第70話 月と星の儀式

そして運命の2週間目……例のマントが解呪される日だ。

俺は枢機卿に呼び出されてマントを受け取った。精霊のナイフに反応は無い。どうやら解呪は成功した様だね。

『眼』が鑑定眼で調べてみる。


《始祖の月光マント》

レベル:S 属性:闇 《解呪済》

バンパイアロードの魔力により生み出されたマント。物理耐性、魔法耐性、呪詛耐性を持つ。耐性のレベルは闇属性の深度により決まる。ボロボロになったとしても月の光を浴びせると元のマントに戻る。闇属性に親和性が高く、闇魔法の使い手以外は使用出来ない。


「よ〜し、テストしちゃうぞ〜!キラ!庭に出ろ!」


「ニャッ!」


庭に出た俺は早速マントを羽織りキラに切り付けさせた。


「ニャッ!!」


おお、物理攻撃を防いだぞ!スゲェな!


「よし!次はブレスだ!!」


「ニャッ!!」


キラがブレスを吐く!!するとマントがメラメラ燃えている!!


「うおおおおぉ!!!燃えたあああ!!」


俺は急いでマントを外して炎を消した……半分位は燃えたな……。


「ちょっと!アンタ何やってんのよ!!」


ロザリアが飛んで来てアワアワしながら怒ってる。

他の皆は大笑いしながら指さしていやがる……何で奴らだ!!


「ラ、ラダル!中々楽しい余興だったぞ……フハハハハ!!」


「ちょっと!!笑うの止めなさいよ!ぷっ!」


「ククク……ラダル、キラのブレスは魔法じゃあ無いから駄目だろうに……ククク……」


そうか……キラのブレスは魔法じゃあ無いから防げないのか……なるほどなるほど……ってやかましいわ!!


装備をしっかりしてて良かったわ。やはり備えあれば憂いなしってね。


「ニャア……」


「ん?キラは悪くないぞ〜。テストには失敗が付き物だからな!笑いたい奴は笑わせておけ」


「ニャッ!」


主の心配をするとは流石は眷属。笑ってる心の汚れきった大人共とは違うなぁ。オレはキラを撫でてやった。尊い。


「しかしキラの切り付けを防ぐんだから中々の防御力だな」


「そりゃあレブルの創ったマントだからそれなりの物でしょう。魔法攻撃はまた今度だな……今日は月が出るかしら……」


そう、このマントは月の光で復活するのだ。だから燃えたところで大丈夫なのだ。

さて、笑われるだけの罰ゲームみたいなテストを終えて俺達はまた執務室に戻る。するとメルローさんが例の泉の水の瓶を出していてくれた。浄化は済んだらしい。俺は瓶を魔導鞄に入れて置いた。


「それで、お前達はどうする?もう行くのか?」


「そうですね、俺はもう準備出来たんだけど、アシュのおっちゃんは?ルーデムさんトコ行った?」


「おう、膝当ては買ったぞ。もうローディアス殿には色々教えを乞うたし準備は出来てるぞ」


「そうか、それならば次の目的地はダイロンの州都だな。カルトスに行けば山脈の千年洞窟への道筋が見えるだろう」


「ありがとうございます。ではそちらの方面に向かうとします」


「道案内は私が行くわ。安心して頂戴ね」


「えっ!ブリジッタさんどうして……」


「ラダル君には相当稼がせて貰ったし、枢機卿直々のご依頼ですから」


「それは助かる。是非ともお願いしたい」


「いやあ、本当にありがたいよ。ブリジッタさんなら大歓迎!!」


「あ〜それとだな……」


「わ、私も行くわよ!!」


「へっ?ロザリア?」


「お、お嬢様!!それはなりません!!“月と星の儀式”が明日なのですぞ!!」


「それならば終わってからオレ達が出発すればいい事だな。ラダル、そうしないか?」


「分かりました……それならそうしますか。メルローさんに心配かけさせられないしね!」


「ら、ラダル様……」


「それならば儀式を受けるわ!!」


いやいや、アンタは儀式をちゃんと受けなさいよ!その為に苦労してポリュペーモスを倒したんだからさ!

そりゃあメルローさんがビックリするわ!もうちゃんとしなさいよ!


「やはり血は争えんな」


いやいや、何落ち着いた台詞言ってんの?アナタもちゃんと止めなさいよ!!

いい加減おかしな親子を生温い目で見ているとブリジッタさんがやって来た。


「本当に良いの?ロザリアの事」


「アシュのおっちゃんが良いって事だし、まあ……止めても無駄でしょ?あの二人は」


「よくご存知で……ウフフ……」


「ブリジッタさんこそ良いの?俺達が居なくなったら帰りは二人旅だよ?」


「一応鍛えておりますから大丈夫よ。私身内には厳しいのよ」


「へっ?身内?」


「あっ……」


「あっ。何にも聞いてませんから!あーあー聞こえない!」


「……はぁ、もう良いわ。ローディアスはね、私の兄なの、腹違いのね」


「ううう……聞いてないって言ったのに……勝手に自白するとわ……さては、計ったな!!」


「そんな事しないわよ!全く……まあ、そういう事だから大丈夫よ。安心して」


全く安心出来る状況じゃないんですけどね!何が大丈夫なのかさっぱり分かりませんよ!!

コレって枢機卿の秘密を知ってしまったとかで座敷牢に一生ぶち込まれるオマケとか無いですよね!!

アシュのおっちゃんは驚く訳でもなく落ち着いている……聞いてたのか?そう言えばアシュのおっちゃんはここに着いてからずっと枢機卿と一緒だった。何をしてたのか全く聞いてない。まさか……アシュのおっちゃんも腹違いの……。


「変な目でオレを見るなよ。また変な事考えてんのか?多分考え過ぎだぞ」


俺が何故かアシュのおっちゃんに生温い目で見られる事になった……何でや?



翌日、街中が“月と星の儀式”が始まる事で厳かな雰囲気に包まれる。そして聖都中の12歳を迎えるあるいは迎えた女の子が聖都の聖教広場に集められ教皇様の祝福を受けるのだ。

もちろん枢機卿であるローディアスさんも正装をして教皇様の隣に居る。何でもピアスを渡す役目なのだと言う。右耳にピアスをしている女性は大人の女性として扱われる。そして結婚すると左耳にピアスを付け替えるのだと言う。所変われば色々な習慣があるのだねぇ。

そう言えはブリジッタさんは右耳でしたね。だからポリュペーモスの時にあの商人がどさくさでプロポーズしてたのか……。

この日に合わせて他の地域からも大勢がやって来るので一大イベントなのだろう。

しかし、この地に来て初めて教皇様のご尊顔を拝見したが、いやいや……アレもかなりの化け物だね……凄まじい魔力だよ。初めて感じる……いやローディアスさんも似た魔力をしてたが、質が違うなぁ……。コレが本来の聖属性の魔力って事なんだね。

正直に言うとクラクラする……闇属性の俺とは相性が悪いのだろうね。

でも儀式自体は厳かな雰囲気だし素晴らしいものだったよ。ローディアスさんが最後の方でロザリアにピアスを渡す時に感極まってオイオイ泣き出したんだけど……アレで枢機卿でもええのんか?。

その夜は身内だけで過ごすのが習わしとの事で俺とアシュのおっちゃんは別の部屋で飯を食った。


「山脈を超えたらなんだけどアシュのおっちゃんも露出度を低くしないと戦争では危険だからね」


「そうか、じゃあ装備を揃えるか……」


「そう言うと思ってチェーンメイルは用意して置いたよ」


「おお、そうか。悪いな」


「後は盾も使うことになると思う。小さなのでも良いから買った方が良いよ。矢を防ぐのが主だから」


「それは買っておいたぞ。ガントレットに取り付けられる奴だ」


「それなら良いや。後はヘルムだね」


「それも用意してるから安心してくれ」


と見せてくれたのが古代ギリシアのヘルメットみたいなカッコイイ奴だ。まあこれなら大丈夫だろう。


「ところでアシュのおっちゃんはローディアスさんと何してたの?」


「ああ、とりあえず聖魔法のやり方を習っていた。光魔法も少し使えたんだが習う機会が無くてな……丁度いいから教えて貰ってたんだ」


《アシュトレイは光属性も持ってるの》


え〜……マジかよ……全然知らなかったぞ。それであんなに熱心にやってたのか……確かに聖魔法はかなり貴重な魔法で覚えられる場所も限られると聞いている。今まで習えなかったのは無理もない事なのだ。


「そうだったのか……知らなかったよ」


「そりゃあそうだ。魔法を使う事が少ないのに更に使わない魔法だったからな。ハッハッハ!」


しかし、そもそも魔法を滅多に使わない人が聖魔法を覚える必要があるんですかね……まあ、良いですけどね……。




◇◇◇◇◇◇◇◇




いつもお読み頂きありがとうございます。

今回は月と星の儀式を中心に話を構成してみました。

如何でしたでしょうか?

この太陽神の信仰では太陽が男性、月と星が女性を表す様です。


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