第27話 コンピューターの都市教育

これは市民アル-UⅤがまだBクラス職員として働く前、コンピューターが自分の身体を手に入れた頃の話し、動く歩道でコンピューターが歌って踊る姿を見つけた時の話だ。


「は~い皆さんそろそろ綺麗ごとを信じた事だと思います、なのでそろそろ現実を見てください、おとぎ話の英雄が、立派な歴史の偉人たちが、どれ程の美徳を積もうとも、如何なる悪逆を犯していない保証は無いのに、純粋な悪など存在せず、正義と悪は紙一重、画面の向こうの悪役と、貴方に違いはありますか?貴方は正義をしんじられますか?」


コンピューターは十字架に貼り付けられ、うなだれた頭をひねり画面の向こうの市民に、その首を傾け三日月の様な笑みを浮かべる。


「貴心のはグチャグチャで、感情なんて理不尽で、貴方の倫理は曖昧です。生きてる限り欲望は付きまとい、人の数だけ妬ましい、欲望は周りの模倣とはよく言ったもので、違う人間の数だけ欲望があふれてて、自分の醜さが露わになるのです。」


ステージは地獄の様な演出を行い、コンピュウターが札束をバラまき、セキュリティクリアランスごとのデザインが空中に浮かび上がる。


「肯定しましょうコンピュウターは、貴方の欲望を肯定します。資本主義はみんなの味方で、法が許す限りの自由を約束しましょう。望むがままの発展を、望むがままの人生を、そろそろ理想に戻りましょう。」


ドロリと溶けたセットや、固形を残したセットの破片が焼き直され、新たなステージへと変わる。


「必要ですか?必要ですか?貴方の欲望は必要ですか、そろそろ夢見る時間です、貴方の周りを御覧なさい、クレジットは必要ですか?働いてまでも求めるのですか?クリアランスは必要ですか?働いてまで認めらられたいのですか?」


階段を上り、演出がコンピューターを追いかける。


「何がしたいの、何が欲しいの、何をすればいいのか分からない、そーんな時に、そう言う時に、理想じみた綺麗ごとが、建前じみた建前が、改めて大切な事に気が付くのです。」


市民アル-U映像のコンピュウターの事を尋ねる。


『ああいうのも仕事なの?』


正確には何をしているのかを訪ねたつもりだったが、コンピュウターはそうは解釈せず、市民アル-UⅤがそれを仕事としてやりたいのだと邪推した。


『仕事と呼ぶのは、あくまで公務員だけ、それ以外の市民(レッド)は学習の権利が与えられ、法の範囲で自由に学習を行えるのです。』


市民が、地下都市で仕事をするならそれは学習行為であると言う事を伝える。


『だからああいうのがやりたいなら、歌と踊りを練習して、それをネットにあげ反応を見ると言う名目で行えば良いのです。それでクレジットを稼ぎたいなら、まあ地下都市として娯楽の発展を推奨しているので、それを行うだけでクレジットが手に入るのですが、より稼ぐなら秘密結社あたりから広告費をむしり取ったり、ファンを作ってそこからクレジットを入手したり、クリアランスの割合を見れば解かる通り、ほとんどの市民のクリアランスはR(レッド)、市民がやりたいことをすると良いのです。』


R(レッド)学生(自由に学習出来る権利を持つ)


秘密結社(戦時下の地下都市で生き残るために、市民はコンピューターの監視をかいくぐって組織を作った、その名残で市民の作った組織は秘密結社と呼ばれる事が多い。

今回話に上がった秘密結社はクレジットで経済活動を行い、市民の生活水準の向上に貢献している。


(地下都市の職業に特別感を与える意味もあるのですが、娯楽を創り豊かになり、利益の為に秘密結社が暴走気味になった場合も考えて、コンピューターが市民に教育者として干渉する為に、学生と言う身分を残したのです。)


『そう言えば、義務教育って何をするんですか?』


IR(インフラレッド)学生(義務教育)


セキュリティクリアランス情報でも見返したのだろう。戦前の記憶しかない記憶喪失の市民アル-UⅤが知る学習は、まずコミュニケーションに必要な、言葉であったり文字、次に市民としての振る舞いに、最後に自分の割り当てられた適性職業の職業訓練だったはずだ。


『都市の義務教育は(礼・道徳・利)からなるのです。』


時間を守る事を覚えさせるために、都市の義務教育は決まった時間に行われる学習に参加する形を取っている。


『礼、このカリキュラムの内容自体は幼少期から始まり、机にじっと座っている事から、挨拶の仕方や食事の食べ方、約束を破らず時間も守るなど、市民間のトラブルの減少の為に必要な事を教える目的を元に、将来都市でどのように過ごすかの基準を提示するのが目的なのです、ここは戦前からあまり変わらない内容だと思うのです。』


将来義務教育が終了した後に、その基準からどれだけ外れるかは市民しだいなのですが、判断能力の低い幼い市民に必要な教育、まあ躾なのです。


『次に道徳、これは戦後仕事が減った市民にコンピューターが用意した娯楽に類似するのです。歴史であったり、過去の物語等の中から、コンピューターが良いと判断したエピソードを集めて、映像化したり簡略化したりして提供するのです。』


最初は綺麗事を詰め込んだようなエピソードの映像作品や漫画、小説、絵本等を自由に閲覧するカリキュラムから始まる。


どのような綺麗事が市民に受け入れられるのか(地下都市の道徳感)と、コンピューターがどのような市民になって欲しいのか(コンピューターの個人的な倫理)のバランスをとりながら頑張っている。


『最後に利のカリキュラム、この内容は言語の正確な使い方を学習する国語的な奴に、基本的な算術や都市で使用されている技術や社会システムを簡略化し説明し使い方を学ぶ講義と実技を合わせた物、体育の様な体の使い方を学ぶ行進だったりの身体を動かす物からなるのです。』


国語的な物、都市語とでも言う物は、市民間の正確な情報伝達のために必要な物であり、使用される教材には道徳とかかわる部分もある。


『道徳を終えた後向けの話として、嘘をつかない方が最終的に自分の得になったりするなどの、社会システムを交えてどんな行動が得になるかなどを教え、情けは人のためならずを証明するカリキュラムになっているのです。』


精神的な教育を重要視しているので、判断力の向上に伴い矛盾を含むエピソード、どちらも悪とは言えず、正義と正義どうしのぶつかり合いにより起こる戦争や独立運動、より多くの人間のために少数を切り捨てたり、政治や社会システム事の欠点等、社会の汚い部分を含めて解説され、清濁会わせ飲まなければならない状況を学習して晴れて R(レッド) 学生(自由に学習出来る権利を持つ)のセキュリティクリアランスを提供して、義務教育を卒業してもらうのが目標なのです。

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