第7話 少年–2

「早速だけど、セリカ。君はどこから来たの?」


ハルカに聞かれて、わたしは素直に答えた。


「…ここ」


ハルカが笑顔のまま固まる。後ろのヤンキー…カナタも同じくだ。


「…聞き間違いかな。もっかい言ってもらってもいい?」


ハルカにまた聞かれ、わたしは戸惑いながら地面を指さした。


「え、だから、ここ。この集落」


鼻声で答えると、2人は顔を見合わせた。


「え、どうしたの…?」


わたしが尋ねると、ハルカは困ったようにわたしを見た。


「だって…僕たちが来るまで、人間なんて見かけなかったし、それに…第一ここ、廃村だよ?」


「えっ…」


今度はわたしが戸惑う番だ。


「で、でも、昨日までわたしたちここで暮らしてて…」


「他の村民は?親は?」


カナタがズバズバ聞いてくる。親、と聞いて、再び熱いものが込み上げてきた。


「み、皆は…昨日の夜、ワイバーンが襲来して…わたしを置いて、どっか行っちゃっだ…ひっぐ…」


「うっわ、めんどくせえ。泣き始めたぞコイツ」


「カナタが泣かせたんでしょーが」


ハルカが冷ややかな目でカナタを見つめる。カナタは面倒臭そうにこちらを見ている。


むっ。なんだその目は。


「わ、わたしも、泣きたくて泣いてるわけじゃないもん…」


カナタに文句を言う。最後は尻込んでいて、自分でも何を言ってるのかわからない。


こちらを見て舌打ちするカナタ。


「じゃあその涙声止めろよ」


ゔっ。


痛いとこ突くなあ。


「…止め方がわかんないのー!!昨日からどんどん涙が出てきて、止めたいのに止まらないのぉ…」


「んなもん、息止めれば止まるだろ」


「そんなことしたら死ぬよ!!」


「あーじゃあそこら辺で死んどけ」


「なっ…!!」


言い返そうとして、ふと気づいた。


そうじゃん、わたしさっきまで死のうとしてたんじゃん。カナタの言葉に何を怒ることがあるんだろう。


「…そうだよね」


「ああん?」


「いや、カナタの言う通りだなって」


わたしは鼻をすすると、空を見上げた。綺麗な青空だ。


「わたしね、さっきまで死ぬつもりでロッカーに隠れてたんだ。家族に危険な場所に置いてかれて、見捨てられて、もう生きている意味ないなって思って。でもワイバーンに殺されるのはしゃくで、だったらロッカーの中で餓死すればいいやって思って」


そこで言葉を切る。ふっと笑った。


「…なのに、何でカナタに死んどけって言われて、わたしは怒ったんだろうね」


「…知るかよ」


カナタはばつが悪そうに吐き捨てた。


「それはさ」


ハルカがひょっこり顔を出す。


「セリカが、ホントは生きたいって思ってるからじゃないの?」


「…へっ?」


わたしは間抜けな声を上げた。


「わあ、マヌケな声」


ハルカがおかしそうに笑う。悔しいけどその通りだ。


「…そこで提案なんだけどさ、セリカ。

 僕たちと一緒に、旅をしてみない?」


「…えっ?」


「僕たち、旅してるんだぁー。目的地は擬人のいない町!ねぇ、一緒に行こうよ。僕は君のこともっと知りたいな」


「…ハルカ」


カナタがハルカに声を掛ける。何というか、いさめる?ような声だ。


「いいじゃん、1人増えたってー。この子武道の心得あるみたいだし、自分の身は自分で守れるよ」


「そういう問題じゃねぇだろ。食料の確保も大変になるし、検門だって大変になるし、何よりソイツ」


「カナタ」


ハルカが口を挟む。カナタは口を閉ざした。急にどうしたんだろう?


「お願いだよ。この子も連れて行きたいんだ、どうしても」


ハルカがカナタに語りかける。その目は真剣だ。


何でこの人はそんなにもわたしを望んでくれるんだろう。


不思議に思っていると、カナタは長ーーいため息をついた。


「…分かった。俺も賛成するよ。ただし、ソイツがホントにここから出たいならな」


「ありがと」


ハルカが顔をほころばせた。カナタはそんなハルカを見て苦笑いする。カナタはハルカに甘いんだなあ。


カナタとハルカの目がわたしに集まる。


「お前はどうなんだ?」


「行く?それとも留まる?」


「わたしは…」


口を開くも、声が出ない。視線がじりじりと下がっていき、地面の砂が目に映る。


…さっきまでは、心の底から死にたいと願っていたけれど。


ハルカとカナタを見て、話して、わたしは…


もう一度空気を吸って、2人に言った。


「…生きたい!2人について行きたい!それで、その…よろしくね!ハルカ、カナタ!」


「………」


え、何。何の沈黙これ…?


まさか、やっぱり気が変わって、嫌ですとか言わないよね…?


恐る恐る顔を上げると、2人は笑っていた。ハルカは嬉しそうに、カナタは呆れたように。


「「よろしく、セリカ」」




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