第11話 共同救出作戦

 20時頃、ブリーフィングルームでは、既に明後日の救出作戦について説明が行われていた。


「今回諸君に行ってもらう場所は、ヴィラークとボルーラの県境付近の森林地帯だ。

ターゲットは、森林地帯上空で撃墜が確認されたC-17グローブマスターⅢ輸送機に搭乗していた、アルティミール陸軍第117空挺旅団所属の兵士達だ。


アルティミール軍からの情報によると、彼らは輸送機が撃墜され、パラシュートで脱出した後、森林地帯に潜伏していた魔王軍の悪魔騎士団に投降し、捕虜として奴らの潜伏場所である洞窟内に捕らえられたそうだ」


 トーマスがそう説明すると、アンドレイが首を傾げて言った。

「あの一帯の制空権は国連軍が獲得済みの筈だろう?

しかもグローブマスターⅢが飛ぶような高度なら、スティンガーミサイルも届かない筈……何故墜とされた?」

「ゲリラ共のVTOL(垂直離着陸機)に撃墜されたんじゃないか?」


 ベルティーナがそう言うと、トーマスが首を横に振って言った。

「いや、VTOLでは無いようなんだ。

だが航空機に撃墜されたのは間違いない。

アルティミール空軍の情報によると、迎撃機はマッハ2を優に超える速度で接近してきたそうだ……

しかも、付近に飛行場及び滑走路は一箇所も見られない」


 トーマスがそう言うと、傭兵達が驚いた様子で騒ぎ始めた。

「マッハ2だと!?」

「しかも滑走路も無しでか!?」

「どんな機体よ!」

「SWの連中もここまでやるようになったか……」



 トーマスが咳払いをし、話を続けた……

「迎撃に上がった機体は、4機中3機はアルティミール空軍機によって撃墜され、その内1機は燃料切れでボルーラの友軍陣地内に不時着した。

そして不時着した機体を調査した結果、迎撃に使用されたのは44年前にアロランドで試作されたロケット戦闘機“XF-126 サンダーアロー”を改修したものだと判明した……」


「なるほど……あの機体なら航続距離は短くても、離陸だけだったら滑走路は要らない。

連中考えたね」

 イリアが呟いた。


「しかし、奴らは何処からそんな代物を?

それに少数とは言え、そんな高価な兵器を運用するとなれば莫大な資金が要る。

サタリードの資金援助だけでは到底不可能だ……」


 ベルティーナがそう言うと、アンドレイが深刻な表情をして言った。

「これでハッキリしたな。

やはり俺の睨んだ通り、奴らは多数の企業や団体、国家から多額の資金援助を受けている……」


「……俺はお前の口からそんな話を聞くのは初めてだが?」

 ラインハルトが小声で言った。



「陰謀臭い話はひとまず置いておいて、俺達がやるべきことは何なんだトーマス?」


 エリックがそう尋ねると、トーマスが答えた。

「無論、奴らの潜伏場所を急襲し、捕虜を開放する事だ!

今回警戒すべきは悪魔騎士団だけじゃない! 一帯は凶暴な野生動物やモンスター、ゲリラ兵などがウヨウヨしてるような正真正銘のホットゾーンだ!

くれぐれも油断するなよ!」


「アルティミールの保有する空挺部隊を失うのは、国連軍側で戦ってる俺達にとっても痛手になる。

どうにかして助け出さなきゃな……」


 ラインハルトがそう呟くと、エリックがやや厳しい口調で指摘した。

「そういう問題じゃ無いだろラインハルト。

何処に所属してても、どんな部隊でも、味方の捕虜は助けるべきだ」


「ほう? たまにはカッコいい事言うじゃないかエリック」

 セバスチャンがからかうように言った。


「そりゃどうも」

 エリックは溜息をつき、ふてぶてしい態度をとった。



 傭兵達の話を無視し、トーマスは説明を続けた。

「尚、今回の作戦は一定の人員を要するため、他の傭兵チームと共同で作戦を行うことになっている。

手柄の取り合いなんて薄汚いマネはするなよ、そういう行動が命取りだ」


「傭兵になりたてホヤホヤのルーキーじゃあるまいし、そんなしょうもない事する訳無いだろ……」

 ロバートが愚痴をこぼした。



 トーマスがデスクのタッチパネルを操作し、モニターに傭兵チームの情報を映し出した。


「本作戦に参加する傭兵チームの一覧だ。

先陣を切るのは、我がチームヘルヴァイパーズだ。

真っ先に敵陣に殴り込みに行く為、一番リスクが高い。

後衛の部隊がスムーズに動けるか否かは諸君に掛かっているぞ!」


「俺達が最前衛か……

ところで、他の傭兵チームっていうのは?」


 ラインハルトがそう尋ねると、トーマスが説明した。

「ああ、今から説明する。

まず諸君に続く2番手は、キラーヴァルチャーズだ。

民間傭兵チームとして16年前に設立されて以来、数々の戦争や紛争で非常に高い戦果を上げているが、“追い剥ぎ部隊”と言うあだ名の通り、彼らは他の傭兵チームよりも装備などの略奪に強くこだわる連中らしい」


「例の禿鷲連中か……」

 ウィリアムか顔をしかめて言った。


「死体に群がるハイエナ共め……」


 鬼の様な形相でベルティーナがそう言うと、アンドレイが少しイラついた様子で指摘した。

「ハイエナじゃ無くて禿鷲だベルティーナ。

そもそもハイエナが横取りや死体漁りしかしないのは偏見だし、キラーヴァルチャーズの連中だって、ちゃんとした性格の傭兵は居るだろ?」


「まあ良いんじゃないか? 禿鷲でもハイエナでも。

戦果を偽装したり、物資を横取りしてる訳じゃ無いんだから……」

 エリックが呆れた表情で言った。



 ギスギスとした空気にロバートが困惑し、おどおどした様子でウィリアムに小声で尋ねた。

「なあウィリアム、キラーヴァルチャーズの連中ってそんなヤバい奴らなのか……?」

「ヤバい奴らと言えばヤバい奴らかもしれないが、ここでコイツらが言ってるほどでは無いな。

敵から物資を奪うのが好きっていう傾向を除けば、普通の傭兵チームだ」

「そ、そうか……」



「最後に後衛の部隊、アイアンスコーピオンズだ。

ロードルスタンやバルクスタン(バルクスタン共和国)などの出身が多く、主に砂漠などが多い乾燥した国や地域で活動してる民間傭兵チームで、ガルターレスなどの森林地帯が多い国での戦闘は今回が初だそうだ」


「森に初めて足を踏み入れる砂漠のサソリか……

あまり名を耳にしないが、連中はどれ程の腕なんだ?」


 エリックがそう尋ねると、トーマスがキッとした表情をして言った。

「彼らはロードルスタン軍から“砂漠の鬼神”と呼ばれいてるチームだ。

現に彼らは、限定された地域のみでしか活動していないのにも関わらず、世界の傭兵チームの総合戦果ランキングでは、過去10年間ずっとトップ10以内を維持し続けている」


 それを聞いた傭兵一同が騒ぎ始めた。

「そりゃすげえや……」

「正に砂漠の王者って訳か」

「今回の作戦でも、足手まといにはならなそうだな」



 トーマスが説明を続けた。

「今回の作戦では、どんなに個人の腕が良くてもある程度の人員が必要なる。

しかし、我々はいつもどおり希望者のみで作戦に参加する為、諸君もいつも通りの要領で構わない。

出発は明日の5時、報酬は捕虜一人当たり2500ルードだ。

希望者は俺の元に名乗り出てくれ! 以上!」


 トーマスの言葉と共にブリーフィングは終了した。






 ブリーフィングルームに残っていたトーマスが書類を整理していると、ロバートが少しモヤモヤした様子で戻ってきた。


「失礼、リーダー」

「先程作戦参加に希望した、新人のロバート・モーガンだな?

どうしたんだ?」


「ここ、ヘルヴァイパーズの連中の事について聞きたいんですが……」

「何だ?」

「……アイツらは何故、他の傭兵チームの連中を嫌うんです?」


 そう聞かれると、トーマスは軽く溜息をついて答えた。

「それは恐らく、ここの傭兵達はあまりよそ者を信用しないのと、単に自分達のスコアを奪われるのが嫌なんだろう。

決して自己中しか居ないと言う訳じゃ無いんだが、君くらい陽気でフレンドリーな奴はここではかなり珍しいよ」


 そう言われると、トーマスが少し驚いた様子で言った。

「俺って陽気なんですか?」

「ああ、民間傭兵チームの人間とは思えないほど陽気だ」

「そ、そうですか……」

 トーマスが困惑気味に言った。

 

「それで、質問はそれだけか?」

「ええ」

「そうか……」


 トーマスとロバートは互いに微妙な空気で会話を終え、ロバートはそのまま退出していった。


「ではこれで失礼、リーダー」

「ああ。

それと、呼び方はトーマスで良い。 敬語も使わなくて結構だぞ」

「ラジャー」


 ロバートの返事が廊下に響き渡り、トーマスも書類をまとめてブリーフィングルームを退出した。

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