第2話 もう一人の新人
私、秋野 小春(25歳)は 、3年間勤めた会社を退職した。
割りと有名な会社だった。
大学を卒業後、入社。
その後、度重なる重労働と終わりの見えない仕事量、古い伝統を重んじる社風、男尊女卑思想が強い上司や幹部達、セクハラ等、諸々の理由で辞めた。
会社を去ったその日、
会社を辞める前に採用面接を受けた警備会社から採用通知のメールが届いた。
中身は、業務説明のための面会の日時と場所が書かれていた。
面会の日、私は指定の場所である 喫茶店に向かった。
前は広いが人通りの少ない歩道、左右には二つの大きなオフィスビルが建ち、その間に挟まれた場所に喫茶店はあった。
喫茶店は、一階建て角い白い建物で、前面はガラス張りであるが、左右のオフィスビルの影に入っているからか、外からは店内がよく見えない。
(まるでおっさんがかけてる色眼鏡みたい…)
店に入ると、
「いらっしゃいませ。」
笑顔が素敵な女性店員に出迎えられた。
店内のスピーカーからジャズ音楽が流れていて、明るい雰囲気を作っていたが、客同士の話声は聞こえない。
ざっと店内を見渡すと、
店員は二人、入口で出迎えてくれた人と奥のカウンター席に一人、
そして、テーブルにうつ伏せに寝てる男性客?が一人。
「あの、ライフ・ガーディアンていう会社の人と待ち合わせしてるんですが…」
業務説明の案内のメールには、待ち合わせの場所、つまりこの喫茶店に着いたら店員に待ち合わせであることを伝える様にと書かれていた。
「 秋野様ですね。 お待ちしておりました。
それでは、席にご案内致します。」
店員は、素敵な笑顔を崩さず、「 こちらへ。」と言って、歩き出し私を席へ案内する。
案内された席は、
「…Zzz むにゃ…」
「……………………。」
男性がうつ伏せに寝てる席だった。
「えっと、あの~、 ……寝てますけど?」
もしかして、この人が採用担当の人?
寝てる男性を指差しながら、店員さんに確認を取る。
店内には、他に客はいないし可能性としてはありえなくも…
「この方は気にしないでください。」
どうやら違うらしい。
「さあどうぞ、こちらの反対側の空いてる席へお掛けください。」
営業スマイルのまま、何事も無いかの様に男性の向かいの席を勧められる。
「えっ、いえ、他のお客さんが座ってますし、」
「お気になさらず、どうぞこちらへ」
「えっと、他の空いた席がいいかな…」
「申し訳ございません。ただいま満席で、空いてる席がここしかなくて。」
(いや! 他に客居ないし、この店 席空きまくりですけど!?)
申し訳無さそうな顔でさらっとバレる嘘をつく店員さん。
店員さんは素敵な笑顔と心地良い声で接客してくれるけど、 逆になんだか怖くなってきた。
怖いので、とりあえず言われるがまま勧められた席へ座る。
「…ぐぅ~、 もう働けないよ~…zzz」
(うわ~、社畜の寝言…)
前で寝てる男性の寝言を聞きつつ、採用担当の人が来るまで大人しく座って待つ事にした。
(採用担当者が来たら一緒にささっとお店を出よう。うん。)
「 申し遅れました、秋野 小春さん。改めまして私、株式会社 ライフ・ガーディアン 採用担当者 御酒島 美紀でございます。」
(…え、 なんですって?)
驚いて店員さんを見ると、
店員さんは手に小さなスプレー缶を持って、噴射口を私に向けていた。
「申し訳ございませんが、スケジュールが立て込んでるので、詳しい話はまた後で。」
シューッと何か吹きかけられ、私はなんか雑に眠らされた。
……………………………。
…………………………ふぁ!?
そして気がつけば、先程喫茶店で寝ていた男性と一緒に、どこに向かってるかわからない車の後部座席に座っていた。
男は目を覚ましていて、じっと窓を見ていた。
私は反対の車窓から外を見る。
私達を乗せた車は、赤灯籠が列ぶ大きな石橋を渡っていた。
橋より外側は海が広がっていて、波は静かだ。
次にフロントガラスに視線を移して、驚愕した。
その先には、周りを鳥居に囲まれたたくさんの社殿が建っている島があった。
そして、その島を囲う海からは、空にまで達する太い幹と、天を這う様に伸びる枝を持つ巨大な桜の木が四つ生えていのだった。
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