第43話 遺跡探検と疑惑の村長
リスカンドル州都を脱出した俺達が迷いに迷った3週間、やっと着いたのはリスカンドル州の隣に位置するバリグナタ州の村だった。
村長に挨拶に行くと「向こうで騒ぎが有ったと聞いてるが?」と言われたので「騒ぎが有ったので出て来た」と言うと「なるほど、それは難儀じゃったのう」と声を掛けてもらった……嘘は言ってない…。
宿屋を紹介されて宿泊の手続きを取ると直ぐに風呂に入り(と言っても魔導具水筒のシャワーでお湯を浴びただけだが)その後はとにかくゆっくり休んだ。
翌日、村で魔石を少し売りお金に替えた。
何かムカつくがもう終わった事だし、切り替えて行こう。
バリグナタの州都はココから大分離れているらしく、5つの村を経由して3ヶ月は掛かると言う。単純に2週間ぐらい掛かるのか…中々ハードモードだね。
それなら準備万端にと色々な店に行き食料を含めた備品を買い求めた。二人共に魔導具の鞄と袋が有るので多少荷物が多くても問題無い。
店で物を買う際にも情報収集は忘れない。食料品店で聞いた話ではこの先の村では胡椒が高値で売れると聞いて、小さい皮袋を大量に購入して宿に帰ってから二人で袋詰めした。
素材屋ではここから先のジャングルには昆虫などの節足動物の魔物が多くなると聞いた。表皮が硬い奴が多いので武器は予備を必ず持った方が良いという。魔物の中でもジャイアントスパイダーの素材は高値で売れるが、かなりの強さだから気を付けた方が良いと教えてくれた。また、アント類やビー類は数に注意しないと、後からワラワラ集まる習性があるのでなるべく狩らない方が良いと言われた。
俺達は素材屋のオヤジからのアドバイス通りに武具屋でアシュのおっちゃんはハルバートの手入れともう一本ハルバートを買っていた。俺は遺跡の金槌だから予備の問題無いので、ゴブリンキングとの戦闘で命を守ってくれた盾を見てもらう。
「坊や、こりゃあダメだ。このヒビが完全に中まで入ってる。つかこんなになるほどやられて良く無事だったな?」
「そっかあ…じゃあ手放すか…」
ゴンザレス隊長に貰った盾を手放す事になったよ…今までありがとうな…。
「新しい盾は居るか?今ならキラーアントの殼の盾があるぞ?」
キラーアントの殼の盾は軽くて丈夫なので、節足の魔物が多いこちらの地方ではポピュラーな盾だと言う。
俺とおっちゃんはキラーアントの盾を購入して店を出た。
そして色々な準備を整えた後、夕飯に入った食堂で食っている時にヤバい話を聞いた。
何でもリスカンドル州の州王が俺達を探しているらしい…チッ!めんどくせぇな!
この時は州王が怒って俺達を探し回ってるのだと勝手に誤解していて面倒だと思っていたのだ。
「こりゃあ早く出た方が良さそうだね〜」
「そうだな、面倒に巻き込まれる前に村を出るとしよう」
俺達は翌日、武具屋で手入れを頼んだおっちゃんのハルバートを受け取って直ぐに村を出た。
次の村まで2週間程かかるからもう少し休みたかったのになあ…。
俺はこの間のゴブリンキングとの一戦で防御に関して今の防御力ではこの先も何かと苦戦する事が考えられると思っていた。
先の戦いでもゴブリンキングはゴンザレス隊長と同じ様に『千仞(せんじん)』に足を取られずに渡って見せた。恐らく他のゴブリンがやられてるのを見て足下を魔力で硬化させたのだろう。つまりは初見殺しの様になったという事…見られれば対処される。
まあ、それは良い。
しかし、その後突破されると俺には魔法障壁と盾しか防御が無い。まだ身体の小さい俺にはかなりのリスクになってしまう。その為には何かしら考えるべきと思ったのだ。
簡単にやるならロックウォールを展開するのもアリだが、ゴブリンキングのあのパワーを見た後だと流石に考えてしまう。ロックウォールは硬度を増せば厚みや大きさが減少する。それは展開出来る質量が魔力により決まるので、後は密度の調節により硬化されるからである。
知っての通り俺は無駄に魔力量は多いが使える魔力は少ない。となればあのパワーを硬化させただけでは防ぎ切れないのも解ってしまう。それに硬度だけなら魔法障壁の方がずっと硬いのだ。
俺は考えを巡らせる…
そうだ……昔見た国民的人気の泥棒が出て来るアニメの中で、仲間の一人に鉄を斬る日本刀を持つサムライか出て来るが、その何でも斬ってしまうサムライが唯一斬れない物が有った…それはコンニャクである。
コンニャク……ブヨブヨ…つまりは斬撃の力を分散してしまう…そうだ!硬度を上げるのでは無く“下げる”のなら!?いつもやってるじゃないの…『千仞(せんじん)』で!
泥なら力を分散させられるんじゃないかと…そう、泥の壁を作れば良いじゃないか?
俺は早速、泥の壁を展開しようと色々やってみる。ロックウォールを泥に変えるのはそう難しくはない。だが、ロックウォールと千仞の2回魔法を展開する事になるので効率が悪い…。それならばと千仞を持ち上げるイメージを展開してみる。するとすんなりと展開されるので起動も速く効率も良い。
俺はコレを旅の途中ずっと練習を重ねた。
アシュのおっちゃんは最初「何やってんだ?」くらいの感じだったが、精度が上がってくるにつれ色々な手伝いもしてくれるようになった。風魔法の『ウィンドカッター』で泥の壁を攻撃してもらう、それで泥の硬度と軟度を調整して行った。
そのうち2週間はあっという間に過ぎて次の村に到着した。
村に到着すると村長さんの所に挨拶に行く。ここまではいつも通りだ。
今回は村長さんからちょっと面白い話を聞いた。それはこの村の近くにある遺跡に関する話である。
「坊やの持ってるそのヘルムは遺跡から出た物かな?」
「はい、懇意にしていた商人さんから購入しました。ココからはかなり遠い場所の遺跡ですね」
「…ではそのヘルムは商人から購入した物なのじゃな?」
「ええ、遺跡には入った事が無いので」
「うむ、嘘は言っておらぬようじゃな。実はこの村の近くに遺跡が有るのだが、入ったが最後今まで戻って来た者が居ないのじゃ…それでもし坊やが戻って来たのだとしたら他に人を見なかったかと思ってな…」
「遺跡の探索はかなりのリスクがあると聞いています。凄腕の冒険者で無ければ戻っては来れないと。入った方達は冒険者ですか?」
「いや…村の若い衆たちじゃ…」
「うーん…それははっきり言って難しいと思います。遺跡の探索ではまず罠を見破れる事と魔物を倒せる事、それを相当高いレベルで出来る冒険者達が、遺跡攻略の為の十分な装備を揃えて入り、それでも戻れるのはひと握りの者達だけと言う場所なのだと聞いております」
「そ、そうなのか!?…それではもう…」
「この村に冒険者は居ないのでしょうか?」
「遺跡が見つかった当初はかなりの冒険者が来ていたのだが…戻る者がほとんど居なかった事もあり段々と数も減ってしまったんじゃ…その戻って来た者達が坊やが持ってる様な物を持って帰って来た。だからもしやと思ったのじゃ…」
なるほど、遺跡の物は一見しただけでは汚い物にしか見えない。しかし魔力を目に集中出来る技能が有ると薄らと魔力の膜が見える。それを見た事があって遺跡の物だと知っていれば判断出来る。つまりはこの村長さんは魔力操作が出来る人なのだ。
ここまではアシュのおっちゃんが何かを考えていた様だったのだが、俺が黙っているとアシュのおっちゃんが村長さんにこう切り出した。
「遺跡に入って見て来ても構わんが…だが望みは持たんでくれ。裸で魔物の巣に行ったようなものだ。恐らく遺跡の中には遺体すら無いだろう…それでもと言うなら俺だけでも行こうか?」
「おっちゃん!危険過ぎるよ!一人はダメだ。どうしても行くなら俺も行くよ」
「まあ、遺跡ならば昔に入った事はあるからな…その時は5人で入ったが…」
「全く…そんなんでよく一人でとか言うね…」
「行って下さるか?」
「ああ、もし遺品でも持って来れれば…期待はしないでくれ」
「勿論じゃ…ワシらが無知過ぎたのじゃ…迷惑をかけてスマヌな…」
「この時にここに来たのも何かの巡り合わせであろう。済まないが用意して欲しいものが有る。それの用意だけは頼む」
「何なりと言ってくれ、全てはワシが揃えるでな」
「それともう1つ聞きたい事がある。本当に戻って来た者達は居なかったのだな?“死んだ者達も含めて”だ」
「ええ、勿論誰も戻って来ませぬよ死んだ者なら尚更…それが何か?」
「……いや、戻った者が何かをもっていなかったかと思ってな。手掛かりになるかも知れぬ」
「手掛かりは全て持って行かれましてな……」
「なるほど、そうだったな。良いのだ忘れてくれ」
おっちゃんと村長さんが必要な物を話している内に、俺はランドセルの中身を確認して置く。
暗視用のゴーグル、方位計、水筒、一応魔導ランタンも出して置く。魔導具結界、魔導鍋くらいで良いかな。
それにしても『眼』が居ないのは痛手だな…最悪アイツだけ行かせても良かったのに…まあ、無い物ねだりはしても無駄か。
それにしてもアシュのおっちゃんが引き受けるとは思わなかった…しかも遺跡に入った事が有るって聞いてないぞ?本当に大丈夫なのだろうか?
村長さんが言われた物を集めさせてる間に遺跡の場所を聞いておく。遺跡内部の地図か手掛かりのような物が有るかと尋ねると、若い衆が持って行ったと言う…まあ最悪の展開である。
食料品などもアシュのおっちゃんは用意させた様なのでそれを食えば良いかな。まあ食料品は魔導鞄の中に沢山有るから大丈夫なんだけどね。
全ての物が揃ったのでそのまま遺跡に案内して貰う。出口で待って貰う様になるけどその位はやんなさいよ。
遺跡の場所までは3時間ほどで到着するらしい。不思議だったのは遺跡が見つかったのがさほど前では無さそうな話だったのに随分と近い事だ。村長さん曰く「滅多に入る事の無い場所だった」と行っていたのだが…そんな事あるのかな?
俺は若干の違和感を持ちながらも注意しながら遺跡の方に向かう。
遺跡の入口に着くと何故か閉まっている。その時アシュのおっちゃんが小声で「やはりな…」と呟いていたのを聞き逃さなかった。やはりこの話には裏がありそうだ。
「私が開けるのでお二人で入って下さい」
「分かった。あ…村長に言伝を頼む」
「…何なりと…」
「オレ達が帰る前に“身の回りの準備を怠るな”と伝えてくれ。これは大事な事だからな」
案内人は能面の様な顔でこくりと頷いた。
俺達は遺跡の入口が開いたら直ぐに入り込む。そして前の方に行くと遺跡の入口が閉まって行くでは無いか!俺が戻ろうとするとアシュのおっちゃんが止める。
「おっちゃん!?」
「あれは放って置けばいい。それよりも閉じ込められた連中を探すぞ。オレの考えが当たっていればまだ生きてるはずだ」
おっちゃんは確信がある様にそう言い切った。
しばらく進んで行くと何体かの魔物の気配がする。その周りに罠の気配もしていた。
「おっちゃん、魔物が居るよ」
「その様だな…オレが倒す!」
そう言うとおっちゃんは一気に魔物の居る場所まで行くとハルバートでぶった斬る。魔物は簡単に倒れた。すると倒れた魔物が遺跡に飲まれていくでは無いか!!
「これが遺跡の浄化装置さ」
魔物が飲まれた後には魔石が残されていた。なるほど…ダンジョンぽい感じなのだね…ならばダンジョンコアとかもあるのかな??
そのまま奥に進んで行くと、人の気配がした。
「おっちゃん!人が居るよ!」
「良かった…間に合ったか…おーい!!」
すると数人の男達がやって来てこう言った。
「お前らも村長に閉じ込められたヤツか?」
何ですとおおぉぉ!!まさかの村長さん真犯人ッスかぁ?!つか違和感ありありだったもんね……。
「オレたちはあんた達を助けに来た。村長のやった事も分かっている」
「なっ、知ってて何故来たりしたんだ?!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。俺にも教えてくれよ〜何が何だか分からないよ!」
「ああ、済まなかった。村長はある嘘を言ってたから、この状況が単なる行方不明とは違う事に気が付いたんだ」
「嘘?」
「村長は『誰も戻って来ませぬよ、死んだ者なら尚更』と言ってたろう?そもそもそれが嘘なのさ」
「どういう事ですかね???」
「遺跡の内部で魔物が死ぬと吸収されるだろ?ところが人間が死ぬと入り口に吐き出されるのさ。ある条件の時以外はな…つまりはあの村長は嘘をついていたって事さ」
うそーん……マジですか??
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつもお読み頂きありがとうございます。
ラダルが装備している遺跡シリーズの出現する『遺跡』に遂に挑む事になります。
二人は遺跡で何を見るのか?そして何と戦う事になるのか……御期待下さい。
応援の方も沢山頂きましてありがとうございます。
引き続き宜しくお願いいたします。
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