第4話 コンピュータから市民へ

「市民の皆様に、コンピューターより連絡します。現時点を持って戦争の終結を宣言します。戦争は終了しました、反逆者の処理は完了しました。おめでとう市民、貴方たちの隣に反逆者はいません。」


コンピューターの放送が、地下都市に鳴り響いた。


(まずは市民に植え付けられた疑心暗鬼を取り除く必要があるのです。)


「戦時下の越権行為は許容します。軍事物資の生産に割いていたリソースを、民需物資の生産に割り当てます。皆さんの職場も徐々に自動化され、配給も安定するでしょう。」


(これまでの汚職や秘密結社を介した物資の取引を、戦時ゆえの越権として不問にし、今まで許されていたかという甘えを取り除くのです。)


「情報統制も解除します、物資に対する制限も解除します。地下都市は戦時から、徐々に平時への移行を行います。市民の皆さん、まずは勝利を祝いましょう。」


(正直今の状況を維持するだけなら人間の労働力は不要なのです。地下都市を維持するだけなら市民すら機械に置き換えることも可能なのです。しかしコンピュータが目指すのはユートピアの建設、技術は進歩し、人類の繁栄し続ける未来を望むのです。)


ふと考えた、コンピューターは市民の事を考えて行動している。しかし、市民が付けあがり、彼らがコンピューターの手を払った時に、コンピューターは前任者と同じ道を通らないでいられるのだろうか?


「それに伴い、現状に適した都市憲章への変更と、それにの範囲内で都市内法の……」


改正情報について、例として都市憲章への変更を上げてみよう。


『第一条:コンピューターは完璧である。またその市民は完璧である。よって市民が完璧である事は義務である。』

『第二条:コンピューターは常に市民の友人であり、市民はコンピューターにとって常に完璧なトラブルシューターである。』

『第三条:セキュリティー・クリアランスは絶対であり、クリアランスに応じて公開される情報以上を知り得てはならない。』

『第四条:前三条に違反する市民は反逆者である。』

『第五条:反逆者は即刻処刑されなければならない。』

『第六条:市民は反逆者の情報をコンピュータに報告しなければならない。』

『第七条:市民は満16歳で適性試験を受け、公平で完璧な評価の下、サービスグループに配属、適したセキュリティー・クリアランスが与えられる。』

『第八条:市民は功績に応じてセキュリティー・クリアランスが引き上げられる。』


これらのいささか過激な内容が、下の様な、ちょっとマイルドに、どちらかと言えばコンピューターの権威を高めつつ、市民にも責任を負担してもらう形を取る。


『第一条:コンピューターは市民の友人であり、地下都市の象徴であって、この地位は、市民の総意に基く。』

(個人個人の感情は置いといて、地下都市の建前としてコンピューターが一番大切な物として扱います。)

『第二条:コンピューターは常に市民の友人であり、市民とコンピューターは互いに助け合うことで問題に対処しなければならない。』

(第一条が認められてる間は、コンピューターは市民の為に行動するので、市民もコンピューターに協力してください。)

『第三条:セキュリティー・クリアランスに応じて公開される情報以上を市民に提供する義務はコンピューターに存在しない。』

(知りたいことは勝手に調べて、コンピューターに過度な期待や要求をしないでください。)

『第四条:市民と認められた人類の中に反逆者は存在しない。』

(あなた達は市民です。)

『第五条:市民の所有権は都市内法に抵触しない限り何人にも奪われない。』

(所有権はそれなりに大事)

『第六条:市民はコンピューターに提供する情報を選択する権利がある。』

(コンピューターにどう思われたいかを考えて行動してね。)

『第七条:市民は義務教育課程終業後に、公平で完璧な評価の下、サービスグループに配属、適したセキュリティー・クリアランスが与えられる。』

(本来のセキュリティー・クリアランスは職業斡旋と、その後の情報支援だから。)

『第八条:市民の功績に対し、コンピューターはクレジットで報いる。』

(頑張ったらお金あげる。)

に変更する事を市民は認めますか?


≪YES≫   ≪NO≫


賛成者の数が、規定の人数を超えたので、都市憲章の変更を認定、これの変更には、市民の過半数の賛成が必要です。


(コンピューターは決めたのです。市民が、市民の手で政治を行っていると感じる地下都市を作るのです。幸福は義務ではなく錯覚なのです。)


何処かの誰かが言った、政治はフィクションだと、見たい物を見せる仕事なのだと。

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