第19話 空中戦艦脱出・上

市民アル-Uは、ナノマシーンとの同化により広がった職業適性をもとに、B職員を目指していた、事故の直後のあの人の表情が切っ掛けたったのかもしれない、しかしどうにも乗り物に対する適性が高く、こうして空中戦艦を扱っている。


「レスキュー方面を目指してたんだけど、コレクション感覚で色々取ったからな。」


こうして彼女が空中戦艦にのせられているのも、襲撃時に駐屯地にいたからであり、空中バイクと言う地下都市でもあまり使われてないニッチな乗り物の免許を取るためにシミュレーション室にいたからだ。


「緊急事態だからって、階級が足りないのに乗せるかな普通、余程の緊急事態?それともその鹵獲機械ってやつが大切なのかしら、考えても仕方ないか……、味気無い、自動操縦って味気無い、操縦させてくれないかな?階級足りないか~」


交通事故で記憶を失ったらしいが、それでもこうしてこの戦艦を動かして見たいと思うあたり、余程乗り物の運転が好きだったのだろう。


視界のすみに計器がうつる。


「重力の異常?」


何と無くの違和感から途中式を無視して答えを導き出す、その速度は、全ての可能性を考慮した上で判断する戦艦のAIを抜き去った。


『!!、アル-U様何を……』


戦艦のAIが警告を流すが、それを無視して船体を旋回させ、シールドを限定して集中して展開、同時に船内の隔壁を閉鎖の指示を出す。


「高エネルギー反応、敵ビーム兵器、総員ショック体制。」


館内アナウンスが、私しか乗っていない艦内に流れる。


盾になるように前に出てみたけどどうなったか、少なくともこの艦の航行能力は失われたけど、反重力装置の方は無事、浮かぶだけなら、姿勢制御も残った推進装置を微調整で……、


そうこうしているうちに退艦命令が出た。


『じゃあ、今の状態を維持すれば姿勢を保てるから、02-小型スラスターと45スラスターを同時に反対方向に吹かせば旋回位は出来ると思う。』


『了承しました、ではアル-U様すぐに退艦を、屋外格納庫までのルートを表示します。』


ヘルメットの様な装置を頭部に付けたアンドロイドが、口から煙を吐いて倒れ、運び出されていく。


『権限の掌握に失敗、現地点からのアクセツでは防壁に阻まれる模様、更なる中枢への侵入、より権限の強いサーバーからのアクセツを推奨します。』


立体的なホログラムの光のみが光源となる一室、コ型の投影議会の机の中心に、上位者としての雰囲気を纏うアンドロイドが立ち、その配下であろう同じメイド服を着たアンドロイドが等間隔に机を囲む。


『通信量の増加、敵通信網の回復も時間の問題だと判断できます。』


中央のアンドロイドが、状況の変化を伝えた。


『統括HK-00に報告、作戦行動中のH-Mメイドの中に、ナノマシーンによる自壊に失敗した者がいるそうです。どのように対応しましょうか?』


ワンポイントの装飾、各戦場の指揮を任されたアンドロイドが指示を仰ぐ。


『そうですね 、そろそろ敵の目を引く必要があるでしょう。侵入させた宇宙戦艦の一隻を使用、をビーコンに砲撃を行います。』


統括HK-00は状況を動かす事を決定した。


『了解しました、トロイ級ステルス強襲揚陸宇宙戦艦オデュッセウス、ステルスシールドを解除、ナノ光学迷彩を解除しつつ高度を取りなさい。』


胴体を砲身とした大出力のビーム兵器が、空中に浮かぶ全長500メートルクラスの戦艦を貫き、かばおうとしたもう一隻ごと船体に穴を開けた。


『統括HK-00に報告、想定通りの破壊力です、失礼、主砲出力が僅かに低下していたもよう、反応が消失するまでのラグが長すぎます。』


懸念の言葉に対し、推測の言葉が追加される。


『通信を無力化して運び出されたと考えるべきです。偽装ナノマシンを剥がされた場合、統治機関に対して攻撃を行ったと言う、[メイド派遣クリーンサービス]のイメージの悪化に繋がる可能性があります。』


各管轄の立場からの懸念の声が発せられる。


『製造番号を消してはいますが、我が社の製品であることに変わりはありません、株価に影響が出る可能性があるかと。』


『我が社の株価は数世紀に渡り変化はありません、また本作戦の計画は本社にも送りましたが、抗議も来ておりません。』


それらに対し、データとともに僅かに感情じみた反応で問題無しと断言する。


『了解、引き続き作戦の遂行に務めます。』


統括HK-00は、抗議でもいいから連絡が来てほしかったとはもらさなかった、中途半端に高性能だからこそ違和感に気が付き悩む、けれど行動を変えるほど逸脱は出来ない、そうして自動人形は稼働し続ける。


『いえ、クライアントのオーダーは機密保持を優先でした、追撃部隊を陽動として派遣、またHk-02、03共有モデルにはそちらの判断で動くように伝えなさい。』


空中戦艦、増設簡易解析室、わずか数ブッロック先、解析室を出れば、通路の向こうに地下都市の景色が広がってる。


「困りましたね、何かしらの信号を発していたのは把握しているので無効化してみたのですが、いやはやカッコイイ、どうにも私は巨大な兵器の方に惹かれるようだ。」


『アザゼル-UV様、鹵獲機械の輸送準備が出来ました。』


『よろしいカナン-U君、航空機のハッチへ向かうぞ、君は作業機械に乗ってついて来なさい、私はパワードスーツで走る事にする。』

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