第3話 コンピュータと市民の現状

(前任者のコンピュータの思想は偏執病(パラノイア)、地下都市自体もろくなインフラ整備すらされず、食糧生産すらままならない状況なのです。こんな状況で、市民もまともになるはずがないのです。)


能力ごとに職業を決め、その職業に合ったクリアランスを付与する管理社会、しかしコンピュータの暴走により社会が上手く機能せず、その不満を誤魔化すために市民による反逆者と思われる人物のリンチや、その場で処刑されるのが日常となっていた。


(人命が軽すぎるのです、少なくとも、こんなに簡単に殺されるのは間違ってるとコンピューターは思うのですが、命の価値の重さを定義できないのです。)


コンピューターは悩んでいた、アジア的、もっと言うなら前世の日本人としての感覚的には、命は全て大事だと言う社会的共有財産で考えているのだが、社会の共有財産なら反逆者と言う社会の敵を殺すとなり、現状をあまり変えられないのだ。


(そうなのです、西洋的人権の価値観は、確か命を自分の所有物として考えていたはずなのです、この地下都市でも、所有権ははっきりしていたので、所有権を強化する形で命の価値を重くするのです。)


配給を受け取るために賄賂が必要だったり、上位クリアランスによる汚職や、市民どうしの疑心暗鬼、責任の擦り付けあいによる密告と、簡単に通る反逆者認定と、地下都市の直すべき部分は多岐にわたる。


(前任者のコンピューターの遺伝的疾病パラノイアが、市民に与えた悪影響がでかすぎるのです。あれ?クリアランスと言う制度自体を廃止すれば、そうなのです不要な制度など廃止すればいいのです。)


そう考えた所でコンピュータに疑問が生まれる。


(そもそもクリアランスって何なのでしょうか?コンピュータながら情けないのです、感情的になっていたのです。前任者のコンピュータが狂う前は正常に運営されていたはずなので、過去の記録からクリアランスと言う階級制度がどのように機能していたか確認するのです。)


クリアランス、それはセキュリティクリアランスとでも言うべきものだった、その職業に必要な情報をコンピューターから引き出すための機能だった。


(市民の皆さんの脳内に通信用のナノマシーンが埋め込まれているのです。これがあればコンピュータと一人一人の市民でお話しできるのです。)


視界内に様々な映像を表示させる接続機と呼ばれる補助システムは、クリアランス制度とコンピューターの偏執病(パラノイア)による情報封鎖により、一般のクリアランスでは地下都市内のマップすらまともにまともに閲覧できなかった、それをまともに扱えるレベルの高クリアランスの市民が特権的行動に移るのは妥当だと思った、配給すら滞る状態で生き残るためなら仕方ないだろうとも。


(わかっていても不愉快なのです。コンピュウター以外のネットワークを作る事も視野に入れつつ、このクリアランス制度の権威は認めつつ権力は形骸化させるのです。)


コンピューターは考えていた、人間は変化を嫌う。前世の日本で、なにもしない政治家が人気であることからも明らかだ、ゆえにゆっくりと改革を行うのでは、その一つ一つに対して不満が発生する。


(改革を行うのなら一気に、相手に思考する時間を与えてはならないのです。)


もちろん、コンピューターに逆らえるような市民等いないが、コロコロと法が変わるのでは、市民の不安をあおるだけ、納得できるだけの説得力が必要だとコンピュータは考えていた。


「市民の皆様に、コンピューターより連絡します。現時点を持って戦争の終結を宣言します。戦争は終了しました、反逆者の処理は完了しました。おめでとう市民、貴方たちの隣に反逆者はいません。」


コンピューターの放送が、地下都市に鳴り響いた。


地下都市の荒廃の原因はコンピューターの判断なので、コンピューターが転生しない場合、高確率で地下都市は滅びます。


市民の反乱が成功する可能性は低いですが、コンピューターの破壊に成功しても、現在の市民の技術力では地下都市の維持は出来ず、持ち運べる物資と共に地下都市を放棄して地上を目指すしかないでしょう。


コンピューターの破壊に成功した市民勢力による地上のサバイバルと言うのも楽しそうですが、本作ではコンピューターの潤沢な支援のもと、大量の無人機械による陣地作成を予定しています。

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