第12話 閑話 ガルバルドの回顧録
ワシの名はガルバルド=デュポン。
カルディナスの警備隊隊長である。ヘルサードに侵攻する為に伯爵閣下率いる全軍が南下してから2ヶ月余り、国境付近で動きがあるという報告を受けた。
「何?ローレシアとの国境付近じゃと?…」
ワシはイヤな予感がした…長年培った勘としか言えないが、この時期に動きが有るなど余りに都合が良過ぎるからだ。
ワシは急ぎ中央警備隊を率いて国境の砦であるフラムンドに向かいここに入った。
フラムンドは国境の谷に作った砦である。
両側を山に囲まれたこの地を通るしかローレシアに向かう道は無い。大国ローレシアに対抗する為にこの砦は作られている。
そしていざという時の為に用意していた防御装置を作動させる。
向こう側からは結界による視認阻害効果で全く見えないが、高さ10mの壁が谷の部分を全て閉鎖するのである。
フラムンド砦には魔法防御装置が仕込まれており、大規模魔法でもビクともしない。また、両側の山の中には罠をいくつも仕掛けており、そちらから攻めるのはさらに困難を極めるだろう。
強国であるローレシアと国境を接する我らは常に非常事態を考え、その為に準備をして置くのが仕事である。閣下に進言してこの地にこの様な防衛装置を組み込んだ苦労が、一番来て欲しく無かった形で報われるとは…実に人生とは儘ならぬものよのう。
防御が整って両側の山にも伏兵を配置した頃、更に来て欲しくは無かった急報がもたらされる。
ローレシアの宣戦布告。
どうやらワシの勘は当たってしまった様だ…だがこうなっては我らで何としても踏ん張りきらないとならない。
ローレシア軍はやはり準備を周到に進めていた様で、国境付近まで2週間ほどでやって来た。その数十二万…圧倒的多数である。
ローレシア軍は我々に降伏を勧告して来たが、返事は降伏を勧告して来た使者の首を刎ねて門の外に晒してやったわい。
我々で何とか2ヶ月…出来る事なら3ヶ月持ちこたえれば味方の援軍は戻って来よう。
しかし多勢に無勢…1ヶ月が限界とも考えていた。
そこでワシは先鋒の攻撃隊20000がやって来た際に、予め国境付近に埋めて置いた爆破魔導具を起動させて先鋒軍を倒すのと同時に騎馬隊の進路を妨害してみせた。土魔法で元に戻そうとした魔法兵の狙撃をして中々近寄らせない様にした。
コレで何とか1週間は稼いだが、次の週に一気に大軍で圧して来たので炎魔法の『爆裂獄炎(デスフレイムバースト)』で千人ほど焼き払ってやった。
流石にその後は距離を置いて来たので連射はしなかったが、コレで少し時間を稼げるだろう。
その後、伏兵を忍ばせた左手の山に敵が入り込み、仕掛けた罠と伏兵の奇襲攻撃で此れを返り討ちにして撤退させた。
2週間後、遂にローレシア軍の魔導兵が攻撃魔法を撃ち込んで来たが、魔法対策が功を奏して被害は少ない。逆に魔導兵の居る場所に投擲機による遠距離攻撃を加えて魔導兵を蹴散らす事に成功した。
その後は物量で圧して来たので再び『爆裂獄炎(デスフレイムバースト)』を2連発喰らわせたが、怯まずそのまま襲い掛かって来るので弓隊や魔法兵の遠距離攻撃で耐え忍ぶ。
10mの壁が出来てると知らぬローレシア軍は中々破れずに其処で魔法兵や弓隊に倒された。
しかし、数的優位に立つローレシア軍の攻撃にじわじわと我が警備隊も削られてしまう。
そんな窮地に何と我らがカルディナス領の農民や市民による義勇兵3000が合流してくれた。
何と嬉しい事か…ワシはこの3000の義勇兵を補給隊と交代させて補給隊も守備に加わる事になる。
コレが最終的に我々を助けてくれる一因となった。
疲労困憊の我らにしばしの休息を与えてくれたお陰で警備隊は息を吹き返したのだ。
副長のブラウザーは騎馬隊3000で何度も奇襲をかけては戻ると言う捨て身の策を献身的に行っていたのだが、先程の奇襲攻撃で大怪我を負ってしまい戦線を離脱する事となった。
このジリ貧の状況がいつ崩壊してもおかしくは無かったのだが、4週間目に突入した頃に突然彼らの攻撃が鈍くなった。
そして攻撃が散発的になり、5週間目半ばにローレシア軍はそのまま撤退を開始した。
最初は何かの策かとかなり慎重に斥候を放ったりと国境付近を捜索させたが、どうやら完全に撤退した様であった。
「やはりローレシア軍は完全に撤退した様子…かなり慌てていた形跡が御座いました」
「むう…何が有ったのかは知らぬが…何とか死守できた様じゃな…」
何とかワシも命を拾ったようじゃな…。どういう訳でローレシアが撤退したのかは知らぬが、コレで何とか閣下より任された役目は果たせたようである。
そして2週間を過ぎよう頃に伯爵閣下始めとした騎馬隊が戻って来てくれたのだ。
「おお!閣下!!良くお戻りに…」
「ガルバルド!!良く耐えた!!褒めて遣わす!!」
「皆のお陰もありますが、2週間ほど前に何故かローレシア軍が突然撤退したのです」
「うむ!其れについては後で話そうぞ!とにかく今は休むのだ。良いな?」
「何のこれしき……」
「ガルバルド隊長、後は我らにお任せを…」
閣下と1番隊団長に言われたのであれば任せないと行かんな…。
しかし、ローレシア軍の撤退について閣下は何か理由をご存知だったのか?
それからワシは砦の警備を1番隊のローレンスとデュランに任せ、1日休暇を取った後に閣下にご報告に向かった。
その際、私は閣下より我が軍がローレシア領を襲撃して、遠征軍をローレシア領に撤退させる策によって彼等の撤退が起こった事を知った。
しかもそのローレシア領襲撃の際にあの噂に名高いローレシア最強の男、”魔神”ゾード=ラル=ダルムをゴンサレスが一騎討ちの末に討ち取ったと聞いて更に驚いた。
なるほど、コレでは奴等も流石に撤退せざる終えない…慌てて撤退する訳だ。
自領が攻められてるのにも関わらす撤退もせずに国が滅ぼされたら何もならぬからな…。
この奇策を考え付いたのは同じく4番隊の副長タイラーであったと言う。
何と言う大胆不敵な策で有ろうか…普通であれば急ぎ戻る事を考えるのが定石だが、まさかその敵国に討って出るとは…。
こ奴ら我が軍のはみ出し者で散々手を焼かされた4番隊の連中にまさかワシが助けられる日がやって来るとは思わなかった。
「ゴンサレス、タイラー、本当に感謝する。貴公らの活躍無くばワシは疎かこのカルディナス領も危うかった」
すると大笑いしながらゴンサレスはこう抜かしおった!
「何言ってんだ、爺さん!耄碌するにはまだ早えぞ!ハッハッハ!!」
「な、何を言っておるか!!この痴れ者が!!」
「まあまあお二人共、閣下の御前で見苦しいですぞ」
「フハハハ!!良い良い。ガルバルドよ、ゴンサレスがこのザマでは、そちもまだまだ耄碌出来ぬのう!」
「閣下まで何という事を!!このガルバルド、まだまだこんな若僧如きに遅れは取りませんぞ!!」
全くこの馬鹿者め!!
ワシもまだまだ頑張らねばならぬ様じゃな…しかし、若い連中が大きく育って来てるのは喜ばしい事よ。
しかし、大国ローレシアに対する備えをもっと行わねばならぬし、我が警備隊の早急な立て直しが急務であるな。幸いブラウザーの怪我も3番隊の回復兵により後遺症は残らなそうである。
それにしてもローレシアとヘルサードが組むなど考えもしなかった。
何か水面下で起こっておる…これからまだ動乱は続きそうであるな。
さて、舐めた口をきいた馬鹿共にはしっかりと働いてもらうとしよう。あそこの後始末は大変じゃろうのう。まあ、良い薬じゃよ。
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