江藤亮平、ラップを聞く

俺は江藤亮平。高校卒業後、東京の大学へ進学した俺は、友達にも彼女にもめぐまれて素敵な大学ライフを送っていたはずだった。


しかし、東京に就職しようとしていた俺はことごとく面接におとされまくり、大学一年のころからつきあっていた彼女には、大学四年生の夏に振られてしまうというなんとも不幸なよ出来事に見舞われてしまった。


失意のどん底に陥ってしまった俺は、生まれ育った佐賀に戻り就職することを決意したのだ。運よく県職員に採用された俺は、「エルフがサガ県民の願いを叶えます課」という謎の部署に配属されることになった。


しかもそれは県庁の地下。しかも地下13階という場所にオフィスがあるというのだ。


しかも県庁の入り口にある見取り図にのっておらず、ムツゴロウのゆるキャラに案内されてきたわけだ。


そこにたどり着いた俺が最初にあったものは、なんと



なんと!?



ナイスバディのエルフの姉ちゃんだ。


エルフ?


耳のとがった


あのエルフなのか?


ファンタジーものに出てくるエルフが実在したあああああ


俺は鍋島直子という名のナイスバディのエルフの姉ちゃんと出会ったとき、混乱してしまったのはいうまでもない。


あのおしりが


あのぼよんが


いやいや


それじゃない。


あの耳だ。


あのとがった耳と



彼女が自分がエルフだという言葉に俺は動揺したのだ。


そういうわけなのだが、現在の俺は彼女に入れてもらったコーヒーを飲みながら、部屋の中心にあるソファーでまったりとくつろいでいる。


部屋はどう見ても県庁内のオフィスというよりも、まったりとした喫茶店と雰囲気で天井にはシャンデリア、中央には大きなテーブルとソファーがある。

壁際にはカウンター。ちゃっかり、後ろにはワインやら焼酎やらが並んでいるし、グラスもある。


どうみても、喫茶店だ。

それがバーとしか思えない空間。


俺は遊びにきたわけじゃないぞ。


仕事にきたはずだ。


それなのにまったりとコーヒーを飲んでいる状況とはどういうことなんだ。


それに、ナイスバディのエルフの姉ちゃんは俺の目の前のソファーで寝そべりながら、マニュキュアを塗りなおしている最中だし、短パン履いているために色っぽい足を惜しげもなく俺の前にさらされて、目のやればにこまめ。


胸の谷間もばっちり見えている。


うわっ、


また鼻血が出そうだ。



俺は思わず、鼻を隠した。


それに気づいたエルフの姉さんは、身体ごとこちらに向ける。動かすたびに揺れる巨乳。しかも姉さんが前かがみになるものだから、谷間が俺の前にさらされる状態だ。


もう、まじやめてくれよ。


俺は仕事にきたんだよ。


県庁に仕事にきたんだ。



キャバクラにきたんじゃないよおおお。


俺はみないように目をそらそうとするが、どうしても谷間に目が行く。


「あなたって、よく鼻血だすのね」


うわあああ。

鼻血がああああ


復活するなあああ。


鼻血いいいい。


俺はテーブルの上においてあったティッシュを鼻に詰める。


「あはははは。おもしろかねえ。あなたあああ」


そういって、エルフの姉さんは愉快に笑いながら、ソファーの背もたれに背中を預ける。


「あのそれよりも、他に人いないんですか? お……僕と鍋島さんだけなんですか?」


「ううん。もうそろそろ来るったい」


 彼女は足をくみながら、入り口のほうへと視線を向けた。


 その瞬間だった。


「へーい。元気かーい。今日もなお姉さん色っぽいねえ。おおお、君が新人さんかーい。いいね。いいね。新人いいね。これから愉快にお仕事しましょう。おーえーい」


扉が明かると同時にノリノリのラップをかませながら一人の男が入ってくるなり、俺のほうへと近づいてきた。



「いいね。いいね。なんか君っていいねえ。若いね若いね。えーいえーい」



どういう歌だああああ。


適当すぎだろおおおお



そんな突っ込みが内心思いたつが、あまりにノリノリなためにただ愕然とみるしかなかった。


男は長身。おさらく190㎝はありそうだ。逆立った髪は銀髪で黒いサングラスをかけ、こんがりやけた肌をしている。服装はというと、これもまた県庁職員とは思えないほどに派手で、いかにもロックバンドでもやってそうな服装をしている。


「へいへい。今日から新しくなりました。えいえい。楽しくやりましょう。えいえい」


「こらこら、大木くん。もうそろそろおとなしくしましょうか」


さすがのエルフの姉さんは、いつまでもラップを歌い続けるロック系兄さんをやめさせた。すると、ロック系兄さんは素直に「すみません。調子に乗りました」と謝る。


「紹介するわ、こっちは新人の江藤亮平くん」


「江藤亮平です。よろしくお願いします」


 俺は立ち上がると、挨拶をする。


「おう。俺は大木喬時おおきたかときたい」


俺は顔を上げて、大木というロック系兄さんの顔を見た。ロック系兄さんは満面の笑みを浮かべる。

そこで違和感。


俺はピアスのついた耳に視線を向ける。


あれ?



尖っている?



耳がとがっているぞ。



「エルフたい。よろしく」




はああああああああ




お前もエルフなのかーい。






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