第10話 くだらない話–2

玄関の戸を閉じると、そこはもう大通りだ。


わたしは後ろの2人を振り返って説明する。


「今から行くのが倉庫ね。ちょうど、集落の真ん中にあります」


「ああ、だから『早く行かないと』って言ってたんだね」


ハルカは納得したようで、頷く。


納得してるってことは、ハルカはどこにワイバーンがいるか把握してるんだなあ。さすが旅人、情報に強い。


カナタはというと、物珍しそうに周りをキョロキョロしている。さっきの怒りはどこへやら。まあ、わたしとしては、根に持たれなくて嬉しいけど。


「ここの家は全部黒ガラスなんだな。光が部屋に入らないって、不便じゃねーのか?」


カナタが不思議そうに聞いてくる。わたしは首を傾げた。


「うーん、そこまで?外の光が入らなくても、魚油使えばいいし、体感で時間はわかるから」


「へー」


「うん」


お互い無難な相槌あいづちを打って、トコトコと進む。


会話の無い時間。


………


「ねーねー、俺たち知り合って間もないわけだしさ、もっとお互いのこと知りたくない?」


沈黙を破って、ハルカがわたしに話しかけてくる。


2人のことをわたしはよく知らない、2人もわたしのことをよく知らない。


わたしはそんなアタリマエのことを思い出した。


「…確かにー!」


「でしょでしょー?」


わたしとハルカは盛り上がる。カナタの方を見ると、カナタはどこか彼方を見ている。


わたしに自分のこと教えたくないのかな?


そんなことを思っていると、ハルカがこっそり耳打ちしてきた。


『あれは「聞かれたら教えるから、それまで待ってる」ってことだよ』


「え、そうなの?」


思わず聞き返す。もちろん小声で。


ハルカはコクコク頷いた。おかしそうに笑っている。


『アイツ、物凄いシャイなんだよ。セリカを突き放してるのもそっけないのも全部内気なせい。だからセリカは気にしないで、どんどん話しかけていいんだよ』


まあ、アイツにしては心開いてるほうだよ、さっきもセリカに質問してたし。


ハルカはそう言って締めくくった。


びっくりしてカナタを見る。カナタは相変わらずそっぽを向いている。よく見たらその耳は真っ赤になっていた。


そうか、アレは緊張しているのか。あまりにそっけないから、てっきりわたしを歓迎してないんだと思ってた。


ツンツンしているヤンキーを眺めていると、何だかハリセンボンみたいに見えてきた。膨らんで威嚇いかくするハリセンボン。昔、お気に入りの絵本に載っていたハリセンボンを思い出す。


『…かわいいね、カナタって』


わたしがハルカにささやくと、ハルカはにっこり笑った。


『でしょ?アイツってヤンキーしてるけど、中身はちょっとイキってるだけの可愛いやつなんだよ』


「…ふふ、そうなんだ」


地声の大きさに戻して相槌を打つと、カナタがこちらをチラチラ見てきた。どうしたんだろう?


不思議に思っていると、わたしたちの後ろを歩いていたカナタが、ハルカの横に並んできた。


「…なあ、なんの話してたんだ?」


「へ?」


ハルカが聞き返す。カナタがじれったそうに繰り返す。


「だから、2人で何の話してたんだ?さっきから俺をチラチラ見てただろ。特にコイツ」

 

そう言って、カナタはわたしを差した。


えー、バレてたの?横目で見ただけなのに。


内心驚いていると、カナタはわたしを見て言った。


「ほら、今も『バレてたの?』って顔してる」


「えっ」


わたしが目を見開くと、カナタは目を逸らしてフッと笑った。


「お前、めっちゃ分かりやすいな。お陰でハルカの嘘がすぐ見抜けそうだ」


おかしそうにカナタは笑っている。


分かりやすい…分かってはいるけどちょっと傷つくな。


「カナタもめっちゃ分かりやすいよ」


「え?」


言い返すと、カナタはキョトンとした。


わたしは意地悪く笑顔を浮かべる。


「カナタ、笑ったり照れたりすると、顔は変わらないけど耳真っ赤になるもん」


「!!」


カナタが耳を押さえる。そこを逃さず、わたしはニンマリ笑った。


「ほら、分かりやすい。カナタってば、かーわいー」


「なっ…!!」


カナタは目を見開いた。もう、何というか凄い顔をしている。


カナタをじっと観察していると、カナタはプシュンプシュン沸騰していたのが、段々と落ち着いた顔に戻っていった。


「…カナタ、大丈夫?」


「………」


話しかけてみるけれど、カナタはこっちを見たあと、プイッとそっぽを向いてしまった。


ハルカを見ると、やりすぎだね、と言いたげに肩をすくめられる。


しまった、ちょっと怒らせすぎちゃったな。


反省しつつ前を向くと、そこには煉瓦造りの広場が広がっていた。











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