第三章 その12
須田が交際申請を済ませた、という情報は瞬く間に校内の噂になった。「ようやくか」、「相手は?」、「へえ、てか誰それ」などなど蜂の巣をつついた騒ぎは副会長のクラスの前廊下で休み時間になるとさんざん行われ、速水は速水で「どこがいいの?」、「怖くない?」、「なんか弱みでも握られた?」などなどねぎらいの言葉が少なくなかった、陽キャばかりからだったが。だから、答えにも四苦八苦し、それがなおさら速水への意味不明な同情となり、副会長の一挙手一投足に不備がないか、無言なシビリアンコントロールの雰囲気が漂うようにさえなってしまった。
「本校に在籍する者は異性交遊を純粋に行わなければならない」
その条文を反故にする生徒会役員はいなくなったわけだ。生徒会一同の交際のあり方がある意味で生徒たちの模範となる。鏡となる、象徴となる。それは生徒たちの目ばかりではない。教職員からの、保護者からの、地域住民からの、そしてネット上の不特定多数の正体不明の誰かからの。だから、下手なことはできない。下手、というのがどういう行為や態度かはっきりしたことが明言できないのは他でもない。判断するのは自分たちではなく他者だからである。けれど、とはいえ、高校生なのである。見えない所から矢で射貫かれないようにするためには、よくできた範疇でもある。「ザ・青春だなあ」、少なくともそう思わせれば失敗ではない。それが肯定的な発言でも、揶揄や皮肉であっても。改めて、今回の改正が意外にも強固で堅牢な見えないバリアに一矢報いようとするものだったと痛感したのは須田ばかりではない。生徒会一同ばかりではない。この高校の者である、というアイデンティティが向けられるのは生徒たちばかりではない。責任、という語の意味が辞書的ではなく、体感として触れたのは一人や二人ではなくなった。
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