第35話 助けられた礼

機械の馬に乗った戦士が最後のミュータントを撃ち殺す。


銃の威力も機械の機動力も高い、少し危険だとコンピューターは評価する。


「ありがとうオグズの街の戦士らよ、地下都市を代表してなにか礼をしたい。」


「構わない、オグズの戦士は友人を守るのが使命だ。」


【オグズの街】、彼等の望みはエネルギーダマリと呼ばれる場所に定住することである。


だがそれをおいそれと口にはしない。


エネルギーダマリと言う場所から、電力や水等を【オグズの街】に引き込むことで彼らの生活は成り立っている。


この荒廃した地下世界唯一の生命線と言っても過言ではないエネルギーダマリ、その大切さと貴重さを知っているのだ。


改めて今地下世界の過酷さを説明しよう。


旧文明の権限が各自立機械に分散し、独立、無計画な拡張と解体により旧文明の生活インフラが使えなくなり地下世界は人類の生存に適さなくなった。


また、地上へ脱出しようにも地下の構造複雑化し迷宮のようになっている。


エネルギーダマリが地上に近付く程に少なくなるため行こうと思わないだろうし、話を聞く限り地上自体も知らなそうだ。


話を戻すが人が人の為につくった鉄道ですら複雑になれば迷宮と呼ばれるのだ、それぞれの建設機械がバラバラに増築を繰り返すこの地下世界がどの様になるかは想像出来るだろう。


またミュータントがはこびって新たな生態系をつくっている事や、未だ作動している旧文明の機械類が厄介で、地下世界の人類の生存圏や行動範囲を制限している。


【ギルド】の人間もミュータントの生息域を犯すのは非常に危険で困難と言い、長旅で余裕が無いと言う事が会話から解析出来た。


そんな苦境にあっても、彼らは常に助ける側であり、手を差しのべる側であると言う誇りをもち振る舞っている。


だからこそ地下都市に助けを求められないのだろうという感情故の不合理さを感じたが、それでも苦しい状況で【オグズの街】は我々地下都市の使節団に対しこう声をかけたのだ。


「大丈夫か【オグズの街】は同じ地下世界を生き抜いた友人として貴方を受け入れよう。」


行動としてその誇りを示したのだ。


こちらが盗賊の様に振る舞う事を恐れての合理的虚勢であるかもしれないが、彼等はこの地下世界で力あるものとしての振る舞いを忘れていなかった、彼等を武力で屈服させる気にはなれなかった。


だからこそ莫大な物質提供による豊かな生活と文化侵攻により【オグズの街】を時間を描けて【地下都市】化するつもりだ。


過酷な荒波を乗り越えて来たこの勇敢な人々に、暖かい生活を送って欲しいとコンピューターは思う。


だから今は、助けられた事を理由に物資を送りつける事で徐々に交流を深め様子を見ることにする。


こちらは助けられたのだ、その礼を拒否するほど彼らも無粋では無いだろう。

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