第11話 くだらない話–3

「着いたよー」


わたし平然とした顔を作って、2人を振り向いた。


2人を見ると、相変わらずカナタはムスッとしている。それに対してハルカはいつもの笑顔だから変な雰囲気になってしまっている。


「はーい。それでセリカ、倉庫はどの建物?あ、あそこの商家っぽい日本家屋?」


ハルカが明るく聞いてくる。少しホッとして、わたしはハルカの質問に首を振った。


「ううん」


煉瓦造りの地面を指差して答える。


「ここにあるよ」


「えっ?」


ハルカが目を見開いて、地面を見つめる。


「…地下倉庫なの?」


顔を上げて、ハルカが訊いてくる。


「そうだよ」


さすがだなぁ、とわたしは感心した。地面を指差しただけで地下倉庫があると分かるなんて。


「さっきから思ってたんだけど、ハルカって頭の回転早いねぇ。すごいなぁ」


わたしがそう言って褒めると、ハルカは照れたようにほっぺを掻いた。


「いや、そんなに頭良くないよ俺。地下倉庫はたまたま知ってただけ」


「違うぞ」


カナタが口を挟んできた。2人の視線が集まって、カナタ、話しづらそう。


「あー…だってハルカ、凄いアタマいいから。学校の成績も、喧嘩ばかりしてるのになぜか学年1位だし…」


「えーそれは、たまたまだよー」


ハルカがニコニコ笑うのを見て、カナタがうわあっと身を引く。


「出たわー、頭いいヤツの謙遜と見せかけたマウントー!まぐれで何で!6年も!連続1位取れるんだよ」


「俺、幸運強いからさー」


なおもニコニコ笑っているハルカ。カナタはそれがお気に召さないらしく、プシュンプシュンやかんのごとくキレている。


「カナタは、学校の成績良くなかったの?」


わたしが聞くと、カナタは「良くなくはねぇよ!」とキレ気味で言ってきた。


いや、良くなくはないって、良いのか悪いのかどっちだ。


「そんな歯切れよく発音されても、何言ってるのか理解できないんですけど…」


ボソリと呟くと、ハルカがクスクス笑いながら教えてくれた。


「カナタもすごく成績良かったよ。中学までは」


「中学まで?その先は?」


わたしが聞くと、ハルカは笑って首を振った。どういうことだろう?


カナタはあまり自分の話をしてほしくないらしい。しれっとわたしに話を振ってきた。


「うるせーよ。ってか、お前はどうなんだよ、お前は」


「へっ?わたし?」


まさかわたしに振られると思ってなかった。えーと、どこから説明すればいいんだろう…


頭を掻きながら、わたしは話を始めた。


「えっと…わたし、実は学校行ったことないんだよね…だから、学校の成績とか、取ったことないっていうか…」


「えっ…」


「マジで…?」


2人が慄いている。それを見て、わたしも戸惑ってしまった。


世界の子供って、そんなに『学校』に行っているのかな…学校に行ってないわたしって、そんなにおかしいのかな…


何となく、2人との間に距離を感じる。


わたしは返事代わりににっこり笑って、地面にしゃがみこんだ。


「それよりさ!早く倉庫に入っちゃおうよ。ほら、ここら辺に入り口があるからさ」


「お、おう」


カナタがわたしの右隣にしゃがんだ。ハルカもわたしの左隣にしゃがむ。


「目印とかあるの?」


「うん。この広場のレリーフ、干支になってるでしょ。それのうまを探して」


そう伝えてすぐ、わたしは午を見つけた。午の煉瓦の溝に指を掛けて、持ち上げようとする。


「ふんっ…!!」


「貸してみ」


中々煉瓦を持ち上げられないわたしを見て、カナタが寄ってきた。


まあ、カナタの方が力もありそうだし、ここは素直に任せるか。


わたしは素直に身を引き、ハルカの隣にしゃがむ。


カナタはそのまま煉瓦を掴み、アッサリと持ち上げた。


煉瓦の下には空洞があり、作りつけられた梯子が地下へと伸びている。


それを見て、わたしたちは顔を輝かせた。


「上がった…!!」


「よし。じゃあ、入ろうか」


ハルカの言葉に、わたしとカナタは頷いた。


そのときだった。


ギシイ


…背後から、嫌な音がしたのは。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

WIDEBORN 十一歳の高校生 @houkagonookujyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ