第20話 空中戦艦脱出・下

辛うじて浮かぶ空中戦艦に、対空砲火を切り抜けたミサイルの様な実態弾がぶつかる。


装甲を破った砲弾は形を変え、いくらかの人員を艦内に送り込んだ。


『何かが侵入したな、カナン-U君武装のセーフティを解除したまえ。』


『分かりました、センサーの出力はどうしましょう。』


『侵入者の目を引きかねんが仕方あるまい、相手が相手だ、命を落とすまで相手の存在に気が付けないなんて事になれば目が当てられない。』


そうですねと、アザゼル-UVの言葉を肯定しつつ、センサー類へと意識を向ける。


『後方から何かが近ずいています。』


『速度を維持したまえ、データリンクを、鹵獲機械の想定速度より遅いな、余裕はありそうだな、いくつか自律機械を動かすとしよう。』


共有した情報から自身が迎撃を行うことを決定する。


『対象の補足は任せよう。』


重厚なコートの下にパワードスーツを着込み、ガスマスクと仮面を合わせた様な見た目の装備を装備したアザゼル-UVは、その頭装備により思考による機械操作により、艦内の自動整備機械を操作する。


対象の補足にラグが生じる。だがこの程度の性能で航空機重歩兵と渡り合えるとは思えない、それぞれの機体にどの程度の性能差が?


「今は考察に思考を割くのは止めておく、作業機械でも足止めは出来そうだと分かった事を収穫としよう。」


あえて隣の作業機械に拾える音声で口に出して話す。


『先に行きたまえ、私が足止めを行う。』


艦内に侵入したアンドロイドは12体、拾えた通信によれば、そのうちの10体がSG型のメイドであるらしい、指示を出していた機体とその付き添いの機体の通信までは拾えなかったが、行動からこの空中戦艦へのアクセスを試みようとしているのだと予測できる。


空中戦艦の内部センサー類にアクセスしながら火炎放射機を構える。


「どうかね?計算上問題ないと分かっていても、ぶっつけ本番の試射は緊張する。トライ&エラーを繰り返すのは世間体が悪いからね、ナノマシーンと万能セラミックを形状記憶させた物を混ぜてみた、君らほど自在に焼き直しを行えないが、内部から動きを封じる位のことは出来る。」


炎に飛び込んできた二体のアンドロイドは、金属のような万能セラミックにまとわりつかれるように動きを止めていた。


「おや、想定より焼き直しの精度が高い?失礼、解体させてもらうよ。」


右腕に籠手のような、鉤爪のようにも見えるパワードスーツに取り付ける工具をはめ、その場から動けぬアンドロイドの銃撃を避けながら解体する。


「ナノマシーンの精度の差か再計算で問題なし、おっと逃げねばならぬのであった、少なくともこの失敗が意味のあるものであったのがせめてもの救いか、道を急ぐとしよう。」


改めて観察に戻ると、一部のアンドロイドには自律思考出来るだけの機能と役割があるらしい、ただの暴走機械の群れによる襲撃ではなく組織的な行動、目的がありその遂行のために行動、外への好奇心が駆り立てられる。


『ダメですアザゼル-UV様、下部格納庫のハッチが開きません。』


助手の叫びとも言える通信に、思考を現実へと戻す。


『艦内システムの一部を乗っ取られたか、おや近くに有人機の反応が、通信を行えるかね?』


『確認、通信繋がりました、Bクラス職員の反応、協力を取り付けましたアル-U職員です。』


市民アル-Uが脱出に使用したのは大型の航空機、AC(攻撃輸送)-[海獣]200、それは光が内側に青く光る六枚の円盤の様な推進器を持ち、正面から見れば流線形の、後ろから見れば意外とずっしりした積載量のありそうな航空機であった。


戦闘用の航空機はずベて発艦し、残っているのは輸送機のみであった、少女は勿体ない精神にのっとり、一番大型で積載量の多いそれ、AC(攻撃輸送)-[海獣]200を選んだのだ。


『どうしましたか?』


侵入者により空中戦艦の一部機能を奪われ脱出を阻害されていると聞いた市民アル-Uは、AC(攻撃輸送)-[海獣]200の兵装を用いて強引に道を開く。


『位置情報共有、シュミュレート、統計学上問題無しと判断、その位置から動かないで、格納庫ハッチを破壊します。』


レーザーにより少しずつ溶かされた外部ハッチが焼き切れ、内側に倒れる。


『感謝しよう、私も合流する。』

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