第10話 立ちはだかるローレシアの“魔神”
俺達4番隊は一気に山を下って村を包囲した。村にいた警備隊は最後まで投降しなかった為に全員倒した。
俺達について来た斥候が合図をすると山の上の軍勢が道をガンガン切り開く。勿論、下からも道を切り開くのだがある程度で上の軍勢に任せる。何せ上からの落下物が多くなるからね。
その間、ウチの副長は村人達に『我らに仇なす愚かなローレシアを滅ぼしに王国軍15万がやって来た』だの『ヘルサードを滅ぼした別の軍勢も直ぐに合流する』だのと嘘八百を並び立てて脅しまくっていた。しまいには『お前達全員の首を刎ねて、我らの槍の先に刺して街に向かう』などと絶対やらないでしょ?みたいな事を言っていたが、それを聞いて笑いを堪えていた隊長を見た村人達は、「あ、コイツなら殺りかねない」と余計に勘違いしたらしく、ブルブル慄えていた…可哀想に…。
そして後続が到着してそのまま陣取って駐屯地とした。つまり他の街に行く方面をわざと空けている。
ココからタイラー副長の策を始める事になる。
4番隊の連中がは村人を散々脅かしておく。
その後、俺が『良い人』の役で登場して村人達を逃がすと言う段取りだ。
俺は夜中にこっそりと村人達が軟禁された場所を開放しながら村人達に話し掛けた。
「皆さん、早く逃げて下さい!このままだと王国軍の本隊15万が到着する前にあなた方を皆殺しにしてしまいます!あの隊長は『鬼神ゴンサレス』と呼ばれる超凶暴で無慈悲な隊長なのです!」
「な、何故我々を助けてくれるのですか?」
「私もココと同じ様な貧しい村の出身です…皆さんを見て故郷に残した両親と弟と妹を思い出しました…あの残虐非道な鬼畜隊長がやる事を分かってる以上、何もしない訳には行きません!さあ!早く!」
「あ、有難う…君も早く逃げなさい」
「私も逃げます…この軍は近くの街に向かうのでそこに行くのは危険です!他の街に必ず逃げて下さい。全員分かれて逃げれば必ず生き残れます!さあ、早く!!」
「わ、分かりました…じゃあお前達はアチラへ、我々は向こうに向かうぞ!」
「早く逃げて!!」
村人達を皆さん上手く逃してから、待ってた他の連中がワアワアと大騒ぎをして村人を更に追い立てる。
ヨシヨシ、上手く行った様だな。上出来じゃないかな?
「どうやら上手く行った様だね。中々上手い演技だったじゃ無いか?」
タイラー副長は満足げに俺に話しかける。褒められて満更でもないのでニコニコしながら
「そうでしょう?やっぱ天才かもな〜」
などと俺が胸を張って応えていると急に周りの温度が変わる…俺の後ろに立った”鬼”が俺の頭をガッツリ掴んで怖い声を出す。
「よお、ラダル君。お前中々面白い事言ってたなぁ?ああ?『超凶暴で無慈悲で残虐非道な鬼畜隊長』だってぇええ??」
ゴンサレス隊長が掴んだ手に力を入れる…アイアンクローかよ!!
「痛い痛い!!アレくらい脅さないと…イテテテテ!!暴力ハンタイ!!痛いいいい!!」
いやあマジで死ぬかと思ったわ…こんな幼い子にあんな暴力を振るうなんて児童虐待だ!!訴えてやる!!
「チッ…まあ、結果として上手くは行ったな。明日には一気に街に向かうぞ」
「今のでダメージ受けたので俺は残って良いですか?」
「何だ、まだやられ足りないのか?」
「軽い冗談ですよ…」
上官のパワハラまで受けて俺の心はボロボロである。副長も隊の連中も大笑いしてやがる…お前ら全員同罪だからな!!
翌日、早朝に村を焼いた後で街に向かって進軍する。目指す街の名前はフロンと言う街で、此処から1週間程度掛かるらしい。村人達が逃げたのは小さな村の筈で両方共にやはり1週間程で行ける様だ。命懸けで走って行けば3〜4日くらいで着くだろう。
途中で運悪く俺達に遭遇した商人などは全員俺達に倒される。運が悪かったとしか言えないが喧嘩を売って来たのは其方の王様だからね、故郷を守る為だから俺達は何でもやるさ。コレは戦争だからな。
そして1週間間後にフロンに到着し、戦闘開始となる。
フロンには警備隊が500人程しか居なかった為に簡単に攻略出来た。
何人かは上手く逃げ出した様だが、それも勿論ワザと逃したのである。
街では補給の為に物資等を略奪し、市民を追い出した後で1日だけ休息を取る。
そして翌日、フロンの街を燃やしてから、次の街スレードクルに進軍した。
追い出したフロンの民を難民にするのは先日の村と同じだ。難民は厄介な存在になる。逃げた街の物資を減らして恐怖を煽り立てる存在になるからである。占領しないのであれば街を破壊する事でローレシアの経済のダメージを与えるのだ。
スレードクルはこの街の領主の街らしい。逃げ出した奴等が頑張って報告に向かって居るだろうね。
俺達は更に10日掛けてスレードクルに到着した。
スレードクルでは領兵2000人程が居たが俺達には全く歯が立たなかった。と言うのも王国に進軍しているローレシア軍に主力の兵士達が殆ど徴兵されたからだと判明した。
俺達はフロンと同じ様にスレードクルの市民を追い出した。領主は討ち取り家族は処刑した。ここでも物資を補給して”お宝タイム”をした後でスレードクルを焼き払った。
ココのお宝タイムではいい物が手に入ったよ。ムフフ…。
そして更に隣の領都に進軍する途中で迂回して来た伯爵閣下率いる1番隊と騎馬兵に合流して、次の領都であるメリハルンに向けて進軍する。
1番隊と騎馬隊はここに来るまでに3つの街を落とし、焼き払ってきたと言う。流石だなぁ〜。
2番隊〜4番隊までの隊長と副長達は騎馬隊が連れて来た自分の戦馬に乗れる様になって皆さんご機嫌である。
何せ山越えでからずっと徒歩だったからね。ウチの隊長なんてイライラしてたから怖い事…。
まあ、俺らはいつも徒歩なんですけどね。ええ、いつも徒歩なんですけどね。大事な事なんで二回言いましたよ。
次の領都メリハルンでは5000の軍が待ち構えて居たが、総勢42000の精鋭軍に主力の抜けた留守番の5000の軍が勝てる訳も無い。騎馬兵が一気に突っ込んで陣を崩してしまえば後は楽な戦だったよ。ウチのゴンザレス隊長が暴れまくっていたな…ホントに敵軍はお気の毒様である。
2時間も持たなかったよ。
ちなみにウチの留守を預かるカルディナス領の警備隊は軍閥であるカルディナス伯爵家の警備隊なのでバリバリの精鋭部隊だ。
中でも警備隊の隊長であるガルバルド=デュポンは宮廷魔導師団に所属していた当時、伯爵閣下がそれこそ三顧の礼で口説き落とし自領に迎え入れたと言う逸話を持つ人物である。
カルディナス領最強の上級魔導兵であり、”領都の守護神”などと呼ばれている。
一度俺も遠目で見た事があるが、それはもうあの圧倒的な魔力…絶対に敵に回したくないシニアである。
守護神ガルバルド=デュポンが率いる警備隊が居るからこそローレシア軍十万が来ても何とかひと月は持つだろうと言われているのだ。並の軍ならあっという間に圧し潰されるだろう。
国境に面している国としての備えがあるのか無いのかが、ヘルサードにヤラれたリンガ侯爵家とローレシアに相対するカルディナス伯爵家で如実に現れた形となる。
寧ろリンガ侯爵家は全軍領内に居たのにヤラれたのは正に愚の骨頂である。
落とされたメリハルンでも同じ様に領主は首を刎ねられて家族は処刑された。そして街の人間は追い出された。中には他から流れ着いた難民が居た様だが、また別天地に向かってもらおう。お気の毒様。
今まで落とされた街の人間が全て10何万という難民となってる訳だ。
俺達は誰も居ない街で”お宝タイム”を満喫した。何せ街の全てがお宝達ですからね。皆の気合いの入り方も違うし…ウチの補給隊などはローレシアに来た時より多くの荷物になってないか?
そして俺達が1日休息を取った後でメリハルンの街は業火に包まれ地図上から姿を消した。
そして次の街に行く事となる。もう既に遠征軍にもこの件は伝わってるだろうから、次の街が最後になるだろう。その後は全軍スタコラサッサと逃げるだけだ。
俺達が進軍を開始して3日後、遂にローレシアの正規軍と相対する事となった。
軍勢は20000ほどだが、その先頭の者からは距離がかなり離れているにも係わらず、物凄い魔力を感じる事が出来たのである。嘘だろ…あんな化け物は見た事ない。ウチのゴンザレス隊長でさえもあれ程の衝撃は無かったよ……。タイラー副長がゴンザレス隊長に話し掛ける。
「隊長…アレは…まさか…」
「ほう…なるほど噂以上の化け物の様だな…“魔神”とはよく言ったもんだぜ…」
そいつがローレシア軍最強の”魔神”と恐れられた大将軍ゾード=ラル=ダルムであった。
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