第5話 異変–4

状況は理解できた。わたしは辺りを見回す。すると、家の雨樋あまどいが目についた。


とりあえず、ここ登るか。


わずかな足場に足を引っ掛け、素早くよじ登る。


屋根の上に立つと、集落がよく一望できた。元々宿場町だったから、一本の大通りで出来ていて、見やすいんだよね。


『戦いでは、視野が広く、敵から見えづらい所に立つんだよ』


父さん、昔父さんが教えてくれた戦術、役に立ったよ…!!ホントは一生役に立って欲しくなかったけど!!


あ。


父さんもわたしを置いてったんだっけ。


………。複雑な気持ちだ…。


…いや、落ち込んでる場合じゃないな。ここもすぐにワイバーンに見つかってしまうだろう。


『ワイバーンは、夜に活動して、昼は動かないんだ。だから、夜は隠れているんだよ』


父さんはそう言ってたな。よし、早く隠れ場所を見つけないと。


どこだ。どこがいい。


そうだ、時計塔はどうかな。頑丈だし、入り口は門扉もんびひとつだけしかないし。ワイバーンとのかくれんぼにはもってこいだよね。


わたしは町の中央にある、大きなやぐらを見た。


「ん?」


わたしは気づいた。なんだか、門扉がガタガタ揺れている。


なんだなんだ。何が起きてる?


しばらく様子を見ていると、門扉は揺れ続けて、とうとうかんぬきが外れてしまった。


どしゃあっと、中からワイバーンが雪崩なだれてくる。


………。


こりゃねーわ!うん、無理だな!


わたしは時計塔を諦めることにした。というか、わたしの不運強すぎないか。ホント腹立つ。


しっかし、時計塔がダメとなるとどうしようもない。


困ったなあ…


ため息をついた、そのときだった。


ギシイ


背筋が凍った。振り返らなくてもわかる、後ろにワイバーンがいる。音からして3、4体といったところか。


やばい!!


そう思ったら、足が動いていた。


屋根を伝いながら隠れる場所を探す。


隠れ場所、隠れ場所!


ギシイギシイギシイギシイ


いやあああああああ!!ついてくんな!!


早く、早く隠れ場所!!


背筋にダラダラと汗をかいてきたそのとき、わたしは下にあるものを見つけた。


あっ!これだ!


わたしは屋根と屋根を飛び移るフリをして、屋根の隙間に飛び降りた。


頭がビリビリする。


「…っ!!」


頭を押さえて、素早く「それ」に手を掛けた。手のひら越しに固く、冷たい感触が伝わる。


「それ」は、扉がガタついて捨てられたロッカーだった。


幸いにも、ガタついている扉は開きっぱなしだ。


これなら。


ちゃっちゃと入って扉を閉めてしまえば、ワイバーンでも開けるのは難しいだろう。


うん、イケる!!


わたしはロッカーの中に寝そべり、掴んだままの扉を思いっきり閉めた。勢いよく寝返りを打つとロッカーも横転し、ちょうど扉を地面にして止まった。


「ふふふ、わたしの(ピーー)キロの体重が加わっているロッカーをひっくり返すことなどできまい。残念だったなワイバーン」


わざとらしく悪役ぶってみた。けれど、その声とは裏腹に体の震えが止まらない。


「…だ、大丈夫…ワイバーンは、バッテリーを、人の察知と、駆逐くちくだけに使うんだから…またロッカーをひっくり返して、扉を開けるなんて知恵、働きっこない…絶対、ないんだから…」


頭を抱えながら自分に言い聞かせる。


ドゴン!!


鈍い音と共に、大きい横揺れが伝わってくる。


あー、見つかっちゃったなぁ…


ドゴン!!ドゴン!!


振動が増えてる。さっきのワイバーンたちも、追いついたのかな。


…何でだろ、揺れるたびにどんどん顎と体の震えが大きくなるんだけど。


目と鼻から生暖かい液体が出てくる。止まらない。垂れ流し状態だ。


バクンバクンバクン。動悸が止まらない。


どうしよう。全然とまらない。とまってとまってとまって。お願いだから。


止まってくれないと、分かっちゃうじゃん。


ワイバーンにひとり追われている怖さが。


皆に置いていかれたのが、すっごく悲しいってことが。


…もう、


「…何で、こんなことに…」






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