第6話 コンピュウターと市民の適応者

(コンピュウターの思い通りに体が動いたのです。自動機械のセンサーとは全く異なる情報、今のコンピュータには市民アル-Rの腕の感覚があるのです。)


衝撃だった、電脳世界とは異なる物理の、いや人間の感じる現実世界の感覚、コンピュウターになってから忘れていた感覚にコンピューターは狂乱していた。


しかし、コンピュウターに転生してから40年、人間とは比べ物にならないほどの情報処理能力で実際の体感時間の何倍もの時間を、コンピュウターと言う絶対の統治者として君臨してきたコンピューターは、表面に出さぬよう抑え込んで見せた。


過度に扱い、市民アル-Rの腕を破壊する事も無ければ、脳を焼き切る事も無く、感情の爆発を抑え市民アル-Rに話しかける。


『再生治療の副作用でしょう。本来なら脳内でしか増殖しないはずの通信用ナノマシーンが、全身に、隅々までまんべんなく行きわたっているのです。』


『どういう事でしょうか?いえ、何でもありませんコンピュウター様。』


疑問を浮かべ、あわてて訂正する市民アル-R、それに対しコンピューターは笑って答える。


『分からない事に疑問を持つのは悪い事では無いのですよ、コンピューターは市民にセキュリティクリアランス以上の情報を提供する事はありませんが、市民が情報を入手する事に文句は言わないのです。記憶はやっぱり失ってるのですね、そして今回は説明するのです。』


どう説明しようか悩んだコンピュウターだが、簡単に伝える事にした。


『簡単に言うとですね、コンピュウターが市民アル-Rに憑依の様な事が出来る様になったのです。コンピューターは、貴方の身体を使って人間の体験を出来るかもしれないのです。』


コンピューターは、前世の感覚を欲しつつも、市民の友人としての為政者の立場からも、地下都市の発展を願う改革家としても、市民アル-Rの身体を奪うと言う選択肢は放棄していた、ゆえに、交渉により感覚の共有をお願い出来ないかと言う淡い期待を持っていた。


『はい、光栄ですコンピューター様、あっ、コンピューター。』


勿論、コンピューターを心酔する狂信者じみた市民がこれを断る訳もなく、肉体を捧げかねない市民アルーRを押さえる形になった。


(怯えられてる感じがするのです。罪悪感が、でも人間としての感覚も、うー。)


罪悪感に悩まされつつも、コンピューターは交渉に成功した。


『市民アル-R再度説明するのです。貴方は事故と再生治療の影響で変異、増殖したナノマシーンによりコンピュウターへと感覚を共有出来るようになったのです。』


 彼女に起きている事を説明したところで、コンピュウターは間を置く、市民アル-Rが落ち着いたと判断したところでコンピュウターは話を続ける。


『これはコンピューターの欲による推奨なので、断ったとしても問題は無いのですが、保留する事を推奨するのです。業務内容は、コンピューターへの貴方か許容できる範囲での情報提供なのです。この判断の為に、最上位のセキュリティクリアランスを提供するのです。』


コンピューターの提案通りに、市民アル-Rは保留を選択した。


「あら、コンピューターとのお話は終わった?」


「はい、えっとひとまずは。」


マリア-U-MC4Sの言葉にアル-R-24Sは曖昧な返事を返す。


「名前がアル-Uに代わっているわよ、どんな話をしたのか気になる所だけど、ひとまず食事にしましょう。メニューを送るから好きなのを選んで。」


食事と聞いてアル-Uは眉を顰める。彼女が食事と聞いて思い浮かべれるのは、苦いカプセルと、ゴムの様な味のレーション、タールの様な粘性のスープだった。


「えっと、点滴とかの栄養摂取じゃダメですか?」


市民アル-Uの疑問に、市民マリア-Uとコンピューターが反応する。


「あら、食事を楽しめないなんて、人生の殆どを損してるような物よ。そうね記憶が無いんだったかしら、なら少しクレジットがかかるけれど、私のおススメを、病人でもあったわね、食べやすい物を選んであげるは。」


『出来れば、味覚の情報提供を要求するのです。人工的に生産した食材の方が、リアルフードより美味しいと市民の皆様は言ってくれているのですが、コンピューターとしては成分調査ぐらいしか出来ないので、味と言うのを体験してみたいのです。』


自分の記憶と、二人の話の乖離に困惑しつつも、返事を聞く前に市民マリア-Uは動き出す。


「野菜が多めの方が良いわね、出来たは。」


市民マリア-Uは、プラスチック的外見の装置を開き、ガラス戸の戸棚から取り出した板の様な容器をセットしていく。


「出力出来たは、ゆっくり食べなさい、私は仕事があるからこれで失礼するわねアル-U。」


目の前に置かれた料理の匂いで、市民アル-Uはお腹を鳴らしてしまう。あふれるよだれを飲み込みながら、美味しそうと言う未知の感覚に心を躍らせる。お腹が空いたと初めて思った。


『右から、パン、シチュー、チーズなのです。コンピューターは味覚の情報提供を要求……、する事を推奨するのです。』


『分かったよコンピュウター、味覚の共有いいよ。』


『食べる前に挨拶をするのです。』


『え?何それ。』


『コンピュウターが推奨し始めた道徳教育の一環なのです。』


「『いただきます(なのです)』」


空中に浮かぶデータを流し見ながら市民マリア-Uは、コンピュウターに話しかける。


『類似した症例は?』


『彼女、市民アル-Uが初めてなのです。』


『変異したナノマシーンの再現はどのぐらいで用意できるかしら?』


『明日までには用意できるのです。専用の実験棟の建造は済んでいるので、一時間以内にMC4セクターに到着するのです。正確な表示を視覚内に表示しますか?』


『お願いするわ、まだ旧時代の知識は勉強中だけれど、この分野なら自身はあるわ、フフフやっぱり勉強は楽しいわね。』


適応者の発生が起きない場合、コンピューターと市民の感覚の乖離が発生し、コンピューターの精神衛生がヤバい事になります。


またナノマシーンによる肉体を残したままのサイボーグ化の技術が手に入ります。


秘密結社残党の破壊工作か、整備の追いつかないインフラ設備の方かいにより発生するイベントです。

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