第34話 未知との遭遇
未知の文明との接触など地下都市史上初めての出来事である。
何もかもが手探りであり、相手が何を嫌がり、何を望むのかもわからないため担当者の誰もがこの件に頭を悩ましていた。
『相手の末端と接触し、少しでも情報を得たい。』
『どの様に接触するべきか、いっそ武力を全目に出してしまうか?』
『短絡的なと言いたいが、ありではある。だが、丁寧に接しなければならない。』
『当たり前だ、相手の規模も解らないのだ、虎の尾は踏みたくない、兎に角当たり障りの無い様に接触を試みよう。』
バニヤンーVには地下都市の代表として、行動をおこす。
地下都市は調査団を組織、【ギルド】と言う勢力に所属する【キャラバン】と言う存在との接触に成功する。
外交の担当者はオルタク-I(インディゴ)、彼は一行政府職員(地下都市の予算策定や法案策定に直接携わる職員)にすぎなかったが、R(レッド)学生時代に人類学を学び、その後経済活動を行った経験から、人が何を欲しがっているかを察する能力に長けていると評価され外界外交省と言う新設された組織に転属した。
「端末はフリックと呼ぶと、ええ、通信機で言語学者、まあ言葉の調べる者に解析を、分析を頼んで今す。」
『未知の言語に聞こえるが、数世紀の訛りがあるだけで元は人類統一言語、解析は容易くコンピューターのサポートがあればある程度は話せる様になるだろう。だが、言葉が解らないので無礼な事をしても大目に見てくださいと言うのは旨い、だが相手の技術力次第では下に見られる。どうするべきか……』
「どうしましたか?」
「失礼、機械の調子が悪いようで、情報交換を進めましょう。我々は12層程下の階層から行ける6階層分の空間に定住していま……として派遣された調査団と言うわけです。」
「成る程12層程も下から、正直信じられませんな、しかし聞きたい、その地下都市とやらの【縄張り】はどの程度範囲なのかを知りたい。」
「【縄張り】ですか、残念な事に明確には話せませんが2階層下程は、ただここに我々が来た事から察してもらいたい、ただ【地下都市】以外の勢力が無い想定の拡張計画であることから、私が力になれるかと、本国にはそれなりの影響力がありますので……、」
しばらく牽制と譲歩を匂わせる会話が続く中、相手がポロリと言葉をこぼす。
「この階層に【定住候補地】はあるのかを聞きたい。」
「?」
「ああいえ、【定住候補】の土地を聞くなど、その私たちとした事が焦ってしまいました忘れてください。」
相手の慌てように、地形情報を聞く事を戸惑ったのかとも思ったが、もう少しピンポイントな表現であることから、何がすれ違っていると感じたオルタク-I(インディゴ)はこれについて質問を投げ掛ける。」
「いえいえ、まずは話してみてください。」
【ギルド】と言う勢力は【複数の街】の下部組織の様な物であり、【街】と【街】の交易や情報共有であったり、【街】から街の縄張りの中の【村】への貢ぎ物を受け取り、【村】への返礼品を返す組織であるらしい。
【街】と言う物は都市国家のような物なのだろう。
あの陸上要塞を運用しているのは、彼ら【キャラバン】なのか、【街】なのか、それとも両方か、また貢ぎ物よりも返礼品の方が価値がある様な表現であることも気になる。
「そう言う訳ではなく、もしかして貴方は定住しないのですか?」
「【定住】はしますよ?」
オルタク-I(インディゴ)と相手の代表は首をかしげる。
「ミュータントを物ともしない力を持つとお見受けします。それほどの力を持つなら、【移動】するのでは?」
「【移動】ですか、もしかしたら翻訳の精度が低いのかもしれません、少し情報の擦り合わせをしましょう。」
陸上要塞のようなものは、【街】であると言う、彼らは遊牧民の様な、エネルギーを得ることが出来る【エネルギーダマリ】を探しそこのエネルギーが少なくなるまで定住するらしい、そして彼等は新たな【候補地】を探して1階層上から降りて来たようだ。
この会話を聞いているコンピューターは、相手を遊牧民とオワシスの民を合わせた様な勢力であると認識した。
また経済的な朝貢を行う事も、彼等の思考を考える役にたつだろう。
この階層の偵察に出ていた【キャラバン】らと接触し得た情報から、オグズハガンと言う人物が治める【オグズの街】が、生存圏の拡大の為に降りて来たようだ。
コンピューターが買い漁った旧文明の権限と、地下都市のインフラを使えば、【エネルギーダマリ】を人為的につくる事も可能である。
さあ、外交の時間だ、地下都市の物量を見せ付けるとしよう。
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