第23話 誤解とアストレラの思惑

何か訳も分からずに炎帥魔導師団の中級魔導兵二人に連行された俺は、この二人から訳の分からない尋問を受ける事となった。


「貴様が伏兵の協力者だろ!!大人しく白状しろ!!」


「イヤ、だからね…何度も言ってますけど、俺達が殺したり捕縛したのに意味無いでしょ?言ってておかしいの分かりませんか?」


「貴様!!我等を愚弄するか!!」


「俺の方が散々愚弄されてんですけど?」


「何を!!」


「そもそも誰の命令でこんな事をしてるんです?」


「それは上官に決まっておるわ!!」


「まさか、アストレラ様じゃ無いですよね?」


「アストレラ様に決まっておるだろうが!!」


「ふ〜ん。命を助けた人間にこういう事をする人なのか…イメージと随分違うなぁ」


「貴様…アストレラ様を愚弄するか!!」


「じゃあお聞きしますが、カルディナス侯爵閣下はこの件に関してご存知なのですか?」


「そんなモノは必要無い!我々は王家直轄の部隊である!!」


「あのね、俺がカルディナス侯爵閣下の部下って事は分かります?」


「だから関係無いと言っておるだろう!!」


「関係大ありでね、俺はカルディナス侯爵閣下の部下で、王国軍に雇われてる訳じゃ無いの。だからカルディナス侯爵閣下をすっ飛ばして俺をどうこうする権利はあんた等には無いの。こんな事常識でしょうが。とりあえずこの件は侯爵閣下に報告します」


俺が出て行こうとすると二人の魔力が膨れ上がる。俺は『隠密』を使って二人の後ろに移動して二人の首元に『溶岩弾(マグマバレット)』を起動したまま構える。


「先に魔力を放出したのはそっちだ。死んでも文句は言えないよ…まあ死ねばそもそも喋れないけどね」


するとテントの中に人がなだれ込んで来た。


「貴様!何をしている!!」


コイツ等の上官かな?また厄介のが来たと思ったらその後に元凶のアストレラ様がいらっしゃいましたよ。


「何が如何なっている??状況を報告しなさい」


何か風向きが変わった気がしたので魔法は消してやった。


「はっ、この者に尋問をした所、反抗的態度を取った為に鎮圧すべく…」


「何を言ってるんだ貴様等は!!誰がこのような事を指示したのだ!?」


アストレラ様が怒っている…こいつ等やっちまった感じじゃね?


「わ、我々は連行しろと命令を…」


「私はラダル伍長を連れて来てくれと言っただけだ!何故連行するなどと…そもそもラダル伍長はカルディナス侯爵閣下の部下だぞ!!貴様等に連行する権利など無いわ!そんな事も知らぬのか!!」


「も、申し訳ありません…」


アストレラ様は俺に頭を下げてこう言った。


「迷惑を掛けた…何か話の行き違いが有った様だ。私は礼を言いたかっただけなのだが…この馬鹿共が…」


「そう言う事なら問題ありません。但し、彼等のカルディナス侯爵閣下に対しての無礼は報告せねばなりません。が、俺から言うよりアストレラ様から言われた方が誤解も解きやすいかと存じます」


「うむ、それが良いだろうな。早速詫びに向かうとしよう。しかし、此処まで無礼を働かれて尚此方の立場を考えてくれるとは…この馬鹿共に見習わせたいものだ」


などと言っているとカルディナス侯爵閣下とゴンサレス隊長が現れた。


「ウチのラダルが何か?」


そこで行き違いにより無礼を働いた事とカルディナス侯爵閣下に対する無礼な行為を丁寧に説明されたアストレラ様はカルディナス侯爵閣下に謝罪をした。


「アストレラ様、面をお上げ下さい。謝罪はお受けいたします。今回の件は何も無かったと致しましょう。ラダルも良いな?」


「はっ、閣下の仰せのままに」


「カルディナス侯爵閣下のお気遣いに感謝致します。そしてラダル殿、改めて命を助けてくれた件の礼と話などを聞きたいのだが、私の天幕まで来てくれぬか?」


「ラダル、行って参れ。失礼の無い様にな」


「はっ、承知致しました」



アストレラ様に付いて行き天幕で改めて話しをする事となる。

お付きのメイドさんにテーブルへ案内されてお茶などを出して貰う。


「この度は本当に助かった。戦場だけで無く今の不始末の件でもな。本当に感謝する」


「もう、今の件は忘れて下さい。閣下もその様に仰いましたので…戦場の件は自分の仕事を遂行したまでですので…」


「それでもじゃ。他の部隊では死人まで出ておるし、宮廷魔導師が怪我まで負った。そちの働きは陛下にも話す故、何れ何かしらの褒美も出よう」


「あ、いや…その様な…恐縮です」


「しかし、他の魔法兵もそうだがカルディナス軍の魔法兵の起動の速さは異常だな。その中でもラダル殿の無詠唱と起動の速さは群を抜いておるが…」


「カルディナス軍の魔法兵には起動を速くさせる指導をしております。無詠唱も覚えた者も出て来ております」


「ほう、ではラダル殿が指導を?」


「はい、最初は自分の隊を、その後他の部隊からも依頼がありまして指導しました」


「なるほど…しかし、何故無詠唱を?」


「はい、村で魔物を狩っていたのですが、魔物に逃げられずに狩る為には魔法を速く撃てる事が重要だと考えた為です。起動を速くすれば連射も出来ます。その為に魔力移動と魔力操作を出来るだけ早く行える様に徹底的に訓練しました。詠唱も無駄なので少しづつ削って最終的に無詠唱を会得しました」


「詠唱は無駄か…フフフ、なるほど。ラダル殿はかなりの合理主義だな」


「合理的と言いますと、起動を早くする事で魔力の温存にも寄与する事が解りました。魔力使用の効率化により無駄に消費していた魔力を減らせた為です」


「な、何と…それは真か?」


「はい、自分の隊の魔法兵は5発しか撃てなかった者が今は8発撃てる様になり、更に飛距離も伸びました」


「それは凄い…我々も起動時間を短縮させるべきか…」


「う〜ん…それはかなり難しいかも知れません」


「何故だ?我々では無理と申すか?」


「いいえ、不可能では有りません。しかし我等魔法兵の魔力は少ないので魔力移動や魔力操作を速く制御しやすいかと。魔力が大きくなればなるほど制御は困難になるのです。ですから時間がかなり掛かると推察します」


「なるほど即効性に欠けると言う事かな?」


「その通りです。但し年単位で地道に出来れば効果は現れると思います。但し、その苦行に耐えられればの話ですが」


「地道な努力は難しいと申すか?」


「はい、恐れながら魔導兵と言うのは選ばれた天才です。天才故に結果が直ぐ出ない事で挫折する可能性が高いかと。我等でさえも結果が出たからこそ頑張れた者が多かった事を考えるに、結果が出ずにひたすらやれるのか…かなり難しいと思います」


「うむ、解らなくも無いな…結果が出ずにひたすらやるのは…な」


「但し乗り越える事が出来れば間違いなく戦力は飛躍的に上がるてしょう」


「乗り越える…か。私もやってみるか魔力操作を」


「仮に詠唱が短く起動が速くなっていたら、今回の襲撃も撃った後になってたかも知れませんね」


「確かに。詠唱中を狙い撃ちされたからな…実に良い事を聞いた。感謝するぞ」


「お役に立てたなら良かったです」


こうしてアストレラ様との話しを終えたのである。何かとても疲れた…。

あの人は非常に危険だ…俺を何と言うか目に魔力を集中させて『見ていた』からだ。多分あの人は魔力を完璧に可視化が出来るのかも知れない。となると俺の『魔力玉』を見た可能性が高い。何れ何かしらのコンタクトがあった場合は要注意だな。まあ、何かを知った所で【ザ•コア】を覚える事は出来ないから如何にでもなるし。


その後、カルディナス侯爵閣下に報告をした後、ゴンサレス隊長にも報告と、何故かアイアンクローをされたのでもっと疲れた挙句に偉い痛かった…コチラは被害者なのに!

くっ…解せぬ。




◆◆◆◆





ラダルという魔法兵の少年との話は非常に有意義な物であった。


魔法の起動を速くすれば魔力の効率が上がる話は、昔あの者が言っていた事と同じであった。あの時は机上の空論だと相手にもしなかったが…あの少年は実際に出来る事なのだと証明してみせた。

私はもっと早くからこのやり方を試す事が出来た…あの者の言葉に少しでも耳を傾ける事が、そんな簡単な事が出来ていたなら…私は大馬鹿だな…。

詠唱は無駄と効率化を目指す所までそっくりなので、もしやあの者の縁者かとも思ったが、どうやらそれは無さそうだな…。


それにしても面白い少年だった。

話していると彼は私よりももっと年上の者なのでは…と思わせる落ち着きと賢さがある。

とても並の10歳ではない…中に違う者が入っている様だった。

しかもあの魔力…魔力量だけなら上級魔導兵に手が届きそうな量である。しかしながら歪な魔力だとカルディナス侯爵は仰っていたが確かに歪と言えはその様に見える。

”視て”みると実際は器と魔力量が釣り合っていない事による違和感であった。器の外側に大きな魔力が繋がっている…こんなモノは”視た”事が無い。はっきり言って異常だ。

ではこの器の外にあるこの魔力は何なのだろうか?この魔力は動いている…何か大きさが微妙に変化している。まるで呼吸でもしている様に…。

私の結論としては何らかのスキルにより外側に魔力を持っているのではないか?と…。


そして、自らに足りない物を補う様に、合成魔法という魔力操作が厄介極まりない物を、まるで通常の魔法を操る様に…いや、遥かに速く起動する…しかも無詠唱で。

私を助けた『溶岩弾(マグマバレット)』とか言う合成魔法は3属性を魔力操作しながら撃つのだから神技と言って良い。

しかも珍しい闇魔法を使いながら、あの”魔導師殺し”なる者と互角に戦い、杖で殴りつけてふき飛ばし、合成魔法で倒していた。いくら”鬼神”の部下だからとはいえ、僅か10歳の魔法兵が自分の背丈より長い杖で、遥かにデカい大人の剣士を片手で吹き飛ばすのは規格外過ぎる。

あの杖は遺跡の武具の様に見えたが、瞬間的だが魔力を大量に入れ込んでいたから間違いないだろう。ヘルムとガントレットも遺跡の物だな。少年は遺跡の武具の収集癖でも有るのだろうか?


実に面白い…近くに置いて色々と調べればもっと面白い事が判明するかも知れない。

だが、恐らくは無理だろうな…カルディナス侯爵や”鬼神”ゴンサレスとの絆は深そうだ。しかも、ウチの馬鹿共が余計な事を…チッ。

まあ、然程急がなくとも良い。時間を掛けて

…色々な搦手もあるしな。

それにあの少年は私が”視た”時に少し私の目を見た…アレは何をしたのか理解した目をしていた。それにも関わらず知らぬ振りを徹した…中々の役者ぶりだな。だから直ぐに接触すると恐らく警戒されるだろう。


それにしても他の魔導師が怪我まで負わされるとは驚きだったな…無傷な我々の名声がまた上がってしまうな。まあ、カルディナス侯爵の名の方が上がるのだろうが。


しかし、久しぶりにあの者を思い出した…彼奴は今頃どこで何をしているのやら…。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



いつもお読み頂きありがとうございます。

フォロー数や星の方もいきなり増えたのでビックリしております。

本当に感謝しかありません。ありがとうございます。

感想なども引き続き募集中でございます!

何卒よろしくお願いいたします。

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