第28話 何で個人で公共事業が出来ないんですか?

【『【ビクトリア貯水層】のBクラス職員から【魚類のミュータントサンプル】来ました、解析に回します。(新しい場所で新しいミュータントを見つけたから調べよう)』】


コンピューターは電脳世界を飛び交う通信の下をてくてくと歩いて進む。


【『同化目、共存目、獲得目……(ミュータントを分類)』】


(こっちでも少女の姿なのですとコンピューターは驚くのです。)


ある程度、人の姿を取れる程度には優れた電脳空間では、アバターはナノマシーンにより手に入れた肉体に引っ張られるようだ。


【『【獲得目】と言うのは何だ、このミュータントなどは甲殻類に見えるのだが?(分類するなら節足動物門では?)』】


(まあこの姿で市民には認知されているぐらい露出していたので今頃なのですが、肉体を得る前にこう言う電脳空間でリアルアバターを作れば、コンピューターの前世の姿とか分かったかもしれないのではやまったのです。)


そんな事を考えながら助走をつけてジャンプし、プールに飛び込むように現実世界へと飛び込む。


【『これまで昆虫類・甲殻類・クモ類・ムカデ類などの節足動物門、貝類を含む軟体動物門生物が変異したと思われていたミュータント、これらに内骨格、ナノマシーンを製造するナノ脊椎と命名された器官が存在していました。(ミュータントには脊椎動物しかいない)』】


何処かの研究所で■■■(機密)体目のコンピュウターが目を覚ます。


(眩しいのです。)


コンピューターが目を細めると、センサーが瞳孔の変化を計測して最適な光量を計算するのが分かった、よほど感の鋭い市民でもなければ、この部屋が眩しい事にすら気が付かないだろう。


【『両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類の変異生物に加えて魚類(ぎょるい)、全てのミュータントが脊椎動物……(ミュータントには脊椎動物しかいない)』】


光源が自動的にコンピューターの周囲の光量を落す。


証明は飾り、装飾の類で、実際に発光しているのは壁や天井、その光は柔らかな物であったが培養槽から出たばかりのコンピューターには眩しかった。


【『もはやミュータント、突然変異した生物と言うより、これが今の生態系であるという事だろう。(ミュータントと呼ぶべきでは無いのでは?)』】


コンピューターは食事と衣服を選択し、その場で焼かれた衣服に身を包み、調理された食事を取って廊下に出る。


【『獲得目、これらは内骨格を退化させ新たな機能を得たという事で獲得目と呼称、これにより、現時点で確認できたどの生物も脊椎動物が進化したミュータントである事が。』】


ランニング中の壁を叩きながら通信を行う市民とすれ違った(窓や壁の三分の二がディスプレイモニターになっている。)、向こうがチラリとコンピューターの斜め上を見ると驚いた眼で頭を下げ、再び【魚類のミュータントサンプル】に視線を戻してコンピューターの視界から消える。


『植物もミュータントとセット、植物のみに見えるコケなどですら共存目のミュータントか。』


(市民の会釈は、相手の頭上を見て、その後視線をさ上げるのです。)


市民の頭上には名前ーセキュリティクリアランスー住居(セクター(自足可能な住居区画)))が表示され、もう少し詳しい、クレジットの所持数だったり地下都市の評価だったり職業も観覧出来る。


あいての顔をみて、次にパラノイアに陥っている市民は相手を詳しく知ろうと視線を上げる。しかしあまり相手の情報を眺め続けるのは敵対される可能性が上がるので視線を逸らす。


そんな一連の流れがマナーになり、挨拶となって今も残っているのだ。


『ナノマシーンを製造期間をナノ脊椎と命名した事から、これらのミュータントの分類はナノ脊索補強動物門と名なずけるべきでしょう。』


(そう言えばこのあたり一帯の窓や壁の三分の一がディスプレイモニターになっているのです。さっきすれ違った市民を中心にクレジットを払い、申請した公共事業としてこの04Lセクターの大半にディスプレイモニター設備したのです。)


市民がコンピューターに働きかけて、自分の暮らしやすいセクターにする事は珍しくない。個人が所有する住居は個人の自由に出来るのは勿論、クレジットを払えば公共の場の一部の改築や、(セクター(自足可能な大規模住居区画)))ごとの改築が割と簡単に出来たりする。


(行政や組織や個人、規模に関係なく住みやすい地下都市になるなら手を加えることが出来るのです。もちろんコンピューターなりに申請者ごとに申請に必要な条件は変わったりするのですが、それなりに簡単に申請は通るのです。コンピューターには市民と同じ視点に立つ自信が無いので、申請された施設の維持位は任されるのです。)


過疎ぎみな地下都市では市民同士で集まろうとしないとこの世界には自分一人視界何のではないかと思うぐらいに広い、だからこそ似たような要求を持つ市民同士で集まり、欲しい設備やインフラ整備に必要なクレジットを見積してコンピューターに申請すると言うのはよくある事だ、元からそこに住む市民と険悪になる事もあるが、地下都市の交通手段は優れており、住居ごと引っ越しする事も出来る。


つまり嫌なら逃げればいいし、引っ越し先を自分好みにする事も出来るのだ。


誰もいない地下都市で、コンピュウターは研究セクターの小さな(コンビニ位の大きさ)製造区画へと進む。


(あの地下都市の襲撃以来、市民の興味は壁外へと向いてはいるが、だからと言って地下都市から出たいとまで思う市民は少ない、だからこそネットへのアクセス手段に需要が生まれ、同時に市民同士の情報交換も増えたのです。)

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