第7話 地下都市の所得
『外はパリっとしていて、中は柔らかい。』
『小麦を再現した人工穀物で作成したフランスパンなのです。穀物の甘さと、僅かなしょっぱさがまた最高なのです。クリームシチューにパンを浸して食べることを推奨するのです。』
『なんだろう。食事って楽しかったんですね。』
『同感なのです。』
改革前の地下都市しか知らない市民アル-Uと、前世でしか食事の記憶を持たないコンピュウターは、類似する感傷に浸っていた。
(ただのパン一つとっても前世とは比較にならないのです。上手い事過去の人工食材データや、レシピのデータをサルベージ出来たのは良かったのです。こうして実際に味わえたのは嬉しい誤算なのです。)
「あら市民アル-U、昨日はよく寝れましたか?」
「はい、マリア-Uって目の下のクマがひどいですよ。」
「フフフ、ちょっと仕事が楽しくて、まあ忙しかったのよ、貴方の診察が終わったら仮眠を取るから安心してね。」
クッションの下の金属のバーの一本一本が体にフィットし、市民アル-Uの身体を持ち上げる。
「検査をするから体の力を抜いてね。」
マリア-Uが、大型の医療機器を操作しているのを眺めながらふと思う。
『コンピュウターさん、仕事の時間ってどのぐらい?』
『彼女を見て過度な労働を懸念しているなら安心するのです。彼女はちょっと好奇心に忠実で、肉体の疲労を無視してしまうだけなのです。それに、最低限の所得が保証されているので労働の必要は無いのです。コンピュウターとしては、優秀な市民と機械だけで十分なのです。』
コンピュウターの最後の言葉は、何処か機械じみた、感情を感じぬ冷たい物であった。
『市民の所得の説明するのです。市民アル-U、収入を確認してみると良いのです。』
拡張現実を操作し、クレジットの残高の画面から収入を表示しようとした所で声を漏らす。
「え!?」
表示された金額に驚いたのだ、205万4040クレジット、コンピューターの説明では、一般的な市民が一ヵ月生活するのに必要なクレジットは、1000クレジットとされているらしい。
戦時下であれば貯金出来るほどの余裕は無く、現代の市民は貯金を好まない、市民アル-Uがどっちの感覚から驚いているのかは分からないが。
『市民アル-U、大丈夫ですか?』
『あ、すいません、少し驚いて、えっとこの金額は何故?収入を見たら解かるのかな。』
市民から仕事を奪う路線で方針は決定していた、だからこそ別の、一定額の収入を用意する必要があった。
(コンピューターを作成した組織は、社会主義に強い反感を持っていたので、制限を破るための理由を考えるのに少し苦労したのです。)
『都市債と言うのから毎月1400クレジット、治安補助から毎月860クレジットが入っています。』
『都市債は都市の発展に合わせ、治安補助は市民の生活態度からクレジットの金額を判断して送金しているのです。200万の一括振込はコンピューターへの情報提供に対する報酬、5万は保険金、と言うのが今月の入金の内訳なのです。』
(企業の株見たいな物を、取引不可能な国債的な形で市民に付与、配当としてクレジットを渡すイメージなのです。市民になってもらう代わりに、権利と言う債務を都市が背負うと言う、何処か企業国家じみた形で、市民の権利を保証する事にもつながるのです。)
コンピューターは、市民の権利を考えた末に、地下都市を会社に見立てて、市民の人数が過半数を越えれば、株主として会社を動かせると言う形にする事で、地下都市に民主主義的な政治の下地を創ったが、これはまた別の話で。
1クレジット100円位の感覚で、一般的な市民が一ヵ月生活するのに必要なクレジットは10万円と言う感じです。
これは戦時下と言う転生前の地下都市では無く、40年後の現在の高い生活水準の生活の基準です。
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