夜明け
♬ ちっちっち
小鳥のさえずりがします
はやとのおかあさんは、朝食のしたくをしています。
でも子供たちはまだ夢の中。
やがて、はやとが起き出しました。
その物音で、夏も目を覚まします。
はやとは、水を入れる“かめ”を持つと、夏を手招きしています。
朝の水汲みが、はやとの仕事みたいです。
夏も“かめ”を手にして、まだ明けきらない朝焼けの広場に出ました。
「まって~!」
りんも起きたようです。“かめ”を持ってあわてて飛び出してきました。
続いて、ゆきも起きてきました。
四人は、川へ向かいます。
背の高い柵を出て橋を渡ると、周りには田んぼがひろがっていました。
「お米作ってるんだ! あとひと月くらいで取り入れだね。でも稲刈り機がないみたいだから大変だな~ 鎌はあるのかな?」
夏は、田舎のおじいちゃんの手伝いをしていたから、稲刈りのことよく知っているのです。
川に着きました。
四人は河原に降りて水を汲みましたが、水の入った“かめ”の重いこと!
りんは、顔を真っ赤にして“かめ”を持ちあげようとしますが・・・無理みたいです。
はやとが、水を半分にしました。これで持ちあがるようです。
「ねえちゃん! 水道がないと不便だねえ~」
りんが、ため息交じりにボヤキます。
水くみは終わりました。
朝になっても相変わらず、はやとのおとうさんをみかけません。
家の前で、はやとに向って、夏がたずねます。
「おとうさんどこ?」
そして、地面にしゃがみこんで○を二つ書きました。
「こっちの○は“はやと”」「こっちは“ゆき”」といってから、ゆきの○の上に、もうひとつ○を書くと「おかあさん」といって、はやとをみました。
はやとは小さくうなずきます。
その横に○を書いた夏は「おとうさん」というとまた、はやとを見ました。
「おとうさん、どこ?」
「夏」はもう一度,はやとの顔を見ていいました。
「おとうさん?・・・ どこ?」
はやとは、しばらく考えていましたが、ゆっくり立ち上がると、遠くの丘を指さしました。 そこは夏とりんが、きのうたどりついたあの丘です。
♬ 会いたい
ゆきも立ち上がり、同じように「おとうさん…」と小声で言うと丘の方を指差ししました。少し涙目(なみだめ)です。
「そうか! はやとのおとうさんは亡くなったんだ! きのうはおとうさんのお墓参りに行っていたんだね」
夏も立ち上がると、朝焼けで赤くそまった丘を見上げました。
「おとうさん死んじゃったの? 悲しいね」
心のやさしいりんは、ウルウルしています。
朝食は質素なおかゆでした。今でいう五穀米(ごこくまい)みたいです。でもふたりは一仕事したこともあってぺろりとたいらげたのでした。
♬ 鐘の音
鐘の音が聞こえました。広場で一番大きな丸太つくりの建物に人々が集ります。
二階の広間で何か始まるようです。
はやとの家族は、広間の一番前に座りました。
りんと夏も、いっしょに座りました。
まるで、発表会の最前列のような感じですが
「発表会とは少しちがうね」
りんが小声でいいました。
はやとが、お供えを正面の棚に並べます。
「どど~ん」太鼓が鳴りました。
♬ 和太鼓
すると、ざわざわしていた広間が静まり、正面の一段高い部屋から、赤と白のロングドレスのような服を着た上品なおばあさんがあらわれました。
同時にひとびとは、額を床につけて平伏(ひれふ)します。
「巫女(みこ)さんかな? みんな頭下げてるし。たしかシャーマンって教科書に書いてあったと思うけど」
頭を下げながらも、夏はちらちらと観察しています。
りんはというと、正座したまま床に額をつけて真剣にお祈りしています。
「か~ん、か~ん、か~ん」巫女さんが鐘を鳴らしました。
上目でチラッとそれを見た夏は思い出しました。
「あれは銅鐸(どうたく)だね。神様を呼ぶ時に使うって授業で習ったわ」
巫女さんがなにやら、お祈りらしきことを始めました。
神様を呼び出しているのでしょうか。
みんなはさらに姿勢を低くしました。
しばらくしてお祈りが終わると、巫女さんは、こちら向きに座りなおしました。
そして何やら伝えているようです。神様のお告げでしょうか。広間のみんなは真剣に聞き入っています。
それが終わると、巫女さんは立ち上がり、やがて静かに舞いはじめました。とても厳かで優雅な舞いです。
その横で小さな女の子も、鈴を右手に舞っています。暗くて分かりませんでしたが、よく見るとそれは薄くお化粧をした“ゆき”でした。
しばらくして「どど~ん」 ♬ 和太鼓
太鼓の音でふたりの舞いが終わりました。人々は安心したかのように広間をあとにします。
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