第4話 異変–3

ギシイ。ギシイ。


…うるっさいなぁ。


わたしはムクリと起き上がった。時計を見ると、7時を指している。


いつもなら二度寝するところだけど、妙な物音が聞こえてきて寝れやしない。


何の音?


耳を澄ませてみると、父さんと母さんが寝ている方から聞こえてくるみたいだ。


はて?


何か、違和感がする。


体感時間と記憶からして今は6月10日、夜の7時。6月の7時といったら、もう村の皆は起きて、外から賑やかな声が聞こえてくるはず。…はずなのに、


「静かだ…」


家の外はしんとしていて、何も聞こえない。


…いや、謎のギシギシ音は外からも聞こえてくる。


何かがおかしい。


とりあえず、いつでも逃げれるようにしないと。


枕元に置いてあった靴を履き、バールを手に取る。ゴツく腰の辺りまでの長さのそれは、もちろん護身用だ。


バールを肩から提げて、そっとふすまを開く。


「!?」


思わず声が出かけて、慌てて押し殺した。


え、何で。


父さんと母さんの寝室、そこに2人は居なかった。


代わりにそこに居たのは、人っぽいけど人ではない、テラテラと鈍く光る骨組みで出来ていた、紅い2つの光を頭部に宿す、その名は、


「…電動人間ワイバーン…」


しまった!


慌てて口を押さえたけれど、遅かった。


ワイバーンはこちらを振り向く。その手には、…包丁が握られていた。しかも、割と大きめの。


ギシイ。ギシイ。ギシイ。


や、やめろ!こっち来んなーー!!


暫定ざんていワイバーンは、ゆっくりと足を引きずりながらこちらににじり寄ってくる。


おそらく、いや明らかにわたしが狙いだ。


じじじ冗談じゃない!!あんなので刺されたら一発で御陀仏おだぶつだよ!!


に、逃げなきゃ!三十六計逃げるに如かず!!


ゆっくり、ゆっくりと、ワイバーンを刺激しないように、勝手口に近づく。


ワイバーンはそんなわたしをじっと捉えている。


ほらー、怖くなーい。何もしないよー。


後ろ手を探すと、ドアノブが手を掠めた。


そろり。扉に手を掛ける。


サン、ニ、イチ


ガチャッ!!


わたしは後ろを見ずに駆け出した。


さようならーーーー!!!できれば二度と会いたくないでーす!!


内心そう叫んで、強気で外へ出たものの。


わたしは甘かったかもしれない。


最初の違和感から考えてみるべきだった。


何で外からもギシギシと音がしていたのか?


何で外が静かだったのか?


答えは割と簡単だった。目の前に広がる光景が答えだ。


衝撃を受けるわたしの頬を、生暖かい夜風が撫でる。


外には、村人は誰一人として居なかった。


その代わりに、何十体ものワイバーンがうろついていた。ライフル、カッター、持つ道具は違うけれど、彼らの眼はギラギラと光っていた。


残っている人間わたしを殺すために。


…なるほどなぁ。


わたしはいたって冷静だった。自分でも驚くほどに。


わたしは、置いていかれたのか。


ワイバーンへの生贄として。

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