第9話 くだらない話–1

「じゃ、行こっかー」


リュックを背負ったハルカが笑う。


「うん!」


わたしは頷いた。カナタはそっぽを向いている。


「あ」


ハルカが玄関の戸を開けて振り返る。


「どうしたの?」


「セリカに聞こうと思ってたんだけどさー、この村に倉庫ってある?」


「あるよ?」


ある、あるけれど、ちょうど時計塔の下にある。


時間はもうお昼の12時に近い。早く集落の外に行かないと、夕方になってワイバーンに殺されてしまう。


わたしがあると答えると、ハルカは嬉しそうな顔をした。


「良かったぁ。じゃあ、最初に寄って行こうか」


「良いけど、ワイバーンが居たから、早く行かないと…ていうか、何で倉庫に寄るの?」


「食料を補給するためだよ」


わたしの横から声がした。カナタだ。


「あ、そっか」


「そんぐらい、考えりゃすぐ分かるだろ。ばーか」


カナタは呆れたような顔をしている。


「何よ」


わたしはムッとした。トゲトゲした声で言い返す。


「アンタに説明能力があればいい話でしょうが」


「それ、俺に説明能力がないって言いたいのか?」


カナタもトゲトゲした声で聞いてくる。


「それ以外に何を言うことがあるのよ」


「残念だけど、俺はお前に説明してねーから。してたのハルカだから。だから俺に説明能力がないかは、お前には分からないから」


カナタが何やら言い訳をしてくる。何を言いたいのやら、全く意味がわからない。


「んなもん分かるわよさっきの短い説明で」


「は?めちゃくちゃ分かりやすかっただろうが」


「はいはい、そこまでねー」


ハルカがわたしたちの間に割り込む。カナタは不満げだ。多分、わたしもむくれているだろう。


「カナタ、馬鹿は流石に言い過ぎだよ。セリカはまだ旅を始めたばっかりで、何も知らないんだから」


ハルカがカナタを咎める。


ハルカの言う通りだ。言いたいこと全部代弁してくれた。馬鹿はひどいよ、全くもう。


そう思っていると、ハルカはわたしを見た。


「それに、セリカも。セリカさっき、カナタに説明能力無いって言ってたけど、覚えてる?カナタの説明に「そっか」って言ってたよ。理解してるじゃん、カナタの説明」


…ハルカの言う通りだ。聞きたくないこと、ハルカが全部指摘してきた。


「…って俺は思うんだけど、どう思う?」


ハルカがわたしたちを見比べる。ハルカの言い分は正論だ。残念ながら、2人とも黙るしかなかった。


チラリとカナタを見ると、カナタもこっちを伺っていた。


わたしはボソボソと謝る。


「…あの、言いすぎた…ごめん」


カナタもカナタで、おう、と返事をした。


「俺も言いすぎた…ごめん」


「あー…うん、いいよ…」


お互い許すと、ハルカはニパッと笑った。フワフワ頭を撫でられる。


「2人とも仲直りできてえらいねー」


柔らかい声でハルカがめてくる。


ふふ、何だかくすぐったいなぁ。


カナタの方を見ると、バッチリ目が合った。カナタは顔を赤くして、ハルカの手を振り払った。


「やめろよ、恥ずかしい」


「えー」


ハルカが口を尖らせる。


「いつも頭撫でると喜んでたじゃーん」


「それ大分昔の話だろ!?」


カナタが頬を引っ掻きながら突っ込む。


「そうだったっけ?俺の記憶では結構最近まで喜んでた気がするけどなあ」


「そうなの?」


わたしが聞くと、カナタは「ちちち違げーからな!」と顔を真っ赤にして否定する。


…何てわかりやすい。嘘、下手くそだなあ。まあ、わたしも下手だけど。


「………」


「おい!その生暖かい目ヤメロ!」


「いや、そんな目してないし」


「してる!してるんだって!」


あまりに顔を真っ赤にするから、ちょっと面白くなってきた。


「カナタかわい〜」


「!うるせえなぁ!黙ってれば調子に乗りやがって!」


あ、流石にやりすぎたかな。本気で怒ってる。まなじりが右肩上がりだ。


「ごめんって。もうからかわないから」


「………」


謝ったものの、カナタがわたしを睨んでくる。許せないらしい。


「まあまあ」


ハルカがカナタの肩を叩く。


「俺もちょっと言いすぎたよ。ごめん。ほら、倉庫行こう?」


カナタはまだ怒っているみたいだ。


ハルカはわたしを見て言った。


「それに、2人が喧嘩してると倉庫に行けないんだよねえ」


あ、すっかり忘れてました。


わたしはするりと玄関の外に出ると、2人を振り返った。


「わたしが案内するね。ついてきて」

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