戦闘シーンってなんか良いですよね

@yaminabe4

vs謎の少女

さてと…どうしようか。


飛び交う銃弾、魔術を紙一重でかわしながらオノンは思考を続ける。


今眼前に存在する敵。正体は不明だ。だがこちらを見るなり攻撃してきたところを見るに、敵意はあるのだろう。

外見はあどけない少女なのだが、こちらの言葉に一切聞く耳を持たず、こちらを憎悪のこもった目で睨みつけている。

そして、彼女は



強い。



「ッ!!」


弾頬を。多量の魔術術式と単発式の鉄砲による多段攻撃。迅速な魔力操作で魔術の連射を可能にし、『物質創造』を利用した高速リロード。

オノンに『空間操作』への適正がなければ、とっくにこの体はただの肉塊に変わり果てていただろう。

自身の周囲の空間を改変し、弾幕の壁になんとか一人分の隙間を作り込み、そこに体を捻じ込む。多大な動体視力と集中力を要するこの作業。なんとか致命傷は避けているが、それでも体には薄い傷が少しずつ刻まれ、息は絶え絶えになっていく。


防戦一方。


誰が見てもそう思うこの状況で、オノンはある疑問を抱えていた。


攻撃すらもままならず、体力を消耗していくこちらとは違い、眼前の少女は先ほどから息一つ乱さず、静かにこちらを見つめるのみ。疲れるどころか、その攻撃の威力はだんだんとだが上昇すらしている。


一時的に隠れることのできそうな岩を見つけ、そこに体を滑り込ませる。


普通、これだけの魔術、『物質創造』の連続使用。普通なら魔力の過剰消費で倒れていてもおかしくはないはずなのに、外見の魔力量は減少する様子が見えない。いや、正確には、魔力が減った瞬間にその分の魔力が回復しているのだ。


風切り音とともに、巨大な魔弾が背後の岩に炸裂する。だがそれだけでは止まらず、そのままこちらに迫ってくる。

『空間操作』で軌道を捻じ曲げつつ、一気に外側に転がり込むようにして回避し、そのまま駆け出す。無理矢理に動いたため体は悲鳴をあげているが、根性で押さえ込む。

先ほどまでオノンがいた場所に銃弾と魔弾がまるで雨のように降り注ぐ。

追いかけてくる弾幕の雨から逃れながら、魔力を練り込み、一気に下に叩き込んだ。視界が土埃で覆われる。

と、次の瞬間、ふわり、と魔力が炸裂した衝撃でこちらの体が浮き、地面と衝突する。全身を衝撃が駆け巡る。声がでそうになるが、気合いで抑える。なんとか敵の視界を遮ることには成功した。


気配を殺しながら体勢を立て直し、体内で魔力を練り込む。

先ほどまでの喧騒が嘘のように、この場は静まり返っている。先ほどから少女は攻撃をしてこない。不意打ちを警戒しているのだろう。

戦場慣れしている。


さて、先程の攻撃を避ける時に確認して、彼女は一つの確信を得ていた。戦う直後まで少女の髪はその外見に合っていた黒髪だったのだが、それが段々と白髪に変化していたのだ。


『物質創造』

魔力などのエネルギーを媒体として、そこから術者が望むあらゆるものを作り出せる能力。

そう聞くとまるで破格の力にも思えるその能力だが、その実燃費は悪い。速度と質を重視して創造できる代わりに、術者はそれに見合わないほどの媒体を消費する。少女の魔力は確かに膨大ではあったが、『物質創造』や、あのような重ねがけの魔術の行使をカバーできるほどではない。

ならばどうするか。

少女が取った選択は、いってしまえば、遠回りな



自殺だ。



『物質創造』は、媒体を糧に術者の望むものを想像する。媒体はエネルギーであれば魔力以外でも肩代わりが可能で、たとえば他者の魔力も、その術者に触れてさえ入れば代替が可能だ。それがエネルギーなら、なんでも。


彼女はそれに、自身の寿命という膨大なエネルギーを選んだに過ぎない。

人間なら誰であれ使用可能だが、それは自身の喉元に時限爆弾を仕掛けるのと同様な危険行為だ。

何せ、使い切れば死んでしまうのだから。


それを少女が実行しているのだから、彼女はどれほどの決心でオノンに向かってきたのかが伺える。と、思うだろうが、実はそうではない。


彼女の有無をいわせずの唐突な攻撃。全く言葉を発さず、その目には強い憎悪の光が宿っている。


これはおそらく洗脳に近い。オノンはそう結論付けた。

いや、正確には暗示の一種なんだろう。だが、相当強力だ。操った相手を文字通り特攻兵器と化して対象を排除する。


全く、そんなクズの恨みを買った覚えはないんだがなあ。


そうやってオノンはクスッと笑って。





憤怒の眼差しを前方に向ける。


許さない。


こちらに殺意を向けた少女をではない。その少女の瞳の奥底に、暗く濁った憎しみを植え付けた人物を。


貯めた魔力を一気に放つ。魔力は巨大な魔弾となり、少女に向かっていくが、少女も多数の魔弾を放ち応える。魔弾と魔弾がぶつかり合い、いくつもの魔術反応を起こした結果、



爆発。



爆炎が巻き起こり、突風が土煙をはらす。顔面に風が吹き付けるのにも構わずに、少女は目を凝らす。


一刻も早く標的を排除する。

今彼女の意識にあるのはそれだけだ。


土煙が完全に消失する直前に、少女が何かに気づき目を見張る。

少女が咄嗟に後ろを振り返と、そこには、先ほどまで前方にいたはずのオノンがすでに刀の鞘を振りかぶった状態でそこに立っていた。


オノンが少し驚いたような顔をする。


『空間操作』による転移と不意打ち。普通なら魔力感知による下準備と座標の計算などの綿密な準備が必須なのだが、それは先ほど済ませてあった。

本来、予期していなければ絶対不可能なはずの対応。何故それが少女に出来たのか。


オノンを見る少女の目が、一瞬キラリと光る。


『未来視』


少女の目を直視したオノンは確信する。おそらく先天的なものだろう。

普通の瞳とは違い、未来視の瞳には十字架の模様が刻まれる。魔力を流すことで、その瞳では数秒先の未来、またはそれに準ずる可能性を見ることができる。

視界の端でオノンが消失したのを捉え、咄嗟に反応したのだ。


銃口と魔法陣が瞬時に向きを変え、射撃を開始し、同時に少女はオノンから距離を取る。


持久戦はこちらが有利。それに加え、標的はたった今一度きりの切り札を失った。先程のような不意打ちは、二度とくらわない。


これで…。と、少女が勝利を確信したその時、その刹那に、




少女は、確かに聞いた。




オノンの唇の端が吊り上がり、言ったのだ。




「私もだ」





オノンの左目が、十字架がキラリと光った。


オノン。『空間操作』『未来視』の二つの能力を併せ持った特殊認定魔術師にして、『神出鬼没』の異名を持った稀代の術者。その神速の空間把握能力と絶対的な未来予測によって、相手にするものを凌駕する。


襲いかかる弾幕を“難なく”避けながら、オノンは少女との距離を詰める。


先程までのギリギリの防戦一方はブラフ。布石だったのだ。


全ては、少女に自分との格の違いを悟らせるため。彼女が持つ手札をきらせ、その上で圧倒する。

を殺すことは絶対に不可能だ、と思わせること。


それが、暗示を解くための第一歩だ。


オノンの刀の鞘が少女の首筋に吸い込まれるように命中する。


「うっ」


小さく、声をあげ、意識を消失し倒れ込む少女をオノンは支え、ゆっくりと地面に寝かせてから、彼女の容態を確認する。

幸いにも、目立った外傷はない。

寿命もこの程度なら、オノンの残りの魔力で補えるだろう。

ほっと一息ついて、オノンは少女を抱え直す。とりあえず、これから今日の寝床を確保しなければ。

歩き出し、ふと思い出したようにニヤリと笑って。



「私の勝ちだ」



嬉しそうにささやき、少女と共に、その場を後にした。

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