第8話 クリアランスと権利と政治

(コンピューターは怖いのです。コンピューターは市民の感覚を理解出来ているのでしょうか、コンピューターのしたことが市民を傷付けているかもしれないのです。コンピューターの改革が、別の歪みを生んでいるかも知れないのです。コンピューターの影響はデカいのです。何かの行動が、この都市を大きく変えるのです。怖いのです。怖いのです。)


 コンピューターの影響力に、その責任に震えながらも、ユートピアを目指すのだと気持ちを切り替える。


(こんな立場、長く就く物じゃないのです。コンピュウターでやってしまった方が速いのだとしても、それで市民が何も出来なくなってしまっては本末転倒なのです。今の市民は、少しばかりたくましすぎておっかないのですが。)


『コンピューター、今頃の疑問なんですが、いきなりクリアランスを上げてよかったんですか?』


『クリアランスに戦時下の様な強権、階級的側面は無いのですよ、クリアランスによる移動制限も物資制限も廃止されたのです。現在のクリアランスは、市民の職業に合わせて必要な情報を提供するものでしかないのです。』


 自分の記憶に残っている記憶は、戦時下の物だったのかと納得しつつも、ちょっと興味を持ち検索をかける市民アル-U。


 検索結果

[戦時下]、コンピューターが終戦宣言を出す以前の数百年間を表す名称


『もちろんそれだけじゃないのですよ、クリアランスの高い市民程コンピュウターに認められた市民として尊敬を集めるのです。市民アル-Uも、尊敬される立場ではあるのです。クリアランスごとの職種を表示するのです。』


 [セキュリティクリアランス]について


 階級コード  職種


 IR(インフラレッド)     学生(義務教育)

 R(レッド) 学生(自由に学習出来る権利を持つ)

 O(オレンジ) 監督職員(自動機械の監視を行う職員)

 Y(イエロー) 一般職員(各種業務を行う一般的な職員)

 G(グリーン) 技術職員(専門的な知識を必要とする職員)

 B(ブルー) 公安系職種(地下都市の社会の安全と平和を守る仕事)

 I(インディゴ) 行政府職員(地下都市の予算策定や法案策定に直接携わる職員)

         司法府職員(裁判に関わる職員)

         立法府職員(地下都市の運営及び、予算案を行政府に提出する職員)

 V(ヴァイオレット) 大臣(各行政部門の長に位置する選挙で選ばれた官職)

 UV(ウルトラヴァイオレット) 研究職(各種分野において技術発展に寄与するであろう市民)

               表彰者(各専門分野で何らかの評価を得た市民に対し付与される)


『セキュリティクリアランスが低い順に表示したのです。正直な話、情報内容としてはIR(インフラレッド)、R(レッド)~B(ブルー)、I(インディゴ)~UV(ウルトラヴァイオレット)と言う実質三段階の変化しかなく、やっぱりクリアランスの種類には権威的な意味が強いの。』


(戦時下に権力を持っていたUV(ウルトラヴァイオレット)の立場をどうするのかに悩んだのです。最終的に、I(インディゴ)やV(ヴァイオレット)そうとうの職員として以前の仕事を任せつつ、これまでの統治を社会研究の成果として認定する事で、UV(ウルトラヴァイオレット)としての権威を維持させたのです。)


『それなら、何で私はUV(ウルトラヴァイオレット)を付与されたんですか?』


『分類としては、これから地下都市の技術発展に寄与するであろう市民になるのです。まだ実際の成果を出していない人物と、成果を出した市民が一緒にされる事に対して、不満げな態度に出る市民が居たりもするのです。』


『思ったんですけど、研究職の方をU、表彰者の方をUVと表示したら良いんじゃないですか。』


『良いのです。立法府に市民からの意見として送ってみるのですよ、もしかしたら市民アル-Uは表彰者になるかもしれないです。』


『え!!こんなことでですか。』


(市民自身でクリアランス制度にメスを入れたとしたら、市民の政治に対する感覚が変わるかもしれないのです。)


コンピューターが絶対者であると言う感覚が強い地下都市に対し、政治にかかわる市民は何処か事なかれ主義であり、既存の政策の効率化やそこまで大きく無い範囲での法整備が中心であり、地下都市を動かしていると言う感覚は無いだろう。


戦時下に権力を持っていたUVもまた、地下都市の問題解決がメインの仕事内容であった。


コンピューターが市民の政治機関に期待しているのは、市民自身の手で地下都市をユートピアへと変える事であり、コンピューターが恐れるのは、自身の考えた幸福が市民の害になる事である。


だからこそコンピューターはこう答える。


『今の地下都市に必要な意見だったのです。』


都市の政治を、コンピューターから、市民に移す歴史的な瞬間です。


今回のイベントは、戦後に生まれた市民からも発生します。

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