第42話 リスカンドル顛末記

それから二週間後にやっと州都である『リスカンドル』に到着した。この州都を治めているのは州王であるデルナド=リスカンドルであり、この地はリスカンドル州となる。『太陽国ギスダル』にある20の州の一つで、昔はリスカンドル部族の支配地である。


『太陽国ギスダル』は20の部族が州王として各地を統治している。そして中央に有るのは太陽神エーカルを奉るエーカル教会が全部族をまとめ上げ、エーカル教会の教皇が議長となる合議制を取り太陽国としての大まかな事柄を決める。

ギスダルとはかつて部族同士の戦乱に明け暮れていたこの地を、太陽神の信仰でまとめ上げた初代教皇のギスダル=ランデルガの名前によるものだ。今の教皇は初代から数えて12代目だそうだ。


そしてリスカンドル州の州王であるデルナドはべダンより来た使者の話を聞き、ゴブリンキングを倒したというその冒険者二人を楽しみに待っていたのである。

俺達はベダン村から使者が立てられた事は知っていたが、まさか州王が直々に待っているとはつい知らず、州都の門までやって来た。衛兵の検閲を待つ間に俺はたまたま暑かったので装備を魔導鞄に入れていた。


「ベダン村からやって来ました」


「ん!ベダンだと?ではお前た……いやいや、子供連れではな……して何用で来た?」


「これから南東に向かって旅を続けるので、旅支度の為に色々と仕入れるのと、狩った魔物の素材や魔石を売りに来ました」


「そうか…村で何かしら貰っているか?」


「えーっと……あっ、そうだ!村長さんからこれ貰ってたね!」


俺が出したのは村長さんから旅の手形のような物だと木彫りの札を渡されていたのを思い出した。向こうではどんちゃん騒ぎだったのですっかり失念していたのだ。


「おお、それを持っているなら問題は無い。入ると良かろう」


「ありがとう御座います」


俺達は今までと同じく“普通”に街に入ってしまった。思えばここで俺達はミスをしたのかも知れない…。


そのまま入って先ずは宿屋を探す。金を払った後で宿屋では飯が出ないとの事で近所の食堂に行く。

俺はいつもの様に結界の魔導具を使って、脱いだ装備が入ったランドセルを隠した。


近所の食堂に入った俺たち二人はテーブル席に案内される。アシュのおっちゃんは酒を飲みながら、色々とツマミを頼む。俺は普通に飯を食う。あっ、このお店の料理美味いなあ〜。酒飲みたいけど何となく我慢…つか、頼んでも飲ましてくれないわな。

俺達はいつ州王様に会いに行こうか話し合ったが、とりあえずそんなに急がなくても報奨は逃げないだろって事で明日は場所だけでも確認しようと言う事になった。

その後も料理が美味かった事もあり、2人して楽しく過ごしたのでついつい長居をしてしまった。


酒を飲んでご機嫌なアシュのおっちゃんと料理が美味くて大満足だった俺が宿に戻ると、宿屋のオヤジが真っ青な顔して大騒ぎしている。


「おじさん、何かあったの?」


「おお!お客さん!荷物は無事かね?泥棒が入ったみたいなんだ!」


「ん?ホントに??う〜ん俺のは大丈夫だと思うけど…アシュのおっちゃんは?」


「俺はホレこの通り…全部持ってるぜ」


と魔導袋を見せた。全部入れて持ち歩いたのか…なるへそ……頭良いなあ。俺は結界の魔導具やってあるから問題無い筈だ。

俺が部屋に行くと結界は張ったままになっており、鍵で開けるとリュックや何やら全部無事だった。


「おじさん、俺も大丈夫だよ〜」


いきなり結界を解いたもんだから宿屋のおじさんはびっくりしてたよ。


「お、お客さん…大丈夫そうだね…良かった…」


でもかなりの部屋でやられたらしくそりゃあ蜂の巣突っついた様な大騒ぎになってた。宿屋のオヤジは真っ青な顔で衛兵に色々話している。そのうち被害にあった奴等が大騒ぎしだして寝るどころじゃない。


「これじゃあ寝れないね……」


「五月蝿くて仕方ねぇな……宿変えるか?」


俺達は騒ぎで寝れないし他の宿を探すとオヤジに言うと、宿の金が盗まれて返せないと言い出した。

俺達は衛兵にこの事を話して金をきっちり返してほしいと言うと「悪いが宿の主人とお前達で話をしろ」と取り合ってくれなかった。

するとアシュのおっちゃんは酒が入ってる事もあってか「ほう、この州都では金も返さないのがまかり通る場所なのか?泥棒はやり放題だしお前らちゃんと仕事してんのか?」と凄んだ。

すると怒った衛兵達がアシュのおっちゃんと喧嘩をしだした。

まあ、怒ったアシュのおっちゃんが衛兵をぶっ飛ばしてるのを俺は生温い目で見守っていた。

それなのに衛兵達が大人しく事を見守っていた俺にまで手を出そうとしたので、俺も頭に来て『陽炎』からの金槌を取り出して軽く殴ってやった。本気出したら死んじゃうからね!

俺にぶっ飛ばされた衛兵が仲間を呼び出して更に騒ぎが広がった。

そこに宿で盗まれた連中も「ふざけんな!衛兵がだらしねぇからだろ!!」と参戦した為に完全に収拾がつかない状況となり、最後は州兵達まで出張って来ての大騒ぎとなった。


俺達は結局、州兵から逃げ出す事になってしまった。暗い街を州兵達から隠れながら逃げる…コレって俺達が泥棒みたいじゃねーかよ!ふざけんなこのアホ共がっ!

それから一晩中追いかけ回された俺達は街の出口に着いたが、州兵達に取り囲まれた。


「おっちゃん、もうホントに頭にきた!俺は報奨金は要らねえわ!」


「おう!気が合うな、オレもそんなモン要らねえな!胸糞悪ぃ!!」


すると州兵のひとりが「何い?報奨金だと??」と聞いて来やがったから、俺は村長さんの手紙にゴブリンキングの魔石を包んでソイツにブン投げた!


「ゴブリンスレイヤーとして州王様から報奨金を受け取れるって話でわざわさやって来てやったが、お前ら州兵と衛兵の態度が悪りぃから、ゴブリンスレイヤーの称号も報奨金も要らねえと州王様に言っとけ!!分かったか!このボケどもが!!」


俺はそれを言うや否や閉まっていた城門にありったけの魔力を入れた金槌でフルスイングすると城門が爆発した様に吹っ飛んだ!!

そして俺達二人はそのまま走って逃走したのだった。


残された州兵達は城門を破壊された衝撃と、丁重に迎えるはずであったゴブリンスレイヤーの二人を追いかけ回していたと言う事実に完全に固まっていた。


「こ、これ一体どうするんだ?……」



州兵達が追いかけて来なかったので、俺達はようやく一息つくことが出来た。


「あ〜クッソ〜!何かスッキリしないけどまあいいか!」


「ちょっとやり過ぎた気はするが……もう終わった事だしな!とっとと先に行こうぜ!」


そうだ、俺達は旅人!次の街に行くだけさ!


「さてと……」


「おう……」


「次の街って……何処だっけ?」


「さ、さあ……」


州都で情報を聞けなかった俺達は、それから散々道に迷った挙句、次の村に着いたのが3週間も経った後だったよ……トホホ…。




◆◆◆◆◆




「ほう!ゴブリンキングを倒したとな!?」


ワシのところに来たべダンの使者がゴブリンキングや100体以上のゴブリンを倒したというのだ。いやいや、本当に素晴らしい。

ゴブリンキングは災厄である。放っておいたらとんでもない事になる所であった。まだ100体位なので出現したばかりであろうが、それでもたった二人で全滅させたと聞いてワシは心が躍った。

稀に見る素晴らしいゴブリンスレイヤー達である。褒美は何を獲らそうか…いや、もし叶うならワシの家臣にしたいのう……。

ワシは会うのが楽しみである。

兵達にワシはゴブリンスレイヤー達が来たら丁重にお迎えせよと申し付けた。


使者にはそのまま残ってもらう。来た時の首実検も兼ねてだ。そして村にもワシがどの様に歓待したのかを知らせて貰う為じゃ。

村長や村人達に対するワシの気遣いを見せる為でもある。村の英雄を無下に扱ったとなればワシの評判にも関わるからのう。


使者が来てからもう1週間…もうそろそろ来ても良い頃であろうが……城門の警備兵からはべダンから来たのは親子だけだと言う……明日には来るであろうよ。待ち遠しいのう。


ところが翌日、州兵の司令官が真っ青な顔をしてワシのところに駆け込んで来た。

司令官はワシにいきなり土下座をして事の詳細を話した。

事の発端は宿屋に泥棒が現れた事らしい。宿屋の主人がその二人から煩くて寝れない、宿を替えるから金を返せと言われたらしい。しかし金を盗まれて居た宿屋の主人は動転して金は払えないと言ったらしい。

それに対して衛兵に何とかする様に二人は頼んだのだが、衛兵達が取り合わなかった様だ。それに腹を立てた二人の内の大男が言った言葉に激怒した衛兵が手を出したらしい。それはもうとんでも無く強い男で衛兵達は手に負えなかったらしい。

そこで衛兵達が大人しくしていたもう一人の子供に手を出して返り討ちにされた様だ……相手はゴブリンスレイヤー達であり、さもあらん事である。

そこで衛兵が応援を呼んで騒ぎを大きくした挙句に、泥棒に盗まれた連中までが衛兵達に怒り出し騒ぎが拡大、遂に州兵達が出張る羽目となった。

泥棒に盗まれて暴れた連中は取り押さえたものの、その二人はそのまま遁走して夜中じゅう衛兵と州兵に追い回されたらしい。

そして朝方に門の前で追い詰められた二人は遂に堪忍袋の緒が切れたのだろう。


「ゴブリンスレイヤーとして州王様から報奨金を受け取れるって話でわざわさ来てやったが、お前ら州兵と衛兵の態度が悪りぃから、ゴブリンスレイヤーの称号も報奨金も要らねえと州王様に言っとけ!!分かったか!このボケどもが!!」


と言って村長からの手紙にゴブリンキングの魔石を包んで州兵に投げつけたと言う。


そしてその子供の方が持っていた杖で思いっきり門扉を殴り破壊して遁走したと言う……。


ワシは固まるしか無かった……一体どうしてこうなったのじゃ!!

我が領地の村を救った英雄達を、まさか激怒させるとは……。


ワシはすぐさま二人を探す様に言い付けたが何処をどの様に逃げたのか……ようとして行方が知れなかったと言う。


それだけ怒らせたのじゃ……最早戻って来ることは有るまいよ……。


ワシは激怒して最初に手を出した衛兵達をクビにしたがそんな事をした所で二人は戻って来ない……。


どうしてこうなった?ワシはどうしたらいいんじゃ?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




いつもお読み頂きありがとうございます。

ボタンの掛け違いって怖いもんですねぇ(すっとぼけ)

さて、ラダルとアシュトレイの冒険は次の州へと向かいます。

ここには何が待っているのでしょうか?

お楽しみに!!


皆様の応援を沢山頂きまして感謝しております。

更新頑張ります!!

宜しくお願いいたします。

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