第69話 馬鹿につける薬無し
「ではもう良いですかね?」
「もう少し詳しく話してもらおうか?」
「これ以上は何もありませんけど」
「じゃあ、どの様にして発見したのかを聞きたい」
冒険者ギルドでギルドマスターにしつこく聞かれるのでいい加減に頭に来ていた。
「ホントにしつこいね。それを言う必要は無いだろ?」
「君は銀級冒険者だろう?銀級冒険者がギルドに貢献するのは当たり前の事だ」
「よし、分かった。じゃあ俺は銀級冒険者の称号は要らねえわ。返上するから受け取れ!大体、お前ら冒険者ギルドが勝手に寄越した銀級だろうに!ふざけんなよ!」
「なっ!……貴様!!その態度は何だ!!」
「お前がグダグダ言いやがるからだろ!もう一切強力しねえからな!コイツは返上するから取っとけボケ!!」
俺は銀級冒険者証をギルドマスターの顔に投げつけた。ギルド職員が俺を押さえつけようとしたので金槌でぶっ飛ばしてやった。
下から飛んで来たブリジッタさんは状況を見て全てを悟ってくれた様で
「ギルドマスター!いい加減にしなさい!!このラダル君は州王様が認めたデュラハンスレイヤーなのよ!それに楯突くとは州王様に楯突くのと同様なのよ!」
「州王?この聖都では関係ない事だ!!」
「そう?分かったわ。ならばラダル君はリストリア枢機卿の客人である事も関係ないという事ね?」
「リストリア枢機卿!!?」
「州王様から直々に枢機卿に紹介状が来てるの。貴方はそれにも楯突くのね?分かったわ。さあ、ラダル君行きましょう。枢機卿にはこの不始末、必ず報告するので首を洗って待つといいわ」
「ちょ、ちょっと待て!!」
俺は机に金槌を振り下ろしてぶっ壊す。
「お前、次は頭に叩き込んでやるぞ……俺をなめんなよ」
ギルドマスターは俺の殺気に当てられて動けなくなっていた。
俺はブリジッタさんと共にギルドを後にした。
「全くあの野郎ふざけやがって!!」
「ホントに酷い目に合ったわね……ローディアスに言いつけてやるわ。舐めた真似してタダで済むと思ったら大間違いよ」
二人して怒り心頭で枢機卿の屋敷に戻るとメルローさんが「どうなさいました?」と聞いてきたので、冒険者ギルドでやられた事を洗いざらい話すとメルローさんがえらい怖い顔になった。どうやらあのギルドマスターは札付きのろくでなしらしく、アイツのせいで聖都を去った冒険者が多いらしい。
ギルド本部のお偉いさんの親戚とかでエラい幅を利かせてるとかで評判はすこぶる悪い。
「この件、私にお任せ頂きたいのですが……」
「メルローさんがそう言うなら俺は任せますよ」
「ありがとうございます。決して悪い様には致しませんので……」
あの野郎の事はメルローさんに一任する事にする。そして泉の水の除染もお願いして、俺はルーデム商会に向かった。
「ラダル様!お待ちしておりました!」
「ルーデムさん、ご面倒をお掛けしました」
「何を仰いますか!大口の取引ですからね、私も久しぶりに気合いが入りましたぞ!ハッハッハ!」
そんなルーデムさんはキチンと剣や槍を綺麗に並べて置いてくれていた。俺は『眼』に鑑定を全て任せてる間に、ルーデムさんから武器の売り方等をレクチャーして貰った。やはり餅屋は餅屋と言うからね、向こうで売る時に損をしないようにしないと……。
「いやあ〜ラダル様は実に商売にも御熱心ですなあ。実に筋も良い……冒険者にして置くのは勿体ないですな!」
「いや、冒険者でも無いのですがね……」
「は?そうなのですか?てっきり冒険者だとばかり思ってましたが……」
「実は魔法兵なのですよ。故郷では伍長をやってたんですよね」
「兵士だったのですか?ほう……色々大変でしたでしょうに……」
「良い上官……に恵まれましたしね。悪くない生活でしたよ」
「そうでしたか。しかしラダル様には商才はあると思いますから、早目に商人に転身されても宜しいかと。人生長いですからな!」
「いやぁ、実は故郷でもお世話になってる商会の会頭さんから話を頂いてましてね……」
「おお、そうでしたか!その方の見る目は確かですぞ!」
《終わったの。数や品質に問題は無いの》
「おう、ありがとう。では引き取らさせて頂きます。コチラが大金貨になりますので、ご確認願います」
ルーデムさんは大金貨を数えている。俺は商会の方と魔導袋に武具をしまっていた。これだけ入れてもまだまだ余裕が有る。塩は50樽予約してあるが、香辛料も結構買えそうだな。
「確かに。本当に感謝申し上げます」
「いやいや、こちらこそ。魔導袋は本当にありがたい買い物でしたから」
「そう言って頂けて私も枢機卿にご紹介頂いた甲斐があったというものです」
俺は魔導袋をリュックに入れてルーデム商会を後にした。
そのまま市場に向かい香辛料を売っている場所にやって来た。やはり香辛料は出来るだけ買っておきたい。
しかし、樽ごと売ってくれるのは居なかった……細かく売った方が利益率悪いと思うのだが……。仕方ないのでそちらは諦めて塩を貰いに行く。
塩の市場は俺の想像を超える大きさだった……正に塩の山だな。しかも物凄く安い。先ずはメルローさんの口利きで仕入れた50樽を引き取りに行く。
塩は真っ白に近くなれば高騰する。だから市場に出回ってる物は混ざり気が多い。ミネラル分があり過ぎると苦味や雑味に繋がるのでバランスが重要である。
俺は『眼』に塩を鑑定眼で見させた。塩は混ざり気も少なく良い塩だった。流石は枢機卿の口利きだけはあるね。俺は更に追加で20樽を買う事にした。
「つ、追加で20樽も!!ありがとうございます!!」
「これ程良質な塩を揃えるのも大変だったでしょう?」
「いえいえ、私どもの取引してる生産者の方々が協力して下さいますので……」
「なるほど、良い商会には良い生産者が付いてるのですね」
「おお……かのデュラハンスレイヤーにお褒めの言葉を頂けるとは……」
俺はダメ元で香辛料について聞いてみると「ウチの知り合いなら何とかなるかも」とさっきの市場から少し離れた場所の店を案内してくれた。
そこでは香辛料をソコソコの値段で七種類を2樽づつ購入出来た。コレは本当にラッキーだったよ!
塩の商人さんには「良質な塩に加えて香辛料まで紹介してくれた事、必ず枢機卿にお伝えしておきます。ありがとうございました」と話すととても喜んでいたよ。こういう仕事は信用第一、キチッとした仕事にはそれ相応のリターンを出してやるべきだ。どっかの冒険者ギルド馬鹿とはエラい違いだ。
その後3日もしない内に枢機卿の屋敷にその馬鹿ギルドマスターが誰かと一緒にやって来た。メルローさんが何かしたのだろう……土下座をしながら何か叫んでいたがメルローさんに一喝されてそのままその人と屋敷を追い出されていた。何かもう一人はギルド本部の親戚のヤツらしい。
次の日に10人程の団体さんがやって来た。何でもギルド本部の人間らしい。
俺に会いたいと言った様だがメルローさんが会わせなかった。俺も会いたくないしね。
後からメルローさんよりあのギルドマスターと親類のギルド本部のヤツが失脚したと聞いた。
理由は州王様に対しての無礼なギルドマスターの言動をメルローさんが州王様に手紙を送ったと言う。そこで向こうのギルドマスターが州王様に呼びつけられて叱責とギルド本部に一軍送ると散々脅されたらしい。
報告を受けたギルド本部で色々調べるとギルドマスターの色々と悪さが明るみに出て失脚させられたらしい、正にクビだね。
その後、元ギルドマスターは恨みを買ってた冒険者達に殺られたらしい……因果応報ってヤツだ。
それで偉い人達がやって来て俺に詫びたいと言ってたらしいがその話もメルローさんが蹴った様だよ。本当にありがたい。
その連中がコレだけは受け取って欲しいと銀級冒険者証だけ置いていった様だ。俺はもう要らなかったがゴミ箱に入れるのも面倒なので魔導鞄に放り込んだ。
もう冒険者ギルドには顔を出さないと俺は決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつもお読み頂きありがとうございます。
今回は残念なギルドマスターの話でした。
ラダルの冒険者ギルドへの不信感が上がった様です。
皆様の応援沢山頂きまして感謝しております。
これからも更新頑張ります。
何卒よろしくお願いいたします。
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