第11話 “魔神”対『鬼神』の戦い

”魔神”ゾード=ラル=ダルム…


彼の名が王国で知られる様になったのはローレシアの隣国であるバレルハル神国の侵略を受けた戦争である。

彼は当時最強と各国から恐れられていた聖剣士でバレルハル神国の『神の子』イワン=ライクハートを一騎討ちの末、巨大な金棒の数撃で倒して見せた。

その直後、仇討ちにと殺到したバレルハル中央軍を弾き飛ばしながらど真ん中を駆け抜けて、総大将であった君主イズナダード=バレルハルをその勢いのまま殴り殺して戦争を終わらせた。

聖剣士である『神の子』を倒したので”魔神”と恐れられた。

その時にゾードが倒した人数が三千から五千と言われている。

その後も他国からの侵略がある度に一人で突撃しては敵の指揮官を倒して戦争を終結させている。

そして彼は極北の蛮族レブリカンスとの戦いでも常に勝利し続けているのだ。

極北の蛮族レブリカンスは戦闘“騎鹿”民族で、広大な土地に百を超えるという族王が治めるコロニーが形成されており、極北の地に自分の縄張りを持ちその中を転々と渡り歩く。食糧不足が多く、蛮族同士が常に争いをするので国としての纏まりは皆無だが、極寒の冬でも構わず攻めて来るので侵略の速さは途轍もない。族王は将軍級の力を持つと言われ、極北を制圧するのは不可能と言われている。

その蛮族レブリカンスにも不敗を誇る”魔神”の名は極北にも轟いているという。


その最強の男がこの戦場に出張って来たのだ。二万の精鋭を引き連れて。

体格はゴンザレス隊長よりやや大きい。戦馬もデカいなぁ…そして魔力がデタラメである。近くに寄られただけでプレッシャーが掛かる。


「オレはゾード=ラル=ダルム!!オレと戦いたい奴は前に出ろ!!」


物凄い魔力とその声。

完全に圧倒されてしまう…あんな化物が居るのかよ…チビリそう…。

その中で3人だけ魔力を維持している者達がいた。1番隊の団長、2番隊、4番隊の隊長である。


「悪りィがオレが行くぜ」


声を上げたのはやはりウチの隊長だった。


「相手が”魔神”なら『鬼神』が相手しなきゃなぁ〜」


団長は黙って頷いた。


ゴンサレス隊長はそのままゾードの前に出て行った。


「ほう…巨大なメイスか。相性の良い相手だが…オレを楽しませてくれるのか?良かろう!名を聞こう」


「オレはカルディナス伯爵軍4番隊隊長のゴンサレスだ」


「ゴンサレス…聞いた事があるぞ…確か『鬼神』とか呼ばれているとか?面白い!さぁかかって…クッ!」


ゾードが言い終わる前にゴンサレス隊長が仕掛ける。

メイスの一撃はゾードの持つ真っ赤な金属製の太く巨大な金棒に阻まれた。

何回か打ち合った後でゾードが話し出した。


「まさかその程度で『鬼神』等と呼ばれてるのでは有るまいな?」


その台詞の後、更にゾードの魔力が上がる!!そしてスピードとパワーが増した金棒の一撃がゴンサレス隊長を襲った!

物凄い音と共にゴンサレス隊長が戦馬ごと吹き飛ばされそうになった。が、何とか堪えていた。

しかし、それからは圧倒的な打ち込みでゴンサレス隊長は防戦一方になってしまう。

そのうちゴンサレス隊長は少しずつだが全身に切り傷を負ってしまう。

ゾードは手を緩めない…そのまま圧し切ろうと言うのか?

その内、ゾードの一撃でブッ倒れそうになるゴンサレス隊長。

それを見て勝利を革新したのかゾードは再び話し始める。


「フハハハ!!やはりその程度か!実につまらぬ…だが此れもいつもの通りだ。お前もオレを楽しませられなかったな!!」


その瞬間強烈な一撃がゴンサレス隊長を襲う!!

しかしその一撃はゴンサレス隊長にガッチリと受け切られた。


「なっ!まだやるのか?しぶとい奴め…」


「さて、そろそろ本気出すかなぁ〜」


言った瞬間、ゴンサレス隊長の魔力が急激に上がった。

コレで魔力的には五分という所か…。

お互いに決め手に欠けたまま打ち合い続ける。


そして後一進一退を続けながら何と1時間以上もお互いに打ち合い続けた。

こいつ等二人化け物かよ…怪獣総攻撃みたいだな。

しかし段々とゴンザレス隊長の出血が多くなってくる。勢いは徐々にゾードが増して来ていた。

そんな中、急にゴンサレス隊長が声を上げた。


「そろそろケリ着けようじゃねーか?魔神さんよぉ!ああ?!!」


ゴンサレス隊長の掛け声と共に魔力が更に上がる!!隊長はこの時を計っていたのか?


「なっ!?」


そしてその一瞬の隙を突いてゴンサレス隊長がメイスをゾードにぶち当てるとゾードが吹き飛ばされそうになり、何とか体勢を立て直すがゴンサレス隊長の攻撃にゾードは防戦一方となる。


「ゾ、ゾード様ぁ!!」


割って入ろうとしたローレシア軍の馬鹿を俺の『熔岩弾(マグマバレット)』が撃ち抜いてソイツは馬からぶっ倒れた。


「一騎討ちを邪魔するとはローレシアの軍は恥知らずか?!!」


「なっ…」


タイラー副長の一喝で奴等は動きを止めた。馬鹿共が…この戦いは絶対邪魔をさせないぞ。


そのまま圧し切るかと思ったがゾードが何とか距離を取ってしまった。


そして一瞬の静止…。


からの一気に二人が間を詰めて同時に攻撃をする!!


物凄い音がしたかと思うと双方ともはじき飛ばされた!

するとゴンサレス隊長の巨大なメイスが砕け落ちる。


「なっ!」


その機を逃さずゾードがゴンサレス隊長に襲い掛かる!


「隊長おおお!!!」


俺は自分の杖をゴンサレス隊長に魔法で射出した!その杖をゴンサレス隊長はこちらを見もせずにそのまま左手でダイレクトキャッチする!


「ウリャアアア!!」


受け捕った俺の杖にゴンサレス隊長は横に振りざまに魔力を一気に入れ込んだ!!

超質量で超硬度になった俺の杖がゾードの金棒と当たる!!

するとゾードが吹き飛ばされて戦馬から落下しそうになる。そこを見逃さずゴンサレス隊長は返す刀でもう一撃喰らわせる!!

ゴンサレス隊長渾身の一撃が金棒で受け切れなかったゾードの右腕を砕きゾードは金棒を取り落としてしまう。

そして、ゴンサレス隊長はそのまま杖を振りかぶりゾードに声を掛ける。


「終わりだ…ゾード…」


「フッ…わ、我に悔い無し…見事なり…」


そのまま杖は振り下ろされてゾードの頭を直撃した。

そして、頭を潰された”魔神”ゾードはそのまま戦馬から崩れ落ちる…。


「ゾード様アアアア!!!」


ローレシア軍の悲鳴も虚しく、遂にローレシア軍最強の男“魔神”ゾード=ラル=ダルムは、我らが『鬼神』ゴンサレス隊長に倒された。


我が軍に沸き起こる大歓声!!するとすかさず1番隊団長と2番隊隊長がゴンサレス隊長を庇う様にローレシア軍の間に割って入った。

俺も動きそうなローレシア軍の騎馬に『千仞(せんじん)』を発動しながらゴンサレス隊長の方に向かう。


「隊長!!見事でした!!」


ゴンサレス隊長はゾードの亡骸を眺めていた。


「ゴンサレス!コレを持て!」


2番隊隊長がゾードの金棒をゴンサレス隊長に放り投げる。それを右手でキャッチしたゴンザレス隊長は、


「ベイカー、ワリィな獲物を横取りしちまってよ」


「フッ!馬鹿者がっ!そう思うなら此処を切り抜けろ!」


そしてその金棒を右手でブンブン振り回すと、左手に持っていた俺の杖を此方に放り投げる。


「コッチの方が長くてしっくり来るぜ。お前の杖も悪かねぇが俺にはちっとばかり短過ぎだ」


確かにゴンサレス隊長にはゾードの金棒の方が使い勝手が良さそうだ。あれ?コレって正に『鬼に金棒』ってヤツじゃね??プププ…。何て思ってたら顔に出てたのか隊長に叱られた。


「何ニヤニヤしてんだ馬鹿野郎が!さっさとこいつ等片付けるぞ!!」


と、言うな否やゴンサレス隊長は戦馬に気合いを付けて敵陣に傾れ込んで行った…。

あんなにアホほど打ち合い続けてまだ戦えんだ…あの人別の星の人かな?

俺は呆れながらも隊長に付いて行き、隊長の暴れ回る様を見せ付けられた。


ゾードと言う絶対的な支柱を失ったローレシア軍は、あの一騎討ちの後に暴れ回るゴンサレス隊長を見て強烈な恐怖を感じるしか無かった。

それとは逆に一騎討ちの勝利により勢いに乗るカルディナス軍は精鋭である筈のローレシア軍を完全に圧倒した。

特に1番隊の活躍ぶりは凄まじく、ローレシア軍の騎馬隊7000を二手に分かれた騎馬隊で一気に圧し込んですり潰し、そのまま指揮官の首を団長が刎ねた。

2番隊の重装歩兵は中央でガッチリとローレシア軍の歩兵部隊の進軍を食い止めて動けなくする。3番隊は相手の魔法兵団や弓隊を無効化しながら、遠距離の弓矢と魔法攻撃とで効率的にローレシア軍を削って行く。そして一騎討ちに勝利した後でそのまま暴れ回るゴンサレス隊長率いる4番隊の横っ腹から食い破る動きにより此れを完全撃破した。

こうしてゾードを討ち取られ意気消沈したローレシア軍の精鋭20000を難なく撃ち破ってしまったのである。


此方の被害はたったの398名でローレシア軍は逃げ出せたのは500人に満たなかった。


俺達は”お宝タイム”の後で此処に陣を敷き、ゆっくり休む事となる。


俺は今回のローレシア遠征で主に金や貴金属、それと魔導具などを”お宝タイム”でせしめてきた。重くてかさ張る物はなるべく持ちたく無かったのだ。

何故かと言うと、今回はスレードクルを陥落した際にあった小さな魔導具店でとんでもないお宝を手に入れたからである。

それは魔導鞄だ。

空間魔法陣を縫い付けてある鞄で空間収納出来る物で、店の奥の方にコッソリと隠してあった。

俺はその鞄にこの店に有った使えそうな魔導具を全部ぶち込んでおいたのだ。お陰で他が何も入らなくなったが…。

だから重たい武具は今回は長旅なのでパスして金や貴金属を中心に拾い集めたのだ。

お金は全部で200金貨近く集められたし、貴金属は中くらいの皮袋一杯になった。

やはり街での略奪…いや、お宝タイムは儲かるわぁ〜。

後は魔導具の売値にって事になるんだけど、さて、どうしようかね…ウヒヒヒ…。


一方、伯爵閣下を始めとした団長、副団長と各隊の隊長と副隊長は軍議を行ない、そのままローレシアを引き払い、急ぎカルディナス領に戻る事を決めた。

街を攻撃して、ある程度の難民を作った事とゾード=ラル=ダルムという強敵を撃破した事で、遠征軍が此方へ戻らざる負えない状況になっただろうという判断である。


また行きは山越えルートと騎馬隊ルートで分かれていたが、帰りはそのまま騎馬隊ルートで急ぎ戻る事となった。

先に騎馬隊がとにかくカルディナス領に戻り、歩兵部隊は出来るだけ早く追い付く様に退却する事を命じられた。

退却するにつれ欲をかいて荷物を持ち過ぎた奴等はどんどんと荷物を泣く泣く捨てる様になる。

そういう事に頭が回らないと無駄足を踏む事になるのだ。


「伍長殿は荷物が少ないですなぁ」


俺と同室のシュレンが声をかけて来た。俺は得意げに胸を張って言った。


「長旅に嵩張る荷物は不要だよ。欲張るとろくな事は無いしねぇ〜」


「ああ、なるほど…例のローブの件なぁ…」


「ちょ!それ禁句だから!次はコレで殴るから!」


俺が杖を振り回しながら涙目で抗議すると、ローグとアリエスまで笑ってやがった…クソッ。


そして2ヶ月半後にようやく俺達歩兵部隊はカルディナス領に戻って来れた。もうボロボロ…マジ疲れた。

旅の途中で誕生日が来て10歳になってた。

誕生日も必死に歩いていたので全く気付かず、気が付いた時には既に1週間も過ぎてたよ…。こんな不幸な誕生日は前世も含めて初めてだった。


先に戻った騎馬隊は1ヶ月チョイで走り抜けて帰って来たらしい。早いなぁ…。

かなりキツかったらしいけどね…。


ローレシア遠征軍と相対した警備隊はかなりの被害はあったものの、1ヶ月足らずでローレシア軍が慌てて引き返したとの事で、何とか半数以上は無傷で無事だったと言う。

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