第4回 スナイプと一掃
「俺の書く小説は、世界のどこかの誰かに、きっと刺さる」
おっ、そうだな。
「だから、ネットなりで掲載して出版社から書籍化の打診が来るのを待っている」
うん、ちょっと向こうで話をしようか。
少なからず上記のようなことを考えたことのある人はたくさんいると思う。当方もどちらかと言うとまだ上記のような事を考えている残念な人である。
何故残念なのか。
単純に言うと、我々は趣味のレベルを超えない。自費出版を考えるまではお金がほとんどかからず(例外は何にでもあるが)、元手は頭の中のアイディアのみでゼロに近い。
これを出版してもらう、と考えよう。
それは仕事である。
お金が発生する。
お金が発生するということは、少なくとも出版社に一定の出費と、一定の売り上げがある程度見込めなければならない。
ざっくり千冊の印刷をかけたとしよう。ページ数は二百弱。
挿絵なし、表紙も文字のみ。モノクロで。甘く見積もって一冊にかかる元手は六百円としよう。印刷代、発想費ももちろん込みで。
奇跡的に書店に並ぶとしよう。
仕入れ単価が六百円なら、そこに書店の人件費なども含まれる。小売価格はさらに上がり、千円の価格で販売をすることになるとしよう。
さて、ぽっと出の新人が書く小説。しかも万人受けでないニッチな作品に、キャッチーなイラストもない。これを手に取り、あまつさえ千円と言うかねと読破に使うであろう数時間を見越してそれを買うだろうか。
非常に、非常に難しい問題であろう。
少なくとも、当方は非常に難しいと考える。
何故なら、そもそも小説というカテゴリに初見や前情報のない作品に手を出すなんて事、怖くてできない。たとえ前情報が良くとも、半分読んでみて結局最後まで読めなかった作品だって多いというのに。
という、圧倒的個人の先入観から当方はこのような小説は手に取らないし、買わないし、読まない。
そして出版社も、そうなるであろう本をわざわざ自社のお金を使って出版しない。一パーセントのホームランを狙うよりも、七十パーセントのヒットを売るほうが、結果として売り上げが見込め、後の算段がしやすいからだ。でなければ、自分たちが路頭に迷う。圧倒的にサバイバル要素が強い作品よりも、地に足着いた作品を展開するほうが有利なのだ。
だから、よほどの理由がないなら「自分が書きたいと思うテーマや小説は出版社に持ち込まず、無料で公開するか自費出版すればいい」と思うし、名声や金儲け(失礼)を得たいのであれば「大衆に受ける小説を書いてコンテストなりに応募すればいい」と思う。コンテストの通過は決して簡単ではない。それだけでもかなりの評価が与えられるはずなのだから。
それでも、冒頭のようなことを夢見る人が居るのはなぜか。
そう言う人が居たからである。
そう言う人が目立ったからである。
そう言う人が「俺に続け!」という幻聴を受け取ってしまったからである。
そう言う情報を受け取った人が、そう言う人以外の情報を自らシャットアウトしてしまったからである。
圧倒的偏見である。そんなことは無い。きっとそう。
でも、社会の仕組みを考えればわかる。趣味だけでお金を出せるのはあくまでその趣味が好きな人だけで、熱意や縁で巨額のお金を使えるのは石油王くらいじゃないだろうか。それすら石油王に失礼かもしれない。
だからこそ、熱意や縁でお金が動くコミケなどは熱い。早く戻ってくれいつもの世界へ。
さて。
一定の、ごく一部の人たちに刺さる作品とは何だろうか。
分かりやすい例を挙げるなら週刊少年ジャンプでかつて連載されていた「変態仮面」ではないか。
ちょっとエッチで、ガッツリ変態。購入層に近い高校生が主人公。何より、連載が終わって何十年もたってから実写映画化。さすがにアニメ化やメディアミックスされることはなかったとは言え、あれほどに深々と当時の読者の心にぶっ刺さった作品は知らない。次点で「太蔵もて王サーガ」かな。ギャグばっかだ。
ともあれ、なぜ変態仮面があんなに刺さったのか。
読者の性癖が特殊だったのか? 違う。
作者の性癖が特殊だったのか? 違う。
読者と作者の性癖が、どこまでも素直でまっすぐ、突き抜けていたからに他ならない。
行動やアイテムが変態的なだけで己の心を偽らずに行動できる行動力や、行動が今一つ世間に受け入れられないかもしれないが、己を表現しようとするまっすぐさ。
面白おかしく書いているかもしれないが、意外と現実社会に置き換えたとしても通じる所はあるんではないだろうか。ないか。
他人に迷惑をかけてはいけないな。うん。
まあ、悪人にだけ変態技を使っているのでギリギリセーフということでここはひとつ。
では、多くの人が楽しめる作品は何だろうか。
言わずもがな、ジャンプ作品で言えば列挙に暇がない。共通するのは「わかりやすい」「設定の説明が僅かで済む」「先が読める展開だから脳にかかる負担が少ない」など。王道と呼ばれる展開は、読んでいて安心するし、下手に頭を使わない分娯楽としてもちょうどよい。
もっと言えば「その作品以外の商品展開が見込める作品」であろうか。
その作品が、例えば小説がコミカライズしても面白いのか、ゲームになったら面白いのか、アクションかスマホゲーか、はては実写映画、アニメ化しても制作会社に儲けが出るのか。他人がシナリオを追加しても世界観は壊れないか。広がりのあるものを提供できているのか。
つまり、「他人に想像の余地を与えることができる作品になっているか」が一番大きなポイントではないかと思う。
あなたにしかできない作品は、結局あなたにしか刺さらない。「こんな作品、俺でも作れるぜ」は、実はそうそう簡単に作れるものじゃあない。俺にも作れる、という発言は裏を返せば誰が作っても面白いと思う作品だ、と褒めていることなのだろうから。
今回はこの辺で。
ありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます