第33話 天才の異常性の許容
「市民ラムセス-UV、貴方にバニヤンーVの顧問に任命するのです。彼の補佐や指導を任せるのです。」
「受けようではないか親愛なるコンピューター、余とて壁外の建築には興味がある。正直に言って地下都市の建築は単調だ。」
地下都市の風景にケチをつける市民ラムセス-UV、彼は建築関連の研究者であり、戦後の地下都市の再建時には、彼のデザインが採用された事からUV(ウルトラヴァイオレット)として認定された。
「ほぉ、それは興味深いのです。コンピューターは貴方のデザインを完璧に表現したはずなのです。不備があると言うなら聞くのです。」
「リノベーションする気が起きん、ゆえに地下都市の建築はセクター内をどのように個性的にするかが主流になっている。」
何がゆえになのか、単に飽きただけと言うか、地下都市の改築レベルとまでは言わないが、大規模な仕事がしたいと言う愚痴として受け取っておこう。
しかし、彼の発言には光るとこもある。
「0か100、完成度の高さが災いして変にアレンジ出来なくなったという事ですか?」
「うむ、都市計画として間違いではない、故に単調と余は言った、各々が自由に建物を建てるなら、どの程度周りに合わせるか、あるいはどの程度個性を出すかを選び、それが都市の景観を彩る。最も、外の暴走した機械が作り出した混沌とした景観の様になるかもしれないが、それはそれで面白い。」
コンピューターを前にしてこれほどの我を出す市民ラムセス-UVを前に、空気になっている市民バニヤンーVが可哀そうに思うが、その分市民ラムセス-UVの意見は参考になる。
「ならいっそ、この景色を壁内だけの物にしてしまうのも良いかもしれないのです。」
「うむ、余も賛成だ、コンピューターの完璧性を象徴しつつ、中は市民の自由と言うコンセプトは今の地下都市を表し……」
天才の癖とでも言うべきものか、その天才性を維持するための歪みと言うのは常人の感覚から大きく解離している。
話は地下都市は今、限り無く天才の発生しやすい環境になっている。
まず多様性、ランダムな交配をメインに、遺伝子操作による調整を行うことで、より多くの種類の市民を生産する事に成功している。
(正直どんな市民が地下都市を発展させるかわからないため、あくまで、必要な職員等に調整する市民以外は多様性を持たせて、学生と言う身分で人材プールに貯蔵している。)
次に技術、限定的なナノマシーンの同化技術による感覚共有染みた情報の伝達は、ネットワークを手に入れた時のような技術発展を都市にもたらした。
コンピューターの調整により、次世代の市民の脳のが大きくなる傾向なのもあるが、ナノマシーンの同化技術が補助記憶装置とでも言う役割を果たし、市民は細分化した分野のいくつかを纏めて扱う事の出来るだけの環境と能力を手に入れたのだ。
技術は細分化され、一般から見れば良く解からない物になる。今は転換点、学ぶことの多さに対応出来るという状況は、歴史上最も技術が発展しやすい状態と言えるだろう。
例えば紙の発明、ネットの普及、限定的な脳と機械の接続、こう言った状態は科学万能をうたう様な時代の人間が想像した創作物の中に出てくる様な一人で何でも出来る科学者、それこそダ・ヴィンチやアリストテレスの様な何でも出来る技術者と言う人材も発生する事になる。
最後にコンピューターによる教育、いや、まとめて地下都市の環境として説明する。
それは限定的なナノマシーンの同化技術、伝達用の効率的文章や話し方、分かりやすい映像を駆使する事により効率をあげ、さらに制度により市民に多くの時間を与えることでその人物が天才になれる分野を探しやすくした、そして何より、冒頭の様なずれた、歪みのある人物が当たり前に受け入れられる社会を創った事により(許容できない類の歪みは電脳世界に入れたり、他の市民と距離を置いたり、コンピューターが個々に対応している。辛い)、今の地下都市はUV(ウルトラヴァイオレット)候補のU表示のU(ウルトラヴァイオレット)を多く抱える事になる。
彼らが表彰者であるUV(ウルトラヴァイオレット)として地下都市に名をはせる機会は近い、少なくともラムセス-UVの言う事が実現すれば、多くの建築関係に携わる市民が頭角を現すのは間違いないだろう。
『育成は出来たのです。ならあとは、機会を用意するのです。』
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