第24話 大男二人とアイアンクロー

『ゴンサレス隊長にヤラれたアイアンクローの後遺症で休もうとしたら、ゲリラ戦の部隊に入れられていた…。』



何を言ってるのか分からないかもしれないが、俺も良く分かってない。

タイラー副長に聞くと「隊長が、警護に飽きたってさ」と言われた。何だそりゃ!?小学生のワガママですかね?

ローレシア軍はウチの魔導師団の魔法を避ける為に森の方に後退したので、それをゲリラ戦で少しずつ削ってやろうという事らしい。不敗のお爺ちゃんは中々嫌らしい手口を使うね。

んで警護に飽きた隊長がその策に乗ったらしい。

策と言っても二十名くらいの斥候に化けた囮の連中が敵の小隊くらいを誘き出して、それを隊長がぶん殴ると言うシンプルな作戦だ…マジかよ…。


しばらく待っていると斥候役の連中が死に物狂いで逃げ帰って来た!!スゲェキツそう!!もう少しだ!頑張れ!頑張れ!


まずは歩兵がガッチリとやって来た敵兵をブロックしている。斥候役は何とか逃げ切った様だ。良かった良かった。コッチがドキドキしちまったよ!そんな俺も最近酷い目にしか遭ってないからテンション高めだぞー!!


「ラダル!!行けるか?!」


タイラー副長の声に俺は応える。


「あいよ!それ!『溶岩砲(マグマキャノン)』!!」


俺が杖で地面をぶっ叩くとその先からスイカ位の溶岩が200mぐらい先の敵陣に飛んでゆく。

どうやら敵陣の歩兵に着弾した様だ。

歩兵に当たった溶岩はその場に飛び散り更に被害を与える。


「よ〜し!そろそろ向こうの騎兵が来るぞ!槍隊構えろ!!」


奮戦している最前線の味方の歩兵を薙ぎ倒して騎兵が抜け出して来た。

俺は抜け出して来た敵騎兵を仕留める為に十分に引き付ける。

そして、後50mと言う所で魔法を繰り出す。


「喰らえ!『千仞(せんじん)』!!」


すると騎兵のすぐ前に2m☓6mの底なし沼が生成された…深さは2mだ。

当然、先頭の騎兵が底なし沼にハマる。そして次々と騎兵が連鎖して将棋倒しの様にぶっ倒れていく。

俺はその混乱のど真ん中に『溶岩砲(マグマキャノン)』を容赦無く撃ち込んでいく。


「よし!!槍隊突っ込め!!!」


大混乱を起こしている敵騎兵に槍隊が突っ込むのを見ながら良い頃合いに『千仞(せんじん)』を解除すると、『溶岩弾(マグマバレット)』で難から逃れた敵騎兵を狙撃して槍隊のサポートをする。

粗方片付いた後で前方の最前線を見遣ると、戦馬に乗ったウチの隊長が鬼神の如く巨大な赤い金棒をブン回して敵歩兵や騎兵を薙ぎ倒している。

俺はそのサポートに『溶岩弾(マグマバレット)』を撃ち込んで行く。


どうやらコッチ側は優勢に戦を進めている。他も何とか頑張ってるみたいだな…そろそろ敵さんが引き上げる頃合いだな。


「引けええ!!」


デカい声で敵将らしいのが敵兵達に声を掛けている。

俺は隊長がそいつに向かったのを見て『溶岩弾(マグマバレット)』をその敵将らしいのに撃ち込む。

敵将らしいのが最初の『溶岩弾(マグマバレット)』に気付いて剣で払ったが、飛び散った溶岩が戦馬や自分にかかり火傷を負ってバランスを崩している。

其処に連射した2発目が敵将の左肩にブチ当たる。敵将が戦馬から落ちた所に隊長が到着し赤い金棒で敵将を殴り潰した。


「敵将を討ち取ったぞ!!」


その声を合図に俺達の隊は逃げ惑う敵兵を追撃して行く。

こちらの隊が完全に敵陣を崩し、追撃戦になった事で敵陣は総崩れとなって撤退する事となった様だ。


俺達は倒した敵兵から装備や金目の物を拾って行く。『お宝タイム』コレが大事な収入源だからな…俺には少し大きい皮靴や脛当て、鎖帷子とデカい鉄の盾を拾って大喜びで戻る。

すると其処に隊長のゴンザレスに呼び止められた。


「ラダル…オマエは魔法兵なんだからそんなデカい盾要らねえだろ??」


隊長のゴンザレスに苦笑されながらそう言われる。

俺はそんな隊長にチッチッチと人差し指を振りながら言う。


「隊長、分かってないですねぇ〜。大きな盾は弓矢の攻撃から俺を守ってくれるのですよ!」


「バカタレ!そんな事は分かってらぁ〜。でもソレじゃあクソ重いだろが!そんなの持って走れんのか?ゴルァ!!」


ううう…そう言われると確かに隊長の言う様にかなり重い…俺の小さい身体では常に身体強化してないと駄目かも…ちょっとキツいかな。

するとゴンザレス隊長は俺の盾をひょいと取り上げて、その盾よりずっと小さくて丸い鉄の盾を俺の前に放り投げる。


「ソイツは敵将の持ってた盾だ。そっちの方が軽くて使いやすいだろ」


確かに俺が使うには悪くないサイズだな…でも敵将のだとかなり良い物なのではないかな?


「えっと…良いんですか?結構良い物みたいですけど…」


「敵将はお前のクソ熱いバレット喰らって殆ど相手にならなかったからな。お前が倒したようなもんだ。だからコイツと交換してやる、大事に使えや!」


「はは〜〜っ、有り難き幸せ。大事につかいまするぅ〜」


「何が『はは〜っ』だ!オマエは貴族かよ!バカタレが!」


すると周りの兵士達か笑い出した。

タイラー副長はやれやれという顔をしている。

解せぬ…。


こうして俺達ゴンザレス隊長率いるカルディナス伯爵領軍”4番隊”はこの日も被害は少なく死人は出なかった。

そんなゴンザレス隊長しか得をしない作戦を何度となくやらされて大変だったのは誘き寄せる斥候役の連中だ。

最後の方では「もう勘弁してくれえぇぇ!!」と俺たちから逃げようとする者が現れた為に一旦終了となった。

つか一旦って何だ?もう終わりにしてやんなさいよ!!

それでも連戦連勝で終わったので他の面々は士気が高かった。

そのまま意気揚々と帰ると逆方面で同じ様な作戦をやっていた2番隊の小隊と出くわした。


「ゴンサレス。首尾はどうだ?」


「おう、向こうの小隊の指揮官を潰したくらいかな。300くらい居たかってトコを4つだ」


「何だ、俺のトコと大して変わらないな。もう少し引っ張りたい所だが…斥候役がキツそうで止めたよ。まあ、中々上手く行かんな」


「仕方ねぇさ、相手あっての物種だ。そのうち焦れてでっかく仕掛けてくるだろ?」


「うむ、それまで我慢かな。早目に焦れてくれると良いがな。でないとコチラが焦れてくるよ」


そう言って2番隊の隊長は苦笑していた。

2番隊隊長のベイカー=マキシマムは”剛牙”というデカい鉾を使う大男だ。ウチの隊長とは同期の桜ってヤツで王都の学院に居た頃から常にライバルであり、そして仲の良い存在である。その当時の王都の学院では2人は有名人で『暴獣コンビ』とか言われていたらしい……。その破天荒な振る舞いをする2人をどういう訳かカルディナス卿が気に入って、止めようとした側近達をなだめて2人をスカウトしたのだという。結果として2人はカルディナス軍のエースとなった訳で閣下の人を見る目はかなりのものである。

そういった訳でウチの隊長が派手に活躍するから隠れ気味ではあるが、実はウチの隊長と全く引けを取らない戦闘力を持つ超化け物である。

重装歩兵を巧みに操り敵陣に突っ込ませては、重騎兵で真ん中をぶち破って敵将を倒すというストロングスタイルで、常に安定した勝利をもたらすカルディナス軍の”軍神”である。

そんなベイカー隊長が俺の姿を見付けると近付いて来た。


「おっ、ゴンサレスのトコの問題児。元気にしてる様だな」


「何か物凄く大きな誤解がある様ですが…お久しぶりですベイカー隊長。小生こう見えても元気は余り無いのですが…」


「ん?どうした?体調でも悪いのか?」


「実は……2、3日前に物凄い大男にこめかみを掴まれてヤラれたので…その後遺症が…」


「ブハハハ!!それはお前が心配掛けるからだろう。少しは自重すると良いぞ」


そんな軽いアメリカンジョークを交えながら談笑していると、その大男が俺の方にやって来たので、すかさずベイカー隊長の後ろに隠れる。おまわりさん!あの大男です!


「隠れてるぞ!ハッハッハ!ゴンザレスもあまりやり過ぎるなよ!ハッハッハ!」


「チッ……オマエも懲りないな…帰ったら憶えてろよ」


何か死刑宣告みたいのを受けた気がするんですけど!!気のせいですかね??


「お前は随分と気に入られてるみたいじゃないか。ああ見えて気に入らないヤツとは話もせんからな。まあ、大変だろうが相手をしてやれ…フハハハハ!!」


ベイカー隊長は紳士だなぁ……それに引き換え同じ大男なのにどうしてこんなに違うんですかね!?


そして帰ってからまた俺はアイアンクローの刑を食らった。

コレって相撲で言うかわいがりですかね!?

俺でストレス発散してるとかじゃないですよね!?



◇◇◇◇◇◇◇◇



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