第66話 武具と塩と魔導袋
部屋を用意して貰った俺は『眼』に街の様子を見に行く様に頼んでおく。
風呂にゆっくりと浸かりながら街の散策である。もし良い商品や俺の持ってる素材が高く売れそうならそれも視野に入れる。
基本はこの聖都で金のほとんどを素材や食料、又は武具や魔導具等の物品に変える予定だ。と言うのも向こうではこちらの金が流通していない様なのだ。そうなれば物販を向こうでやって向こうの金に変える必要が出てくるからだ。
流石に俺の欲しそうな魔導具があるとは思えないが、武具ならば良い物は抑えて置きたい。何せ向こうは戦争中なのだ、武具はいくら有っても売れるはず……いや絶対に売れるよ。間違いない。
後は塩や香辛料系統の保存食に使う物は重宝される。
こう言った事は魔法兵としてやって来た俺ならではの感覚だと思う。“お宝タイム”で相当鍛えられてるからね。多分、この地より向こうでやって行く方がやり易いのでは無いかと思っている。
『眼』は商店街にやって来ると先ずは武具の店に入り込む。もちろん『隠密』を発動している。
武具屋で大きな所は高級品を隠しているので中々分かりづらいのだが、時たま上客っぽいのが居るとソイツをストーカーさせて上物を見る感じ。
あまり良さそうなのは無いな……などと思っていると遺跡シリーズを置いてある店を発見した。デカい店だな。
《遺跡の武具が沢山あるの》
(って事は……ここら辺に遺跡でもあるのかな?後で聞いてみよう)
《……見た感じ此処には“ネームド”は無さそうなの》
(そりゃあ“ネームド”はそう簡単に出回らないだろうさ。でも遺跡が有るならワンチャンあるかもな)
《とりあえず遺跡の武具で必要なのは鎖帷子か鎧なの》
(まあ、俺のヤツ穴空いてるからな……とりあえずその店は行ってみよう。良いのがあれば其処で買ってもいい)
《とりあえず我はそちらに戻るの》
(ご苦労さん、部屋の窓は開けとくから)
俺は新しい服を用意して着替えて部屋を出るとメイドさんが部屋の前に居た。何か用だろうか?
「ラダル様、何か御用は御座いますか?」
「は?」
どうやら俺専属で御用聞きをやってくれるらしい……。
それならばと遺跡に関して詳しい事を聞きたいと言うと、メイドさんはメルローさんを連れて来てくれた。忙しいのに申し訳ないな……。
「遺跡に関して何か?」
「この聖都の近くに遺跡でもあるのかとおもいまして……」
「ここからですと二日程の所にアヤメナ遺跡が御座います。遺跡に行かれるのですか?」
「近くなら見るだけ見てみようかと。運良く装備品でも見つけられたらラッキーみたいな」
「うむ……そうですなぁ……実はその遺跡は多くの冒険者が毎日頻繁に出入りしてますのでな……もう取り尽くしていると思いますぞ」
「ああ……そう言う感じなんですね。まあ近いし暇つぶしがてら行くのも良いかな」
「そういう事でしたら宜しいかと」
「後、武具を買っておきたいので良いお店を教えて頂ければと」
「武具ですな?それならば当屋敷専属の店が御座いますから呼び出しましょう」
「いやいや、コチラから行きますよ。結構買い込む予定なので」
「買い込む……と言いますと?」
「向こうではこちらのお金が流通してない様なので物品に変えるつもりなのです。魔導鞄もありますからある程度まとめてね。そうすれば向こうで売って向こうの金に替えられますから」
「なるほど!流石はラダル様、ブリジッタ様より商才もあるとお聞きしましたが……とても良いお考えかと!」
「他に何か聖都で良く取り引きされる物は有りますか?香辛料とか食品でも大丈夫です」
「聖都と言えば塩ですな」
「塩?」
「塩は聖なる力を持ち、邪気を払うと言われております。ここ聖都の周りには北の海からは勿論、岩塩の取れる場所も近くにあります。その為に大量の塩が聖都には持ち込まれるのです。中継地点の役目も果たしており扱われる量が多いので値段も安定して低いです」
「それは良い事を聞きました。ラチウ(胡椒)は樽で持ってるので塩胡……いや塩ラチウが作れます」
「塩ラチウ??」
「ええ、調味料の定番です。便利ですよ」
前世の記憶だと塩コショウの中にはうまみなんちゃらも入っていたはずだが、普通に塩と粗挽き胡椒でも中々パンチが有って美味いのだ。4対1くらいからお好みでやると中々面白いのだよ……フフフフ……。
「そうですか、それは良い事をお聞きしました。当家の料理長にも教えておかねば」
「もし良ければ他の薬草の調合も教えますよ。御一緒しましょうか?」
「ほほう!是非とも!」
こうして俺は枢機卿の料理長に薬草料理の基本を教える事になった。料理長は最初こそ疑心暗鬼の目で見てたが、食べてからはもっと教えてくれと食いつき気味に来る様になった。コレでこの地にもヘスティア師匠の薬草料理が根付くかも知れないね。
その日の夕御飯は料理長の薬草料理が山の様に並んだ。枢機卿もかなり美味しかった様で終始ご機嫌だったね。
食事の後は枢機卿とアシュのおっちゃんが色々と話があるとかで枢機卿の部屋に行ってしまった。
俺はブリジッタさんとロザリアにデザートを作ってあげた。何の事は無いフレンチトーストだったのだが、エラい好評で二人が食べてるのを見たメイドさん達も食べたそうだったので沢山作ってあげた。
この日からメイドさん達の態度が一変して物凄く親切になった……デザート恐るべし……ぐぬぬ……。
翌日はメルローさんと武具を見に御用達のお店に向かった。すると『眼』が見つけたお店だったので流石は銀級冒険者だなぁと感心してしまった。
「メルロー様!使いを出して頂ければ私が出向きましたのに!」
「おお、ルーデム。実はなデュラハンスレイヤーであられるラダル様が武具を購入したいとの事でな。しかもそこそこの量をだ。それでお連れしたのだよ」
「な、何と!かの有名なデュラハンスレイヤー!!確かポリュペーモスも倒されたとか!街中その噂で持ち切りですぞ!!」
「そうですか……俺はラダルと言います。今日は武具の買い付けと遺跡のアイテムも見せて頂けたらと思いましてね」
「おお!!それならば当店自慢の物が御座います!ささ、此方へ!!」
ルーデム商会のルーデムさんに案内されて、先ずは遺跡シリーズを見る事になった。
予めルーデムさんにも『眼』を見せて置く。かなり驚いていたが直ぐに興味深そうな商人の目になっていた。コイツは売りませんよ……。
店の地下にそれ専用の部屋があり厳重に管理されている。中の部屋にはかなりの遺跡シリーズが置いてあった。とりあえず武器は置いといて……防具を見ようか。
すると『眼』が防具を舐める様に鑑定している。
《主の防具にはこれがいいの》
『吸収のプレートメイル』
レベル:B 属性:闇属性
戦闘中に受けたダメージを吸収して更に硬度を増すプレートメイル。伸縮性を併せ持ち使用者の身体に合わせる。闇属性と親和性を持ち、闇魔法を扱える者しか装備出来ない。
中々の逸品である。
値段は15大金貨の所を12まで下げてくれた。それでも安過ぎないかな?
「いやあ、コレは闇属性なので使える人が少ないのですよ……ですから人気が無かったのです」
「なるほど……逆に属性無しの方が売るには都合が良いという事か」
「そうですね、やはりそうなります」
商売は難しいなあ……需要と供給のバランスってヤツね。
『健脚の膝当て』
レベル:C 属性:無し
魔力を入れると硬度と軽さが増す膝当て。伸縮性が有り使用者の足に合わせるのと同時に足の動きにも合わせる。
これも悪くない。軽くて伸縮性があるのは素晴らしい。コレは26大金貨の所を21まで下げてくれた。なるほどこっちの方がレベルは低いが人気は有るのだね。
後はさほど『眼』のお眼鏡にかなうものは無かった。
アシュのおっちゃんには俺の持ってるのと同じ靴があったのでそれを買った。膝当ては後で本人に選ばせよう。
後は鋼鉄製の剣と槍を500づつ購入した。盾は100ほど。それで10大金貨ほど……後の武器や防具系は売れるかが分からないので止めておく。それでもまだまだお金は余っている。さてどうしたものか……。
「魔導鞄が欲しいな……」
「魔導鞄ですか?それならばウチにありますが……」
「えっ?あるの??見せて下さい!!」
「で、ではコチラにお持ちします……」
しばらく待つと店員さんが巾着型の皮袋を持って来てくれた。腰にぶら下げられそうな大きさだ。
「コレが当店で一番物が入るものになります。ウチの1階位は入りますが……如何でしょうか?」
ほうほう……俺の魔導鞄の四倍……いや五倍は入るな。
「コレならば800大金貨ですが、780までお安く致しますが……」
「買います。それと購入する剣と槍は3倍に増やします。これに入れて下さい」
「わ、分かりました。直ぐに御用意出来ませんので、1週間程頂きたいのですが……」
「もちろん構いません。コチラには2週間ほど滞在しますから」
「ありがとうございます。早速手配致します。おい!誰か!」
ルーデムさんは店員さんに色々と指示を飛ばしていた。まあ数が数だからねぇ……。
「ラダル殿……宜しいので?」
「州王様に頂いた報奨金で買えますから問題ありません。それに魔導鞄が有れば商売にも使えますからね。780大金貨を投資するならいずれは何倍にも帰って来ますよ。だからこれでも安いくらいだと思いますね」
「なるほど……先々の事も考えておられるのですな。流石です」
まあ先行投資としてはかなりいい物じゃないのかな?
◇◇◇◇◇◇◇◇
いつもお読み頂きありがとうございます。
今回は次の土地に行く為の仕入れの話でした。
遺跡シリーズの防具を揃えたのはやはり戦争中である事が根底にあるという事です。
フォロワーさんが600をそして星も400を突破しました。コレも皆さんの応援のおかげです。本当に感謝申し上げます。
これからも更新頑張ります。
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