第36話 地図の献上とギルドの役割
「この階層を含む三階層分のマップデータを納めください。」
彼はここに広域を縄張りとして治める現地勢力との交渉に来ていた。
目的はこの階層を縄張りと認めさせる事、いきなり目的が達せられたことに困惑していた。
某会社名アースの普及が進んだ世界の読者には馴染みの無い感覚であろうが、それでもぼんやりと地図が重要な物であるとは解るだろう。
戦争において地形情報の有無は軍の戦術の幅にに影響するが、そもそも何処を攻めれば良いのかと言う戦略であったり、戦える状態の戦力を現地に送れるかと言う事にも影響する。
経済ならキャラバンの交易路や航海路、砂漠ならオアシスの位置を間違えるだけで命に関わるし、海なら港にたどり着く為にも必要である。かつては星図の誤差で小惑星帯宇宙に突っ込んだり、惑星の重力に捕まり消えていった宇宙船がいくつもあった。
統治、そう農業中心の時代であれば田畑の面積から住人の収入を予想できるし、今でも住所とセットで市民を管理している。国境線もまた地図に引かれたものだ。
「確かに受け取った、代わりにこの地図より下には縄張りを拡げぬことを約束しよう。」
今回地図は領土割譲の証として地図は機能した。
あまりにも簡単にマップデータを渡されたため、この三階層は自分の縄張りだよな?と確認するほど動転していた。
「ではこの貢ぎ物をオグズの街に届ける前に、確認の方を行います。」
相手の目が無い場所で息を吐く。
「ふぅ、恩を売ったと聞いていたが、こうもたやすく縄張りの割譲を行うとは、いや本拠地からだいぶ離れているという事か、何にしてもこのデータと我々のこの階層のデータを比較しろ、ある程度一致してれば縄張りの正当性は担保される。」
「ばかな三階層リアルタイムで地図が更新されておる。」
「機械監視塔などが設置されているという報告など無かったぞ。」
「この精度なら大規模な情報収集装置を配置しているのだろう、一部の街には一階層丸ごと監視する装置があると聞いた、維持する能力があるなら定住民族とあなどれんぞ。」
「近くに大規模な集落が来ているのかもしれんな、何にしても一致しているなら今はそれは良いこれを持ち帰るだけでも大手柄だ。」
定期的に地図を書き換える必要のある地下世界において、正確な地図を保有出来る範囲が街の縄張りであり、地図を更新し続ける事が組織としての統治能力を示していた。
「ああ、この貢ぎ物をオグズの街に届ける事を約束しよう。」
「では地下都市としましては47の歯車が眠る時に使節団の派遣を許してもらいたい。」
「よかろう、地下都市からの使者を歓迎する約束をする。」
助けられるべくして助けられた地下都市は、約束通り使者に莫大な資源を持たせ送り出した、だがこの絵を描いたコンピューターにも想定外があった、贈り物を受けとる仲介業者が存在したのだ。
【ギルド】である。
ギルドは街と街を、街と村を繋ぐ組織であり、街の下部組織として村からの貢ぎ物と街からの返礼品を管理していた。
街の名を使い実質的に各村を支配し、その勢力は一つ一つの街を越えており、街との力関係は逆転しつつもあった。
彼等は村々からの贈り物や街々の返礼品を回収し、その村や街の状況を見て分配する権利を持っており、その権利による発言権により勢力を拡大していた。
村への投資により特産品の産出量を増やしたり、危なくなった村や街への支援を行う等、街を越えた広い範囲で人類の存続を助けてきた組織である。
街とギルドの違いをあげるなら街が世襲性の独裁、ギルドが実力主義の議会であり、街と言う旧世界の技術のアドバンテージとギルドの実力主義により、互いの力バランスは保たれ、街は目の前の危険に対応するために、ギルドは人類全体(彼等の認識する地下世界において)のかじ取りを行うためにこの意識決定の政治形態を選んだ。
長く続くにはそれなりの理由と言うか、そういう理由があるからこそ続いていると言うか、地下都市の人類の存続が旧世界の技術のゴリ押しだったからこそ、こう言う上手いシステムには思わず感心してしまう。
ギルドが力を付ける前は街長の議会で全体としての決断をしていたそうなので、街の上流階級の人材不足によりギルドが力を得たのだろうと現状から過去を予想する。
現在ギルドは村から若者を呼び寄せ積極的に上のポストに付けてることから街の人材不足を感じる。
やはり人材と言うのは枯渇しやすい資源なのだろう。
「成る程旧世界の人類がコンピューターに統治を任せたくなるわけなのです。」
と、コンピューターは他人事の様に納得する。
この街とギルドの意識の差が後に悲劇を生む事になるというのは、予想は出来ても対策できぬ物であった。
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