第27話 ラダル、無事領都に戻る

カルディナス軍の凱旋に大いに湧いた領都は1週間もお祭り騒ぎだった。

何せローレシア軍の大将や名のある将軍を倒したのがカルディナス軍の隊長であったからである。

中でも大将を討ち取ったベイカー隊長は凱旋したその場で騎士将から騎士中将への昇格を侯爵閣下より言い渡された事もあり、時の人となっていた。もちろんウチの隊長もである。


俺はお祭り騒ぎを余所に祭りの途中で適当に抜け出て『ヘスティア食堂』に顔を出した。


「ラダル君!!お帰り!!」


とキッチンから飛び出して来たマルソーさんから熱い抱擁を受けた。マルソーさん…せっかく生きて帰って来たのにデカイ胸で窒息死しそうです……。


「活躍してたのはクロイフさんから聞いてたけどね…心配してたのよ〜」


「御心配お掛けしました。只今戻りました。食堂は如何でしたか?順調でしたか?」


「まあまあかしらね。特に変わった事も無いし…あっ、そう言えば2ヶ月前くらいにヘスティアが薬草を持ってやって来たのよ。ラダル君に会いたがってたけどね…」


「そうだったんだ…師匠に会いたかったなぁ…」


「ヘスティアが新しい料理も考えてくれたから、後で教えるわね」


「ホントに?!それは嬉しいなぁ〜!じゃあテズール商会に顔を出したら、夜にでも来ますね!」


「ええ、待ってるわ。その頃ならアリシアも帰ると思うわ」


「あっ、そう言えばアリシア居ませんね…何処か行ってるんですか?」


「あの子最近ね、薬草の事を習いに錬金術師の所に行ってるのよ」


「へえ〜アリシアが薬草をねぇ…」


「最初は料理で使う薬草を覚える為にこっそりと通ってたみたいなんだけど、段々と薬草の効能やら薬の生成とかの錬金術にも興味を持ったみたいでね。今ではこの時間は錬金術の先生の所に行ってるのよ」


「新しい事に興味を持ったのは良い事ですよ。ふむふむ…アリシアが錬金術かぁ〜」


「フフフ、ラダル君のお陰かしらね」


「俺の?そんな事無いでしょう。長続きすると良いけどなあ。じゃあまた夜に!」


『ヘスティア食堂』を出た俺はそのままテズール商会に向かった。運良く出掛けてたクロイフさんが帰って来たばかりだった。


「ラダル様!!良くご無事で…情報は入ってましたが…」


「只今戻りました。色々と御心配お掛けしました」


「いえいえ、隊長御二人の御活躍は元より、ラダル様のご活躍もお聞きしております。宮廷魔導師を間一髪で救った件やあの”魔導師殺し”カルバドスを捕縛した件も入って来ておりますぞ!」


うわ〜相変わらず情報早っ!!スパイでも潜り込ませてんのかな?


「その”魔導師殺し”と戦った時にココで購入した遺跡のガントレットのお陰で左手が失くならずに済みましたよ。無傷で帰って来れたのはクロイフさんのお陰です」


「な、何と!アレがお役に立てたのなら宜しゅうございました…しかし下取りしたガントレットもかなり良い物でしたが?」


「それが“魔導師殺し”の刀が遺跡から出た魔剣の類で、魔法と金属を斬る能力があった様なのです。クロイフさんに下取りして貰ったあのガントレットだったら、左手ごと俺自身が斬られてたのは間違いないです」


「そ、そうでしたか…しかしながら、それはあのガントレットを選ばれたラダル様の強運が有ってこそかと」


「強運…ねぇ…まあ、それは良しとして…コレなのですが…」


と魔導鞄から『お宝タイム』でせしめた色々な武具を出してみる。もちろんミスリル製のヘルムとガントレットと剣も出した。ヘルムとガントレットは遺跡の物があるし大丈夫だね。因みに鎧と膝当てと肘当ては保留です。

そしてミスリル製のナイフは持ち歩く事にした。魔物の解体に良さそうだからね。クロイフさんは揃えた武具を丹念に確認しながら値段をはじき出していた。


「急がないので魔導具と同じように来た時にでもいくら位で売れたかだけ教えて貰えれば。後はクロイフさんの取り分を差っ引いてもらって、お金は例の箱に均等割にして入れて置いて下さい」


「承知しました…ではいつも通りで。しかし、宜しいので?これだけ良い物が揃ってますと結構良い金額になりますが…」


「こちらの懐具合は大丈夫ですので……例の箱は貯めれる時に貯めとかないと…」


「なるほど……かしこまりました。お任せ下さい」


クロイフさんは店の人に言って武具を全部持って行かせる。相変わらずあの用心棒達は凄いなあ…ホントに何者なのだろう?


「魔導具の方もいくつか商談中ですのでご安心下さい。またご連絡差し上げます」


「そうですか、くれぐれもよろしくお願いしますね」


「お任せ下さい…後、ハンバーガーの件ですが、王都で支店を出した事もあり、売り上げはまだ上がってますので大丈夫かと」


「ほう、王都で人気が出ましたか。じゃあ暫くは大丈夫そうですね。まだ大丈夫だとは思いますが、くれぐれも辞め時だけ注意すれば宜しいかと……まあクロイフさんなら問題無いと思いますがね」


「心得ております。万事お任せ下さい」


クロイフさんには丸投げばっかりなんだが…まあ、専門家に任せるのが結局は火傷せずに済むからなぁ…。

俺はクロイフさんにもお土産を渡しておく。もちろん奥さんと愛娘の分も渡すとエラい喜んでいたよ。また婚約だのと言われる前に店を後にしたけどね!


一旦、宿舎に戻って支度してるとシュレンがやって来た。


「何処かまた行くのか?」


「うん、『ヘスティア食堂』の新しい料理をマルソーさんに試食がてら教えて貰いに行くんだ」


「ん?新しい料理?まさかヘスティアさん来てるんじゃ無いだろうな?」


「2ヶ月前に来てたらしいよ。その時新しい料理を覚えさせたらしい。残念だったね」


「2ヶ月前に…クソっ…もう少し早く帰って来れたら…」


「そんなに会いたきゃ軍辞めてウッドランドに行ったら?」


「そうか…なるほど。それも手だな…」


「但し、相手してくれるかどうかはまた別の話な?」


シュレンは「ウッ!」と唸ったまま動かなくなる…前の「ごめんなさい」返り討ちを思い出した様だな。フフフ…このたわけがっ!

固まってる残念なシュレンを置いて俺は『ヘスティア食堂』に向かった。


「いらっしゃ…ラダル!??」


「お、アリシア!久しぶりだな〜。なに錬金術にハマってるんだって?何か欲しいの有るなら言えよ〜。道具ならクロイフさんに頼んで揃えてやるからさ!」


「あっ!ラダル君〜いらっしゃい!準備は出来てるわよ〜」


「は〜い!今行きます〜」


「ちょ!ちょっと!!」


「ん?どした?」


「いつ帰ったのよ!!」


「何日か前に帰ったよ。凱旋したろ?見なかったのか?」


「そ、それは知ってるわよ!!そうじゃ無くて!!」


「ん?…あっ、ここ来たのは今日の昼前かな。あれ?マルソーさんから聞いてないの?」


「聞いてないわよ!!ちょっと!母さん!?」


「あら?言ったわよねぇ〜?…ん?言わなかったかしら…?」


マルソーさんの天然炸裂でアリシアはカウンターに突っ伏してた。何かスマンな…。


今回の料理に使う薬草は殆どが天日干しで乾燥させた物が使われていた。何でも乾燥させた方が味や風味が凝縮するらしい。余計な水分が抜けるからかな?ビタミン何かも入ってそう?

確かに少し噛むと採れたてよりも味や風味がハッキリしてる。コレなら薬草の賞味期限は延びるだろうから遠征の時には持ってこいだな。

今回の鳥料理の肝は薬草を粉状にした物を丁寧に油で塗り付けてから焼きを入れるトコかな。しっかり焼いて香ばしくしてから、水と薬草の組み合わせを入れてコトコトじっくりと煮込むと香辛料は入って無いのにスパイシーな感じになるのがとても不思議だ。

複雑な辛味と痺れで汗が出る。こりゃあインディカ米にとても合うね。前世で食べたあのパキスタンの料理にかなり似ている。もう亡くなったご店主が「タリバンも食ってた」とかって言ってたヤツな。

う〜ん、流石はヘスティア師匠。まさか俺の前世のツボを突いて来るとわ……。


その後、料理を囲みながらマルソーさんとアリシアに今回の遠征の話(中級魔導兵に絡まれた話とか最上宮廷魔導師の話が中心)とか魔導具屋でハカセから買った魔導鍋の話、遠征中に作った料理の話などを色々話した。

それから二人にランスロッテの街で購入したお土産も色々と渡した。もちろんヘスティア師匠の分も渡してある。

その後、アリシアの錬金術の話などを聞いてると欲しい素材があると言うので、明日にでも獲って来ようと話をした。多分、北の森で全部揃うはずだ。


明日の夕方にはまた顔を出すよと今日はお開きとなった。

素材集めの魔物狩りかあ…久しぶりだわ。




◇◇◇◇◇◇◇◇




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