第6回 正義と悪の本質
正義、というとても耳障りの言い言葉がある。
法律をかざし、善を掲げ、弱者を救うことを良しとする概念、正義。
一方、悪と言う許しがたい存在を示す言葉がある。
法を破り、己のためにのみ動き、強者を陥れることに全力を尽くす。
一見、双方は相いれない関係に見える。
だが、賢明な読者諸君はこれをそのままの意味に捕らえた者は半数もいないと勝手に思うのが当方である。
歴史における正義や悪は、明確にはない。あえて言うなら数え切れない数の動物を絶滅させてきた環境破壊の大魔王、人類が悪ではなかろうか。
置いといて。
単純に正義や悪の考え方というものは実は個人個人で異なっている。
前のエッセイで書いたように、その人の環境や現状からくる感情論、はたまた時間が経てば融けたり湧いてきたりと様々であり、一概に統一された正義や悪は存在しない。
だが、人の歴史を見て何が正義で、何が悪であるのか。
大雑把な表現を使うが「歴史に残ったもの」が正義で「歴史から消えたもの」が悪である。
いうなれば、「何者かによって駆逐されたもの」が悪、「駆逐したもの」が正義である。民主主義は悪なのか。それはまた別の話。
こう書くと誤解されがちではあるが、その誤解もあながち誤解ではない。結局のところ、人、というか動物は「快感を感じる方を支持し、不快を得る方を排除する」本能がある。共感を得、共に行動する人が増えればそれは正しいことだと感じる。集団心理にも近いかもしれない。だが、滅びたほうも少なからず共感者がいて、行動する者もいただろう。つまり、双方が共に存在している間は、「どちらも正義」なのだ。ただ、立場が違っただけとも言える。
一言言いたいのは、そのどちらも「相手の事情を理解していたか」ということだ。
カルネアデスの板、という問題をご存じだろうか。
旅行で乗っていた船が沈没し、泳げないあなたはギリギリ一人が捕まれる木の板を見つけ、難を逃れた。が、同じ境遇の人が板に捕まろうとしていた。
あなたはそれを振りほどく? それとも板を差し出す?
もちろん二人とも助かる道はない。
これは、自身の生命を守るための行動であるとして日本でも緊急避難という法律により、他者を見殺しにしても罪には問われない。裁判にはかけられるかもしれないが。
これを、正義に置き換えられるだろうか。
当方としては、YESと答えるだろう。これは正義だ。自分が生き残るために必要な行動だった。
ただ、生き残った人の「良心」はどうだろうか。
他者を足蹴にしてまで生き残った自分に、そんな価値があるかどうかに苛まれる人生を送る事を強要するだろう。
もちろんそんなことを考えない人もいるかもしれない。が、その後の歴史を作るのはその人自身であるし、死んでしまった人は何も語ることはできない。
もっと言えば、助かった側が「この板は、あの人が私にくれたんだ」と言ってしまえば美談にもなる。まさに、生き残った人がその後の歴史を作るのだ。
さて。
立場によって、生き残ったことによって正義と悪の隔たりがあるとはいうものの、恐らくそれは「正義と悪に収めたい」と思っている人がいるから、と当方は思っている。人間に正義も悪もない。生きているか、死んでいるかだ。
ではなぜ、人は正義や悪を求めるのか。なぜ悪は正義によって裁かれなければならないのか。
残念ながら、そもそも考え方が違う。
対比するものが間違っているのだ。
正義の反対は、別の正義。
では、悪の反対は?
善だ。
善いことの反対は、悪いこと。
正義はつまり善ではないのだ。
正義の味方とは、勝利しそうな集団にこびへつらい後ろについて回る者の事を言うのだ。
正義イコール善の集団、善の総合的概念となりつつある昨今、日本語の揚げ足取りになってしまっているが、それこそ大衆の集団心理がもたらした現代の集団
良い事をすると気持ちが良い。
悪い事をすると、怒られる。
人を助けることは、良い事。
これらは、人間社会において生活していくうえで必須のスキルだ。
だから、幼少期には色々な番組で教育する。社会に順応するために。
その過程で見るであろうヒーローものは、えてして強い存在=正義に傾倒するよう表現されている。正義の味方と同じことをすればよい。なんで善の味方にしないんだろう。
そして、その正義が戦うのは悪だ。
そもそも、なぜ悪の組織は自ら悪い事をするのか。
それは、人類にとっての悪である。彼らからすれば悪ではない。別の正義かもしれない。
人間側にとって悪い事なので、こちらが一方的に反撃しているだけに過ぎない。
ならは話し合うのか。
そういう存在はえてして話し合ったとしても、価値観が違う。考え方が違う。物の見方が違う。
ただ、拒否するだけだ。
ならどうするか。
お互いが納得するまで、殺し合うしかない。
……ということで、戦争は起こる。
こんな時、人は相手の事を何というか。
悪とは呼ばない。
「敵」と呼ぶのだ。
今回はこの辺で。
ありがとうございました。
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