第26話 ラダル、魔法障壁の腕輪を買い叩く

ランスロッテ領を王国の領土として占領する為に、ランスロッテ領内の街や村も王国軍が送られた。

そして国境になる領境にも王国軍が砦を作る為に送られていた。

そんな中、俺達カルディナス軍はランスロッテ城下の外側に駐屯する事となった。

大将と将軍の首を獲り大手柄を挙げたカルディナス軍に、王国は街の占領や砦の建設などをさせる事をさせなかったからである。

その為、城下街に入る事も許されていた。


そんなある日、俺はふらりと街の方に遊びに行った。

それは魔導具屋を見つける為である。アレほど美味しい思いをしたので掘り出し物があるんじゃないかと期待していたのだ。

街の人に聞くと装備を装着したまま来たので怖がりながらも子供と言う事もあり丁寧に教えてくれた。


教えて貰った魔導具屋を訪ねると、中から死に神ハカセみたいなのが出て来た。もう、この人が全部の魔導具を造ってますって事でも良いんじゃね?ってくらいハカセだ。そのハカセが俺を見るなりため息をついてこう言ってきた。


「此処は子供の来る様な店じゃ無い。帰りな…」


「まあ、そう言わずに魔導具を見させてよ。金は有るから安心してよ。そうだな…携帯出来る魔導鍋なんか有ると助かるんだが……」


「魔導鍋?子供が何に使うんだ?」


「あのさ、魔導鍋って言ったら料理に決まってんだろう?戦闘に使うか?被るのか?」


「被るか?ハハハ!そりゃあ良い!」


「馬鹿な事言ってないで出してよ。あっ…コレは持ってるから他の小さ目のが良いな」


と、俺は自分の魔導鍋を出す。しかも二種類。


「なっ…魔導鍋を持ってんのかい!?ん、その格好…王国軍か?」


「王国のカルディナス軍の魔法兵だよ。魔導鍋はいつも使ってるんだ。料理が好きなんでね、隊の皆に野営の時作ったりするんだ」


「料理が好きってだけで持てるほど安いもんじゃ無いぞ?貴族の倅か何かか?」


「いや、俺は農民の息子だが…今は伍長か。とにかく他のがあれば見せてくれよ」


ハカセは何かブツブツ言いながらも、奥の方から携帯出来る魔導鍋を何種類か持って来てくれた。


「魔導鍋で携帯出来るのはこの3種類だな。坊やが持ってんのが一番大きいのと中くらいだから、こっちに持って来たのは小型のヤツで、左から順に鍋の深さが小さくなる」


と、動かすと大きさは同じ小さ目の鍋の深さ違うのが3種類だ。


「一人か二人用なら一番右端のが軽いしオススメだが」


確かに二人までなら全然有りだな…軽そうだしね。


「これでいくら?」


「300金貨だ」


「おいおいぼったくりかよ…この程度なら良いとこ50だろ…そっちのでようやく100程度じゃねーの?あんまり無茶言うなし」


と、吹っ掛けてきたハカセに言ってやった。するとハカセは驚いた様な顔をしてから笑い出した。


「…クックック…子供のクセに値段まで判ってんのか。良し分かった!じゃあ客として認めようじゃ無いか。50金貨キッカリだ」


「じゃあ50金貨な。良い物を買えたよ」


俺が金貨を出すとハカセは1枚ずつ嬉しそうに数えて仕舞った。俺は此処からが本題なので話を振る。


「ローレシアは魔導具が盛んに造られてるの?」


「ああ、ローレシアは魔法を使う者が少ない土地柄だからな。魔導具の種類は王国よりは多いだろう」


「なるほど…じゃあ王国には無さそうな物も有りそうだなぁ」


「無さそうな物か…う〜んそうだな…そう言えば坊主は魔法兵って言ってたな?ちょっと珍しいのを持って来よう」


そう言うとハカセは奥の方から箱を持って来た。その中に入っていたのは腕時計を大きくした様な手首巻きの腕輪だった。


「コレは魔導兵用に造られた魔法障壁を出せる腕輪だ。魔石でも動くし魔力でも動く様になってる」


「へぇ~そりゃあ珍しいね。こんなの初めてだよ!」


「但し…魔力だと制御がかなり難しい。魔石だと1回使うと魔石が割れてしまう」


俺はちょっと興味を持った。制御が難しい物を使いこなすのには自信があったし得意だからだ。それに魔法障壁の様な身を守る物はナンボあっても良いですからね!

でもそうとはハカセに悟らせない様にガッカリした様に言う。


「え〜それじゃあダメじゃ無いですかぁ〜」


「う、うむ…まあ珍しいってだけだが…今なら特別に50金貨で売るが…」


「えええぇ…魔導鍋と一緒???帰りま〜す!!」


「ちょ、ちょっと話を…50の所を30でっ…」


「おじさん…もしかして不良在庫を押し付けようとしてない??」


とハカセをじぃ〜っと生温い目で見る。ハカセはそっと目をそらした。やっぱりそうか…このたぬきオヤジめ……。

俺はため息を吐きながら金貨2枚を出した。


「まあ、良い鍋も買えたし、今回は特別に2枚で買ってあげるよ!」


「くっ…やりにくいヤツだな!仕方ねぇな…持ってけ!但し使えないからって返品は無しだぞ!」


「もちろん。そんなの商売の鉄則でしょうが」


「おい、ホントに魔法兵か?お前、商売人じゃ無いのか??」


「一応、最初に言ったけど軍では伍長なんだけどさ。あっそうだ、魔導鞄の入荷は無い?」


「ん?魔導鞄??アレは俺達の所には滅多に来ないよ。魔導具師が貴族か大きな商会に直取引が普通だからな」


「なるほどね…こっちでもそうなんだ。有難う。良い買い物だったよ」


「ああ、また機会があれば来ると良い」


俺は魔導具屋を後にして、直ぐに駐屯地の自分のテントに戻る。

テントには例の結界が起動しているので簡単には入って来れない。

俺は早速腕輪を試す事にした。


その日…俺はその腕輪で魔法障壁を作り出す事は出来なかった…クソっ!


それから1週間、腕輪はウンともスンとも起動しなかった。ビックリするくらいに起動が難しい魔導具である。本当に動くのか魔石で試した所、直ぐに出現したが10秒くらいで魔石が割れた。効率はエラく悪いが一度だけなら致命傷を回避出来そうだ。


だが問題は其処じゃない。

せっかく魔力で使える物なのだから魔力で動かせてナンボである。俺は魔力と魔石で起動した時の魔力の流れを探った。30個くらい魔石を割った頃に、自分の魔力で動かす時だけにある魔力の特殊な流れがある事にようやく気が付いた。

この魔導具は魔石で動かす事を前提に造られた様に感じた。つまりは自分の魔力で動かすのは後付けされたのではと推察した。何故そのような真似をしたのかは不明だが……。

では何故そのように推察したのかと言うと、それは魔力の特殊な流れ方が一旦魔石の様な流れを形成しようとする事で気が付いたのだ。つまり其処で”タメ”を作らないと魔力がかき消えてしまうのだ。


コレを造ったヤツはある意味凄い天才だけど、間が抜けてるとしか言い様が無い。まさしく『残念な天才君』だね。これ程の技術力が有れば魔石とは別の起動方法で切り替える事は簡単に出来たはずである。それを何故、複雑にした挙句に使用者が限られる様な厄介な物にしたのか?しかも複雑な機構なのにも関わらず壊れ難いタフな出来なのだ…。

もし簡単に起動出来てたら、今頃はローレシア軍の将軍や千人将くらいの標準装備になってるだろうに…。もしこの魔導具の作者に会う事があったらどういうつもりでこんなクソ難しいモンにしたのか聞いてみたいもんだね。

全く理解に苦しむよ…。


それで俺は魔法障壁を作ろうと起動せずに、魔石の様な魔力を魔石が入る所に集中させる事をイメージして起動した。

それから2週間後にようやく1秒間だけ…でも始まりの1秒間…起動させる事に成功した。こんなにも苦労するとは思わなかったよ。


それから地道に寝る前と休みの日などを訓練に使って、少しずつ着実に腕を磨いていった。

そして、ようやく納得出来る起動速度と持続時間を得る事が出来た……努力は裏切らないのだ。

コレにより俺の防御力は飛躍的にアップしたのである。

カルディナス軍がランスロッテ城下から退却する事になったその日、もう5ヶ月が経とうとしていた。


俺達カルディナス軍はようやく遠征から帰る事が出来た。出立してから7ヶ月も経っていた。


はあ……しかし今回は長かったなあ……。

俺はランスロッテの城下町で土産物を沢山買って持って帰る事にした。

何せお宝はソコソコ集まったしね!




◇◇◇◇◇◇◇




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