第25話 キャラバンとコンピューター

逆関節の四足ロボットに、小型のコンテナだったり袋だったりをギリギリまで乗せ、それらを囲むように隊列を組んで進む一団、それがほとんど明かりのついてない通路を走るように進む、その中の一人が俺だ。


俺らが生まれるずっと前、都市は人間の為に作られたらしい、だがある時人間はその権利を失って、それ以来都市は勝手に増殖し、人間は不法滞在者として駆除されるようになってしまった、街の連中は何時もそんな事を言っている。


ちらりと、何かの建材だったり、別の何かだった機械をつぎはぎして作られたロボットを俺は見る。


「お前も建設者みたいに、都市を造れるのか?」


俺はなんとなく呟いた、先輩はそんな俺に気を抜くなと注意する。


村生まれの俺には、人が都市を作ったって話が本当かどうかは分からない、けれど街がすごい事は分かる。人が集まることが凄いって言うのは良くわかる。


パワードスーツの様な物を下半身に装備し、その上から装甲を張り付けたマントを羽織り、最低限のセンサー類を付けたヘルメットを被り、角ばった銃火器で武装した中でも機械を背負った一人が先頭の人物に話しかける。


「ボス、どうにも建設者が一斉に方向を変えたらしい。」


「ギルドからか?」


「ああ、あいつらが勝手に動き回るのはいつもの事だが、建設をやめて移動してるらしい。」


「奇妙な事だ、おや噂をすれば何とやらだな。」


そう言って、ボスと呼ばれた人物が、通路の入り口で隊列を止める。 


地面が揺れた、巨大な腕が建設者の身体を支え、高層建築物を足場に進む、五十メートル以上あるであろうその巨体に若い連中が武器を構えようとするのをなだめる。


「進路から離れれば問題ない、行くぞ。」


巨大な人形の上半身と、六つの腕、サーチライトで周囲を照らしながらも、指定された座標へと進む。


「作業してないと結構はやいな。」


「あの巨体だ、結構な速度を出してるだろう。しっかし、ああもデカいと人間なんか眼中に無いってかんじがするな。」


「おいっ!底の方にもいるぞ。」


足場の状態を確認しようとしてた人物がさらに声を出した。


俺は振り返りながらも、人間が都市を造ったなんて信じられないと改めて思った。


コンピューターは思う、何かいるなと、市営化した建設者、そのセンサーが、おそらく地下都市の外、壁外の人間を捉えたのだ。


(ついに考えなくてはならない時が来たのです、市民に性行為の存在を説明するときが。)


コンピューターには悩みがある。


と言うか今出来た、それは子供に赤ちゃんの出来る方法をどう説明しようか悩む感覚に近いだろう。


市民は試験管から生まれると言う描写から解る通り、コンピューターが、地下都市に存在した全ての市民の遺伝子情報から、組み合わせを考えて次世代の市民をつくる。


地下都市の教育についての話は別でするが、子供の内はクリアランスIR(インフラレッド)学生(義務教育)として扱う。


(コンピューターは肉体を得てから、ようやく市民が勝手に増える嫌悪感が消えたのです。しかし今度はどうやって市民に性行為について説明するか……)


本来なら義務教育で習う内容だろう、だが今頃義務教育を終えた市民に性行為について話すのは抵抗感が凄いのです。


(勿論コンピューターは何もしなかった訳じゃないのですよ、ちゃんとクリアランスR(レッド)で観覧出来る情報の中に保健の教科書を紛れ込ませたのですよ、コンピューターはコンピューターはヘタレなのです。)


コンピューターは言ってて、自分の言葉にダメージをうけた。


(真面目な話し、地下都市に家族と言う概念をどうするかも悩み処なのです、歴史をモデルにした娯楽作品の家族の説明は、子供を育てるための最小の群れ、あるいは組織の単位であると説明してるのです。)


同室の市民と言う感覚も、過疎化した地下都市では廃れつつあり、恋愛系の娯楽作品に首をかしげる市民も少なくない、それに血の繋がりであったり、自分の子供と言う感覚もなく、地下都市の子供と言う感覚の方が強いだろう。


(まあそれらを見て、コンピューターがなかった頃はどうやって子供を作っていたのかに興味をもった市民が保険の教科書のような情報を観覧はするのです。)


しばらくコンピューターは考える。


(性行為を親しい人とのスキンシップの延長の娯楽にして、体に負担の大きい出産は機械で行うことにすれば、外の人間に説明出来るのです。)


何を悩んでたのかと言えば、結局の所、市民が外の人間と接触して恥をかかないかであったり、外の考え方に困惑するのではと言う点であった。


(性行為を娯楽に、いやそれだと淫らな市民に思われるのです。)


コンピューターは顔を赤くして悩む。


(家族制度も、パートナーとなる異性を見つけた市民に導入して、自分で子供を生むか、試験管で出産するか選べるようにするのです。)


欲望は他人の模倣であると言う言葉を思い出して参考にする。


(恋愛系の娯楽の比率をあげて、気の合う人物と一緒になりたいと思わせるのです、市民を童貞とか処女とかうぶだとか思われないように頑張るのです。)


暴走気味であったが、家族と言う感覚を市民にもたらしたのは、良い行いであっただろう。


(10年後をゴールに頑張るのです。)


突っ込み所もあるかもしれないが、教育もコンピューターの担当であるから間違ってないだろう。


ただ、自発的に検索をかけるように誘導するあたり、やはりコンピューターはヘタレなのではと思ったコンピューターであったが、やはり自分で調べた方が市民の為にも良いと完璧なコンピューターは判断した。


(そもそも、今回の発見も偶然のものであり、彼等の規模が不明である以上、三次元に複雑な地下世界でもう一度遭遇出来る可能性は低いのです、それこそ10年間本気で探してもう一度出会えるかどうか、それならビクトリア貯水層への交通、通信インフラを優先するのです。)


遭遇する前に情報は集めたいが、向こうから接触してくる可能性もあるから、外交の準備位はしないとなと思うコンピューターであった。

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