第29話 『眼』と叙勲とアストレラからの提案

訓練が終わったのは2日後。

俺はテズール商会に向かっていた。今回も遺跡の何かを買おうと思っている。

手持ちは36白金貨である。

テズール商会に着くとクロイフさんに取り付きして貰ったのだが王都に向かっていた様で暫くは帰らないとの事だった。

う〜ん、残念…。


仕方無いので他の店なども回って見てみる。

遺跡の物は流石に置いてないかな…そう思いながら歩いていると、小さな店が目に入った。その店には小さく『トロンタ商会』と書いてあった。何を扱う店なのか…気になったので向かってみるとギッシリと色んな物が置いてある…よろず屋さんかな?。

俺が店の中に入って見てるけど声も掛けて来ない…客商売成り立ってんのかな?

本当に色んな物がある…しかも統一感無くバラバラに置いてある。こういう店に掘り出し物って有りそうだよね!

宝探しでもする様に熱心に見ているが、中々刺さる物が無い。でも諦めずにじっくりと探して行く…。


「何を探してるんかね?」


店のお爺さんなのか…いつの間にか側に来ていた。俺に気付かせないとは…中々やるな!


「もしかして遺跡から出た武具とか有るかなぁ〜って…無いですよねぇ〜?」


「…有るよ…」


爺さんは奥の方の隅っこを指差す。凄えホコリが被った…これ何だ?


「コレって何ですか?」


「…分からん…」


「は?」


「遺跡から出たが、何やら分からん…」


…とりあえず見てみよう。形は…真四角でルービックキューブ位の大きさだ。一面だけに、穴が空いている。遺跡の物かは魔力を通せば分かる。俺は魔力を通してみる…ん?魔力…は通らないぞ…何これ?


「爺さん、コレって本当に遺跡から出たの?」


「それは間違いない。ワシが持って来た奴じゃけんね」


「ワシがって…爺さん冒険者か何か?」


「昔の話だがね」


なら遺跡から出たのか…しかし魔力を必要としない遺跡の物なんて有るのかな?

その時、気配がした…このキューブから…どういうこっちゃ??


「おいくら?」


「いくら払うね?」


「…100銀貨」


「ほう…じゃあ持ってけね」


俺は100銀貨を払ってキューブを買った。それが高いか安いかは判らなかったが…何となく勘で買ってみた。

他にもあるかと聞いたら「それの使い方が解ったら来るじゃんね」と謎の言葉を言い残して店の奥に消えて行った…何その謎設定??


俺は店を出てから直ぐに森に入った。

ちょっと宿舎ではやりたくない事を試す為だ。

コイツは店で気配を出した。つまり…コイツは生き物かも知れないと言う事である。

其処でコイツに『生命玉』の力を入れてみようかと思ったのだ。

俺と『生命玉』は迷宮のペンダントを介して繋がっている。つまり、ペンダントを介せば他の物にも『生命玉』が使えるかも知れない。それの実験も兼ねて、コイツに生命エネルギーを入れてみる。

ペンダントをキューブに近付けるとキューブに反応が有った。俺はペンダントとキューブのパスを繋げてみる…するとキューブは『生命玉』の生命エネルギーを吸い出した。

そしてキューブがどんどんと色が黒くなっていく…コレって杖と同じ色じゃね?

突然キューブに吸われてた生命エネルギーが止まった。するとキューブがフワリと浮いた…そしてキューブはグルグル回る。

しばらく回っていたキューブだが、そのうちいきなりピタリと止まる。

それを何度も何度も繰り返す…何してんだ…コイツ…。

流石に飽きてきたので声を掛けてみた。


「そんなにグルグル回って目を回さないのか?」


するといきなりピタリと止まった。ん?コイツ聞こえてんのか?


《眼…無いの…》


「眼?眼を探してグルグル回ってたのか?」


《眼が無いから何も見えないの…》


「お前は何者だ?」


《我は眼なの…》


「眼?何の?」


《眼は眼なの…》


埒が明かねーわ!!とにかくもう一回爺さんのトコ行かねえと…。俺はコイツをリュックに入れた。魔導鞄に入らなかった為だ。つまりコイツは生き物として認識されてるって事である。まあ、『生命玉』からエネルギー取ったからね。

森の奥から急いて『トロンタ商会』に向かった。すると爺さんが待っていた…何で??


「使い方解ったね?」


俺はリュックから『眼』を取り出した。


「眼が無いって言ってる」


すると爺さんが箱をポケットから出した。そして箱を開けると円柱状の短い棒が入っていた。


「コッチ側を差し込むね」


俺に手渡して来たのでキューブの穴の場所に棒を差し込むとピタリとハマる。その棒の先は半円形になっていたが、ハメた途端にそれが開いた…ん〜確かに眼に見えなくは無い。


《眼が元に戻ったの》


「爺さん、一体これ何?」


「…分からんね…」


知らねーのかよ!!ここまで引っ張っといて結局知らねーのかよ!!


《だから眼だと言ってるの》


トンチかな?いつから俺は一休さんになったんだ?一休みするかな…ってこの野郎!!

すると俺の頭の中にいきなり俺の…顔…らしいのが映し出される。俺ってこんな顔してたっけな?


《眼で色々と見えるの》


そうか!コレはカメラだ!しかも浮いてるから…そう、カメラ付きドローンだ!


「俺の言う通りに動くのか?」


《眼だから見たいと思えば見れるの》


俺は上空からのイメージを出してみるとキューブはスッと上空に上がり、してたっけなからのイメージを俺に送ってくる。しかもズームも出来る!!こりゃあ高性能じゃねーか!!


「爺さん!コレ!」


俺は爺さんに1白金貨を手渡した。爺さんは目を大きく見開いてビックリしてた様だ。だがコイツはその位の価値がある。気配だけで無く視覚で見れるのは軍に所属する者としては非常に有益である。


「爺さん他に隠し持ってるのある?」


「…もう無いじゃんね」


「因みにコイツは何て遺跡で手に入れたの?」


「アルテラ遺跡じゃんね」


「へぇ~アルテラかあ…杖も確かアルテラだったな…」


「杖?もしかして奥宮から出たあの杖かね?」


「えっ?爺さん…この杖知ってるの?」


と俺は魔導鞄から杖を出して見せた。爺さんは頷きながら懐かしそうに見ていた。


「この杖を何処で手に入れたね?」


俺は爺さんに城塞都市カロスの魔導具屋の元貴族の話をした。それを聞いた爺さんは「ああ…やっぱり坊ちゃん廃嫡されたじゃんね…」とあのアホを知ってる風だった。って事はこの爺さんは凄腕の冒険者で、貴族のパトロンを持ってたって事か。なるほど気配もさせずに俺の側へ来れる訳だ。

爺さんには他に遺跡の物は無いかと聞いてみたがもう無いと言っていた…まだ隠し持ってそうだが…。

帰りに「また、来るじゃんね」と言っていたから、気が向いたら出してくれるかも知れないな。


こうして俺はまさかの当たりクジを引いてホクホク顔で宿舎に戻った。


因みに俺と繋がってる事と『眼』が闇属性だった事もあり(だから俺の『生命玉』からパスを繋げられた)、闇魔法を使えるとかで、『陽炎』と『隠密』が使用可能らしい。其処で基本的には『隠密』掛けっぱなしで空中監視をする事をさせている。

因みに『眼』は5キロ先までは俺に画像を送れる事までは調べてある。


その後、2番隊のベイカー隊長とゴンサレス隊長が叙勲を受けるとの事で王都に行く際に俺まで呼び出された。何でも最上宮廷魔導師である『爆炎のアストレラ』の窮地を救った事で叙勲されるらしい…面倒な事になりそうだなぁ…。

王都までは馬車で行く事になっている。村から出た時に乗って以来かな…。

到着した王都は…ものすげーデカかった。


コレ全部回るだけでも何週間か必要でしょ?呆れる程デカい…。

完全なお登りさん状態の俺は、コッソリと『眼』を空中に飛ばして下を見てたんだけど、上にも結界が張ってあって当たりそうになりかなりヤバかった。当たりそうになった時に「へっ?!」って変な声を出したもんだから、ゴンサレス隊長に「お前…また変な事したら分かってんだろうな?」なんて怖い顔で脅された。まあまあとか優しくしてくれたベイカー隊長の隊に移籍して良いですかね?トレードとか無いんですかね?!


俺は叙勲と言っても下から数えた方が…いや、思ってたよりも上だったけど…他にも貰う人が何人か居るので、王様から直接貰う訳では無い。その他大勢なのでその点は安心だ。

念の為に『眼』は王城の外側に浮かばせて置いた。着けて来た武具は預けられて、何かメイドさんにお着替えさせられて、完全にお坊っちゃんみたいにさせられた。

部屋から出るとベイカー隊長とゴンサレス隊長も正装してたが、ガタイが良過ぎて似合わない事…プププッ。


「お前の考えてる事はお見透しだからな。きっちりとイワしてやるから覚悟しとけよ」


とゴンサレス隊長に凄まれた。俺、このまま逃亡しても良いですかね??


正直、式典はずっと頭を下げてたし王様の声も離れすぎて聞こえないしで、何だか分からん内に終わった。

式典が終わってそのまま隊長達と帰ろうとするとアストレラ様がやって来た…チッ…。


「ラダル伍長を少しお借りしたいのですが…」


「どうぞどうぞ。ラダル、くれぐれも失礼の無い様にな!!」


ゴンサレス隊長はにこやかな顔で許可を出す。チッ…余計な事を…このまま帰れば問題も起きないのに。

俺はアストレラ様に連れられてとある部屋に入った。どうやらこの部屋はアストレラ様の執務室の様だ。


「アストレラ様、お久しぶりで御座います。この度の過分なる御配慮を賜り…感謝しきれませぬ。有難う御座いました」


「良いのだラダル殿。私の生命が有るのもラダル殿のお陰ですから。本来であればもっと上の叙勲でも宜しかったのです…しかし、カルディナス侯爵家ばかりが叙勲されるのは不公平と言う馬鹿者が居たのでな…済まない事をした」


「とんでも無い!充分ですよ!」


「そうか?ラダル殿がそう言うなら…コチラとしては甚だ不本意だが…」


「ところで…ご用向きは何でしょうか?」


「おお!そうであったな。実はなまだ正式発表はまだ先なのだが…王国で『魔導研究調査室』の発足が決まってな。其処に出向の形で来て欲しいのじゃ」


ほら来たぞ…なんかヤバそうな気しかしないが…。


「その…魔導研究調査室は何をする所なのでしょう?」


「魔術に関する古文書や遺跡或いは迷宮などの遺物の回収と研究調査を行う機関だ。王家直轄の機関となる。ラダル殿には古文書や遺物の回収を主に担って欲しいのだ」


「ほう…その様な機関が…しかしそれならば私の様な兵士よりも冒険者の方が適任では?」


「ラダル殿の資質ならばそこらの冒険者など足元にも及ばぬよ。勿論、なう手の冒険者への打診や他の貴族からも出向者をお願いする予定なのだが…今の所、研究開発室からの出向も合わせて20名程を考えておる。無論、カルディナス侯爵閣下には王家より正式に”招集依頼”と言う形になるのだが、その前に予めラダル殿には話して置こうと思ってな」


オイオイ…コレってもう決定事項なのかよ??ヤバいな…王家の名前を出して来やがった…。


「その様な重大な任務は俺にはとてもとても…素人魔法兵には無理かと思われます。何卒ご再考をお願いします」


「まあ、そう言うな。君にとってもカルディナス侯爵家にとっても悪い話では無い。何せコレは王家と繋がりを直接持てる事になるのだからな」


「貴族でもない俺には尚更無理かと。重ねてご再考をお願いします…」


「まあまあ、調整等色々有るので時間はまだまだ有る。だからじっくりと考えて欲しい。ラダル殿には是非受けて欲しいのだ」


あ〜面倒臭い事になった…しかし上手い事考えやがったな。カルディナス侯爵家よりの出向の形を取るならカルディナス侯爵閣下には筋を通す事となるし、王命となれば閣下に断る隙を与えない…こりゃあ最悪何処かに逃げる手も考えないとな…。


話が終わるとそのまま馬車に乗せられて今日の宿に入った。色々と考えを巡らせて居ると、ゴンサレス隊長がやって来た。


「何かあった様な顔だな?」


俺はアストレラ様の話した件を相談した。ゴンサレス隊長も流石に渋い顔になったな。


「それは厄介だな…簡単に言うと閣下は断れない」


「デスヨネ…」


「タイラーに相談してみよう。アレなら何か考え付くかもしれん」


う〜ん…軍師殿の奇策に賭けるしかないか…。




◇◇◇◇◇◇◇◇




いつもお読み頂きありがとうございます。

今回新キャラの『眼』が出て来ました。『眼』はこれからラダルの冒険に欠かせない重要なキャラの位置づけになっております。

皆様の応援、本当に力になっています。

引き続きよろしくお願いします。

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