第28話 久々の魔物狩りと戦闘訓練

俺が『ヘスティア食堂』から宿舎に戻ると、タイラー副長が呼んでると言われた。何だろう?俺何かしたかな?

とりあえず、タイラー副長の執務室に行く。


「副長!ラダル伍長です!」


「おっ!来たか!入ってくれ」


俺が部屋に入ると相変わらず書類の山でタイラー副長の姿が見えない…。もうこの人は登山家で良いんじゃないだろうか?


「失礼します!御用向きは何でしょうか?」


「まあ、そこのソファーに掛けてくれ」


俺は言われた通りにソファーに腰掛ける。

タイラー副長は書類の山の机の方からソファーの方に皮袋を持ってやって来た。


「あの魔剣の代金だ。取っておいてくれ」


俺は皮袋から金…じゃ無くて白金貨が出て来た…数えると30枚も出て来たよ!マジか!?


「え〜っと…何か物凄く多く無いっすかね?…俺このまま死ぬんすかね?!」


「何を大袈裟な…そんなモノだとクロイフから聞いたから間違いないぞ。俺的にはもう少し高くても良いと思ったんだが…」


「イヤイヤ!!コレで十分です!!」


「そうか?いやぁ、あの魔剣は中々の物だぞ。アレなら隊長の隣に居ても遜色無く戦えるからなあ。しかも金属と魔法が斬れるのが実に良い」


「副長に喜んで頂いたのなら良かったです。魔剣も喜ぶと思いますよ」


「それだけ有ればまた遺跡の奴が買えるだろう?もう全部揃えてしまえよ」


タイラー副長は笑いながらそう言った。う〜ん、確かにコレだけ有れば…ん?何かまた副長の掌の上の様な気がする…。


オレは書類登山に忙しい副長に挨拶をして執務室を出た。そうか…遺跡シリーズ買っちゃう??

とりあえずニヤニヤしながら部屋に戻った。


次の日は北の森に行って素材集め。

朝から向かって魔物を狩る。せっかくなので例の魔法障壁を試す事にした。

必要な素材を持つ魔物は狼と蜘蛛で、狼は爪と牙、蜘蛛は糸と毒である。


森に到着すると直ぐに【エナジードレイン】を魔物全てを指定して発動した。

先ずは蜘蛛の魔物を探す。蜘蛛の魔物からは糸を取らねばならない。糸は魔物が獲物を狩る際に出すので、生きてる内に吐き出させないと駄目なのだ。俺が気配を探るとデカいのが一匹ヒットする。急いて向かうと、丁度獲物を糸で絡めて捕まえた状態だ。ラッキー!!

俺は魔法障壁を展開して蜘蛛の魔物に近付くと、魔物はいきなり毒を吐いてきた!しかし魔法障壁に阻まれて俺には当たらない。うむ!中々良いぞこりゃあ…。

俺が『溶岩弾(マグマバレット)』を眉間にぶち込んでやると蜘蛛の魔物はあっさり倒れた。

そのまま頭の部分を慎重にミスリル製ナイフで解体すると、中から毒袋が綺麗に出て来たのでそのまま回収する。

次は糸だ。俺は獲物をグルグルと巻いた糸にゆっくりと魔力を入れて解いてゆく。解いた糸を小枝に綺麗に巻き取ってゆく。糸が多いので3つほど糸巻きが出来た。

ついでに脚を全部切り離して全部魔導鞄に突っ込む。因みにこの脚はカニの脚より美味い。まあ、カニはこの世界ではまだ未食なのだが…。

次は狼の魔物である。

【エナジードレイン】が効いて来て居るのか、小一時間ほど経った状態での範囲内全ての魔物達の動きが鈍くなっている。

そう言えば【エナジードレイン】で倒した敵も魔物も居ないので少し試してみる事にした。つまり、このまま何もしない。

俺は小さい魔導鍋に魔導水筒からお湯を出して沸騰手前でスイッチを切り、紅茶の茶葉を入れてじっくりと蒸らしてゆく。良い香りがしたらマグカップに茶こしを置いてから紅茶を入れる。

美味い紅茶を飲みながらじっくりと待つ。

それから2時間ほど経つとポツポツと魔力反応が消えてゆく。

俺の頭の中で赤い点から黒い点となった魔物達の反応を確認してからその場所に向かう。

魔物は確かに絶命していた…まるで眠る様に。お陰で『生命玉』はかなりデカくなった…ここら辺がそろそろ打ち止めかな?


ココでようやく俺は自らのとんでも無い失敗に気が付いた…【エナジードレイン】で指定した魔物の数は21匹である。広範囲に散らばってるその全部を解体回収する事になったのだ…。

俺はとにかく全ての魔物を順番に魔導鞄にぶち込んでやる。そして森の奥で必要な素材と肉、全部の魔石を取り出した後で穴を掘って全部放り込んでからファイヤーボールで燃やした後で埋め戻した…。

昼前に終わる様な簡単な事を丸一日掛かる大事にしてしまった…次からは色々と気を付けねば。


もう日が暮れて夜になった頃『ヘスティア食堂』にヘトヘトになって行くとアリシアが鬼の様な形相で仁王立ちして待っていた…。

「人を散々待たせて!」とか「全然心配なんてしてないんだからね!」とか散々怒られた挙句に素材を奪い取るとそのまま部屋に引っ込んでしまった。

「あらあら困った子ねぇ〜」と笑いながらマルソーさんが夜食を作ってくれて有難かった。何せ紅茶飲んだだけだったし…。流石に【エナジードレイン】の話は出来ないから「久々の魔物狩りについ夢中になり過ぎた」としか言えなかったからね…そりゃ怒るわな…。マルソーさんにはお詫びに蜘蛛の脚を半分渡したらエライ喜んでた。

そのまま宿舎に帰った俺は泥の様に眠った。


次の日は4番隊の演習で朝から行軍させられた…隊長は俺の行動を監視しててこんな鬼の様な事させるんですかね?!

バテバテで行軍してると隊長と副長から檄が飛んでくるしもう大変…。


昼飯には食べやすい物をとヘスティア師匠から習った、常備出来る薬草と魔物肉のペイストを使って、簡単なサンドウィッチを作って頬張った。


午後からは各自戦闘訓練なのだが、俺は隊長に呼び出され直々の戦闘模擬訓練を受けさせられる。前衛じゃ無い魔法兵の子供に訓練と称した虐待をするつもりだ…クソっ!殺す気か!!


「本気出して掛かって来いよ。どれだけ出来るか見てやる」


ムカー!!なら本気出したるわ!!

俺は『溶岩弾(マグマバレット)』からの『隠密』で素早く裏を取り遺跡の杖でぶん殴る!!が、隊長は金棒で難なくソレを受け止める。

俺は『千仞(せんじん)』で隊長の動きを止めようとしたが、隊長はその底なし沼に沈まずにジャンプして俺に攻撃をして来る!!えっ?ウソでしょ??アレ如何やったんだ??

俺は『陽炎』で当て難くして隊長が空振りをした直後に『溶岩弾(マグマバレット)』を撃ち込むがコレも金棒で避ける。そして避けざまに金棒のフルスイングが俺を襲った!!『カキーン!!』俺の魔法障壁が間一髪俺を防御すると隊長は流石に驚いた目で俺を見る。其処をすかさず遺跡の杖でフルスイングしたが、隊長の少しだけ本気で振った金棒とぶち当たってその反動で俺だけふっ飛んだ。


「チッ!相変わらず厄介な杖だな…少し本気出しちまったじゃねーか。それに今のは何だ?魔法障壁か?いつそんなもん覚えやがった?」


「ナイショです…」


「フン!まあ、コレだけ出来れば上等だろう…オイ!お前ら!魔法兵の子供(ガキ)がこんだけ出来るんだ!お前らもっとしっかりしろや!!」


と、騎馬隊と歩兵と槍隊の前衛軍団に檄を飛ばしてる…俺をダシに使うとは…ぐぬぬ…。


すると副長がニヤニヤしながらやって来た。さてはお主だな…隊長を唆した張本人は!!

俺が生温い目で副長を見ていると、笑いながらこう言った。


「そんな目で見るなって…お前は伍長なんだからこの位は軍の為にやらないとな。しかし、本気じゃ無かったとは言え、隊長相手に彼処までやれるとは予想外だったよ。最後は少し本気出たしな。それになかなか良いモノも見れたし…クックック…」


「って事はこの後はしっかり休めって事ですかね?!」


「それは後ろで怖い顔をしているあの人に聞いた方が良いぞ?」


「ラダル伍長、直ちに魔法兵の訓練に向かいますっ!」


俺は鬼にやられる前に逃げ出した。

その後、俺と隊長の模擬訓練を遠目で見ていたらしい魔法兵の皆さんが、魔力切れを起こすまでしっかりと魔法訓練を行った…俺は悪くない。


俺は暇になったので杖に魔力を込めて重くしてそれを振る。毎日少しずつ振っているので、限界まで重くしても持ち上がらないって事は無くなってる。まあ、そこまで重くするとまだまだ振り回されるけど。


その後、ゾンビの様に復活してきた魔法兵の何人かに何で接近戦にそれほど力を入れてるのかと聞かれた。


「俺達魔法兵の弱点を突こうとするならどうする?」


「それは…魔力切れを狙ったり…接近戦を挑んだり…?」


「そう。前衛の連中は俺達に魔力切れをさせて、接近戦を挑めば勝てると思い込んでる。逆に言うと魔法兵は接近戦だと負けると思い込んでるんだ。誰がそんな事決めたの?それは自分自身だよ。でもそれは各自の努力で如何とでもなる事だ。魔法兵が剣や槍が得意だって何の問題も無い。向こうが弱いと勝手に思い込んでるんだからソイツを逆手に取れば良いのさ。弱いはずの魔法兵に鋭い剣捌きで攻撃されたら?油断してる相手ほど術中にハマるよ。俺達にも接近戦は起こり得る…しかも、それは本当にヤバい時に…だ。その時生き残れる様に出来る事をするのは当たり前だ」


皆黙って聞いていた。俺はさらに続ける。


「では、何故、接近戦に力を入れてるのか?と聞いたよね?そこが既に間違ってる。俺は接近戦に力を入れてる訳じゃ無い。やれる事を”全部”やってるだけだよ。魔法も杖も両方ね。それは何故か?理由は簡単『死にたく無い』からだ。給金で酒を飲むのも遊ぶのも良いし、家族と暮らしてもに仕送りをしても良い。だけど其れは命あっての物種だ。だから俺はやれる事を”全部”やる。その為なら装備も揃えるし魔法も武器も使いこなすよ。だから皆も剣が振るえなきゃナイフを投げても良い、剣が怖けりゃ槍で刺しても良い。とにかく生き残る為の全てをやる事…ただそれだけ考えて欲しい」


それを聞いていたシュレンがボソッと俺に言った。


「伍長は一体いくつなんですかね?」


「俺、10歳」


「イヤイヤ、そんな10歳居ませんよ…普通」


クソっ!!イイ話してんのに邪魔しやがって!!皆、半笑いじゃねーか!!


「とにかく常に生き残る事を考えろ。走って逃げるなら持久力が必要だ。毎日走ってみろ、人より速く長く走れたら生き残る可能性が高くなる。剣を槍をナイフを練習してみろ、相手を倒せたり怪我をさせれば逃げれる可能性が高くなる。生き残る可能性はその積み重ねで決まるんだからさ」


するとパチパチと拍手をしながらタイラー副長がやって来た。


「お前達は良い話を聞いたな。そう、この訓練は軍の為だけにやってるんじゃない。ラダル伍長の言う通り、お前達個人が生き残る為でもあるんだ。その為の準備をするのは当たり前の事だとラダル伍長は言っているのさ」


タイラー副長は俺の頭に手を乗せながら更に続ける。


「こんな訓練をやっても、手を抜こうとすればいくらでも手は抜けるさ。でもな、手を抜かなかった地道な努力は、ここ一番ってトコで死ぬか生きるかに必ず現れるもんだ。生死の境でお前達に、死神が微笑みながら鎌を振るうのか…それとも目の前から姿を消すのか…その狭間で必ず役に立つ。確かに理不尽極まりないウチの隊長みたいなのに立ち向かう様な事もあるかも知れない…でも、自分の手札が沢山有れば勝つ事が出来なくても、逃げる事で命を拾えるかも知れない。さっきの隊長とラダル伍長の模擬戦を見たろう?

生き残る為に懸命にやる事に一切無駄な事は無いんだ。だからやる気のある者は応援するよ。接近戦を憶えたい者はいつでも相談に来ると良い」


皆は感心した様に副長のイイ話に頷いていた…中には「副長!オレ頑張る!」なんてのも居てさ…何かイイトコを全て持って行かれた様な気がする…ぐぬぬ…解せぬ。




◇◇◇◇◇◇◇◇




いつもお読み頂きありがとうございます。

遂に星の数も100を超えました。皆様の応援あってこそと本当に感謝しております。

次は順位100位以内を目標に!!更新頑張って行きます。

ご感想なども引き続き募集中でございます!

よろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る