おしりフリフリダンス。さゆり幼稚園の発表会のあれならできるでしょ?」


「え~っ。あれね。あれならできるけど・・・。ん~ん、まあいいかっ。じゃあ見ててよ」

                    ♬ ダンシングヒーロー


 にやにやしながら、りんは両手を広げました。

                          

 夏が、丸太のイスをたたいて、タイコのようにリズムを取ります。

 それに合わせ、りんのおしりが軽快にゆれ始めました。


“タイコ”の響きがだんだん速くなります。

 腰まで伸びたおさげ髪を振り乱して、りんがおしりを振ります。

 さらに“タイコ”が速くなってきました。

 りんは、必至の形相でおしりを振り続けます。


 ゆきは、よほどおかしかったのでしょう。

 涙を流して笑い転げています。


 踊り終わって、息を切らせながら

「つぎはねえちゃんだよ。カンフー見せて! チャンピオンでしょ」と姉を指す、りん。


「分かった、カンフーね。見ててよ!」


 夏は、両手を合わせて一礼すると、ゆっくりとした動きで太極拳(たいきょくけん)を演じ始めました。


 大地の《気》を息と一緒に足の裏からゆっくり吸い上げます。


                      ♬ スローな呼吸音

                        

 そして吸い上げた《気》を頭からお腹におろし、今度はゆっくりと息を吐きながら全身にめぐらせます。 

 これを数回くり返すと、だんだんと動きが早くなりました。


「はい!」突(つ)き「はい!」蹴り「はい! はい!」


両手突きから回転して上段の蹴り、ジャンプしての蹴り!  


 あたりの空気を切り裂くかのような気合を発すると、するどい技を次々とくり出す夏。 

 そして呼吸を整えながら、次第にゆっくりとした動きになり、最後に両手を合わせて静かに一礼しました。


 夏の前には、息を殺してたたずむ、ゆきがいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る