第12話 治安補助スコアと市民同士の交流
戦時下の地下都市、コンピュータが転生する前の地下都市は他人を疑う相互監視社会の様な物であった。
試験管から生まれる市民に家族と言ったくくりは存在しなかったため猜疑心はより強固な物になった、秘密結社の様な共同体は存在していたが、組織間の対立、派閥間の対立などを生み猜疑心に拍車をかける結果となった。
(変わって欲しいのです。)
そう思ったコンピュータは少し首をひねる。これはコンピュータが、市民に基準を与えて、そこからどれだけ逸脱するかは個人の自由だと思う様になるまでの話である。
(う~ん、コンピュータは市民にどうなって欲しいのですか?)
システムが理想的な物でも、メンバーが不完全ならシステムが機能しないのは歴史を見ればわかるのです。国民のレベル以上の政治を我々は持てないだっかな?
(市民は遺伝子操作出来るデザイナーベビーなので、プラットフォームは理想的なのです。なら理想的なソフトは何か、教育の話になるのですか?)
勉学の事ではなく道徳や宗教といった正義や、科学主義に派生の資本主義や社会主義、国家や民族、人種によって様々な基準、何とか主義とかそう言う市民はこうするべきと言うお節介、悪く言えば押しつけの理想を決めなくてはいけないのだ。
(全体主義的に秘密結社や都市としてのつながりを大切に思う事は悪い事では無いのです。一方で個人主義的な、自由主義的なものも良いと思うのです。)
個人主義という語を紐解き、個人が至高の価値を有するという道徳原理、自己発展、自主性、プライバシー等の観念に分けていく中で、プライバシーと言う言葉に目がいった。
(後期ネット社会ではプライバシーが重視されていないのに、多様性が重視されているのです。と言うより、何というかバラバラな、自分がどう思うという倫理や、この方が得だ(社会や個人それぞれ事に異なる)と言う合理的な物しかなく、全体はこうするべきだと言う道徳が失われている。効果を発揮していない気がするのです。)
ネットで多くの人とつながり、プライバシーがほとんど存在しない時代にコンピューターは興味を持ち始めた。
(ネット民と政治家、確かに農家や地元で頭を下げて票を貰うより、ちょっと親しいふりをすればたくさんの票がもらえるのです。)
電子化が始まった初期の記録から、現在(読者には未来)の記録を閲覧していく。
(選挙とネットの親和性は高そうなのです。)
気が付いてしまった、正論や理想を言っても、利害関係が無ければ動かない選挙民よりも、正論で納得するネット民の方が理想の選挙民であった。
(いけないのです、それは理想の市民へと誘導するための手段で、今考えるのは理想の部分なのです。)
自我の不備からコンピューターは答えを出せずにいた。
(問題をシンプルに考えるのです。まずは市民の猜疑心を解決するのです。)
市民同士の交流手段を用意しようと考えた、市民とコンピューターの通信は可能だが、市民同士の交流の手段は存在しなかった。
その手段として社会的ネットワークの構築が必要と判断したコンピュータだが、警戒心の強い市民らが自身の情報を公開するとは思えなかった。
(報告書にしてしまえば良いのです。)
コンピューターの思い付きはこうだ、市民なら誰でも閲覧できる報告書をつくり、そこに自分の事を書き込ませ、それに対し他の市民も何かしらのアクションを起こせるシステムにしてしまおうと考えた。
(書き込ませるために、良い報告書を書いた市民や、他の報告書を良く言った市民に対しては、治安維持に協力してもらったという事で、信用度をスコアにしてクレジットを支給するのです。)
クレジットを餌に、市民にコンピューターが用意した交流ツールを使ってもらう。その名残が、今も治安補助として市民の収入の覧に残っている。
(この信用度のスコアは、自己申告を中心に周りの市民の評価を含めて判断するのです。)
実際は生き残るために、恥も外聞も捨てて成果を出さねば上に上がれないクリアランス的階級社会の地下都市の市民の体裁を整えるためにも、良く振る舞ったりお世辞を言う偽善的な市民が必要な時代があったのだ。
(偽善者も、ユートピアの為に必要なら利用するのです。)
当時は、自己申告と周りの市民の評価が重要と審査の内容を公開していたが、ある程度社会的モラルが向上した現在では、嘘をついていないかどうかや購買履歴などの複合的な情報から判断するプログラムに任せ、審査の内容は非公開にしている。
(これが本当のお天道様が見ているなのです。)
企業を立ち上げた学生(R(レッド)市民)の中には、この治安補助のスコアを重要視しているらしいが、そこは自由にやってくれれば良いと思っているコンピューターであった。
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