第2話 見知らぬ街と新しい友人

 崖から落ちたヨキは意識を失っている間、何処か懐かしさを感じさせる夢を見ていた。

 その夢には幼い頃のヨキがいて、幼いヨキの周りには同い年の子供達がいた。

どうやら幼い頃のヨキの友人達らしく、皆楽しそうに遊んでいた。


 幼い頃のヨキは今のヨキと同じぐらいの年齢に当たる何処かヨキに似た顔つきの少年に呼ばれ、遊んでいた子供達に声を掛けて別れを告げると、そのまま少年のもとに笑顔で駆け寄った。


 少年も笑顔で答え、駆け寄ってきた幼い頃のヨキの手を握り、そのまま他の場所へと移動した。

 少年に連れられ幼い頃のヨキがやってきたのは崖のような場所を軸に作られた建物で、幼い頃のヨキはそのまま少年に連れられる形で不思議な建物の中に入って行った。


 そして建物の中をしばらく進んでいく内に、一番奥の方に辿り着くとそこは恵の村にある聖なるほこらに似た作りをした広い部屋だった。

 そこには立派な祭壇があり、そこに何かが収められていた。だがそれを見る前にその夢は途絶え、それ以降何も見えなくなった。



*****



 ヨキは不意に目を覚まし、ヨキの眼に見知らぬ天井が移った。

 さっきまで崖を降りていた筈が、知らない内にヨキは布団に横たわって見知らぬ場所にいた事にしばし驚き、放心していた。

 暫くして我に返り、周りを確かめようとヨキは起き上がった。


 それと同時に体中に痛みが走ったのを感じ思わずその場で蹲ったその時、ヨキはある事に気がついた。部屋を見回して近くに姿鏡がある事に気付き、布団から出て姿鏡の近くに向かった。


 ヨキは姿鏡に映った自分の姿を確認すると傷の手当てがされており、体のあちこちに包帯が巻かれていた。

 だがヨキは包帯がまかれていた事に驚いたのではなく自分の服装に驚いていた。


「え…えぇ! この服は何⁉」


 ヨキが驚いていたのは自分の体に包帯がまかれていた事ではなく、自分が赤い布を腰に巻き、オレンジ色をメインとした丈が膝まである半袖のカンフー服を着ている事に驚いていた。


 自分が何故知らない家にいるのか、何故見た事のない服を着ているのかが理解できずにいたが、その時ヨキの頭の中に髪と瞳が水色の少年と、珍しい根元からグラデーションがかった紫がかった白銀の髪を長く伸ばし、瞳が紅玉ルビーのように赤い少女の姿が浮かんだ。

 その二人が誰なのか、ヨキは知っていた。


「ケイ、マリ…!」


 ヨキは二人の事を思い出した途端、そのまま部屋を出て勢いよく階段を駆け降り、家から飛び出そうとした。

 だがその家の住人であろう二人の少年に止められてしまう。


「おいっ! 何やってんだ⁉」


「まだ動いちゃダメですよ!」


「きっ君達は誰⁉ 離してよ! 僕は…」


 二人の少年に止められたヨキは、その場で暴れて二人の少年を振り切ろうとしたその時、急に目眩が起き、ヨキは思わずその場に倒れそうになったが二人の少年に支えられた。


「ほら言わんこっちゃない!」


「早く部屋にもどりましょう!」


 ヨキは二人の少年に支えられ、元いた部屋に連れ戻されてしまった。

 ヨキが茶髪の髪を腰より先に延ばし、自分とは違う竹は短くノースリーブの青いカンフー服を着た少年に布団に寝かされ見張られている間、ヨキは目の前にいる青い服を着た少年が何者なのかと不安になっていた。


 すると自分よりも年下で、丈が膝まである紅い道士袍服どうしほうふくを着た少年が食事を持ってきた。

 紅い服を着た少年が持ってきた食事の匂いに反応したのか、腹の虫が鳴ったためヨキは顔を赤くして恥ずかしそうに顔を俯かせた。


 よくよく考えると、ケイとマリの二人と共に恵みの村を乗っ取ったヘルシャフトと名乗った襲撃犯達から逃れる事に必死で何も食べていなかったため、ヨキ的にはありがたかった。

 だがヨキにとってほとんどは初めて見るものばかりで、どのようにして食べるのかわからず家の住人である二人の少年に尋ねた。


「あの、これどういう風に食べたらいいの、かな?」


「そんなに悩む必要はないぞ? 好きなように食べればいいんだよ」


「僕個人としては、ご飯と一緒にシイタケと昆布の佃煮を食べるのがおすすめです」


 紅い服を着た少年に勧められ、ヨキは珍しそうに箸と茶碗を手に取り茶碗に盛られていた小さな白い粒の上に見覚えのある椎茸の佃煮を乗せ、それを恐る恐る口にした。


 小さな白い粒を口にしたヨキは、不思議と不快感を感じる事はなく、逆に一緒に口にした椎茸の佃煮とよく合っていた。

 問題がないと分かったヨキはそのまま他の料理も食べて行き、どれも見た事のない料理ではあったが美味しいと感じ、特にヨキが気に入ったのはどの料理とも会う小さな白い粒だった。


「おいしい…っ! ねぇ、これは何? この小さくて白い粒は、なんていうの?」


「おっお米です。お米は水源がゆたかな平野でよく育つんですよ」


「お前もしかして米も知らないのか?」


「…うん、僕の暮らしていた村は山の中で、雑穀がよく育つんだ」


 米の存在を知らなかったヨキは恵みの村の事を話していると髪を長く伸ばした少年がヨキの名前を尋ねてきた。


「ふ~ん、そういえばまだ名前聞いてなかったな。俺はバン、バン・レイフォンだ。こっちは弟のリース」


「始めまして、リース・レイフォンです」


「僕はヨキ、黄昏ヨキ。それが僕の、今の名前」


「どういう事だ?」


「僕には、記憶がないんだ」


 ヨキはレイフォン兄弟になるべくわかりやすく自分の事、村で何があったのか、そして祠で起きたのかを詳しく話した。

 ヨキの話を聞いたレイフォン兄弟は信じられないといった様子だった。


「信じらんねえなぁ、竜巻でここまで来るなんて。石が杖になったり、それにその刺青が痣だっていうし」


「杖ってもしかして……ちょっと待ってて下さい」


 ヨキの話を聞いて少し考えこんでいたリースはそう言って部屋を後にした。食事を終えたヨキは、自分が何故レイフォン兄弟の家にいるのかという事を部屋に残っていたバンに聞いた。


「あの、バン君」


「あぁ、バンでいいよ」


「うっうん、バン、僕はどうして二人の家にいたの?」


「そういえば気絶してたんだったな。俺達が散歩してる途中に崖の近くで行き倒れてるお前を見つけて俺達の家に運び込んで手当てをしたんだ。

 服も汚れてたし、キバに頼んでお前ようの服を持ってきてもらったんだよ。

 まぁ、結局丸一刻ひとこく寝てたけど」


 崖近くで倒れていたところを見つけて連れてきたとバンから聞いたヨキは、自分が崖から降りている途中で足を滑らせ、落ちた事を思いだした。


「えっと、その事なんだけど、実は行き倒れてたんじゃなくて、崖を降りてる途中で落ちちゃって…」


「ハァッ⁉ あの高さを自力で降りてたのか? しかも命綱いのちづななしで⁉」


 自分が倒れていた理由が行き倒れていたからではなく、ケイマリがいるかもしれないと思い込み自力で崖を降りていた途中に足を滑らせてしまい、そのまま崖から落ちてまった事をバンに話したヨキ。

 そしてヨキが崖の近くで倒れていた経緯を聞いたバンは、ヨキが命綱なしで崖から降りようとしていた事に驚いていた。


「あの辺りの崖、結構足場が不安定だから命綱は必須な場所なんだよ」


(命綱必須って、下手したら僕、死んでたかもしれないって事⁉)


 自分が命綱なしで降りていた崖は命綱が絶対に必要となる場所だと知ったヨキは、自分がとんでもない行動を取っていたのだと気付いた。

 今回は地上までの距離がそれほど高くなかったから助かったものの、あと少しでも高ければ、間違いなく死んでいたかもしれないのだ。

 丁度その時、リースが布に包まれた長い棒状のような物を抱えながら、知らない少年と共に戻ってきた。


「兄さん、今もどりました」


「なんだよリース、お前キバの所に行ってたのか。ヨキ、紹介するぜ。コイツは幼馴染のキバだ」


「あの、始めまして。黄昏ヨキ、です」


「そうかあの時の。意識が戻っただけでも良かったよ」


 レイフォン兄弟の幼馴染だというキバが現れた事に対し、ヨキは人見知りが発動して少し委縮してしまった。

 目を覚ましたヨキの姿を見たキバは安心した様子で笑っていると、リースが抱えていた布に包んだ長い棒を持ったままヨキに訪ねた。


「あの、ヨキさん。ヨキさんが話していた杖とはもしかしてこれですか?」


 リースは布の一部を外して布の中身をヨキに見せた。

 布の中身は、ヨキをソラとマリの二人から引き離した竜巻を起こした杖だった。

 崖から降りる際に邪魔にならないよう蔦で体に巻き付けていたのだが、どうやら崖から落ちた拍子に巻き付けるのに使った蔦がちぎれ、ヨキの体から離れてしまったようだ。


「倒れていたヨキさんの近くに落ちていたんです」


「そうだったんだ。だけどなんで布に包んでるの?」


 ヨキが杖を見て一番疑問に思ったのは、何故リースが布で包んだ状態で杖を持っているのかという事だった。

 確かにリースが持っている杖は聖なる祠に収められていた石が姿を変え、更に竜巻を起こす程の風を生み出し、自分をケイとマリから引き離して恵みの村から知らない場所に移動させるなど、不思議な力を秘めてはいた。


 だがそれ以外では何もないため、普通に持っていても問題はなかった筈なのだ。

 その事に対して疑問を抱いたヨキは、リースが杖を布で包んで持っている理由を訊ねた。

 ヨキに杖を布で包んでいるのかバン達は少し困惑した様子で理由を話し始めた。


「最初は普通に運ぼうとしたんだ。けど俺が触った途端に突然電気みたいなものが出てきて掴めなかったんだ」


「ためしに僕がつかもうとしても同じ結果で、兄さんはヨキさんを背負っていた状態なので、ヨキさんを落としてしまう危険があったので兄さんは触っていません。

 そのままほうちしておくのも危険なので、話し合った結果今のようなじょうたいになったんです」


「うっかり誰かが触って怪我でもしたら大変だからな、お前が気絶している間俺の家で預かる事になったんだ」


「そう、だったんだ。でも、僕が持っている時は何ともなかったんだけど、少し、貸してくれないかな?」


 自分が気絶している間に起きていたでき事を聞いたヨキは、リースに杖を貸してほしいと頼んだ。

 杖を貸してほしいと頼まれたリースは躊躇したが、自分が持っていた時は何ともなかったといったヨキの返答を聞き、意を決して杖をヨキに渡した。


 ヨキはリースから杖を受け取り、最初は少し緊張した様子で手を止めたが、すぐに布で包まれていない部分を触れた。

 そしてヨキが杖に触れてもバン達が言っていた現象は起こる事なく、ヨキが杖に触れても何も起こらなかった事に対してバン達は驚いていた。

 ヨキは杖を持ったまましばらく黙っていたが、やがて口を開いた。


「…ありがとう、この杖、僕が持っておいてもいいかな?」


 リースから杖を受け取ったヨキは、杖を自分に持たせてほしいとバン達に頼んだ。

 元々はヨキが持っていたという事もあり、自分が持っていても問題はないという確信がヨキの中にあったのだろう。


 杖を自分に持たせてほしいと頼んできたヨキの発言に、リースとキバはこのまま得体のしれない杖をヨキに託していい物かと悩んだが、バンはそんな事など気にする事なく、ヨキに杖を託しても問題ないという発言をした。


「良いんじゃないか。なぁ?」


「それがいいな。それにお前行くあてがないんだし、二人の家に泊まっていた方がいいんじゃないか?  傷はそう酷くないがしばらく安静にしていた方がいいぞ」


「………わかった、そうするよ」


 こうしてヨキはしばらくの間、バンとリースの家に上がりこむ事になった。

 最初の頃は崖から落ちたせいで体中が痛み、まともに動く事ができず外に出る事ができなかったヨキだったが、しばらくして動けるようになりバンとリースに街を案内してもらう事になった。


 バンとリースが暮らすこの街は実りの街と呼ばれており、食の都市と呼ばれるほど豊かな場所でヨキが知らない食材が沢山あり、その中でもヨキはどんな食材にも会うという理由で米粒が大好物になった。


「また握り飯食ってるのかよヨキ」


「ヨキさんは本当のお米が好きですよね。お米以外にもパンや麺といった食材もあるのに」


「ん~、なんていうかお米独特のモチモチした感じが好きなんだ。それに色んなおかずにも合うし」


「それならおはぎとかヨキの口に合いそうだな。今度うまいおはぎを売ってる店に連れて行ってやるよ」


 そうやってヨキがバンとリースの二人と他愛ない話をしていると近くに置かれていた大量の荷物に通行人がぶつかり、積まれていた荷物の山は一気に崩れた。

 荷物の山が一気に崩れる際、大きな音を立てて周囲にいた人々の意識は、自然と音が聞こえた方向に向いた。


 当然近くにいたバンとリースもそちらに意識が向いたが、ヨキは荷物の山が崩れた音を聞いた途端、雷の音を連想してしまい食べていた握り飯を落とし、その場に蹲った。


「びっくりした~。荷物が落ちたのか」


「きっと積み上げすぎたせいで、そのまま崩れてしまったんですね。僕達も荷物の近くを通る時は気を付けましょう……ヨキさん?」


 リースがヨキに話し掛けようとした時に、その場に蹲るヨキの姿を見てようやくヨキの異常に気付いた。

 バンも気付き、しゃがんでヨキの様子を確認するとヨキは過呼吸を起こしていた。

 その事に気付いたバンはリースと共にヨキを近くのベンチまで移動させ、ヨキの過呼吸が収まるのを待った。


「大丈夫かヨキ?」


「ごめ、ちょっと…休ませ、て…」


「どうして過呼吸を、さっきまで元気だったのに…」


 事情を知らないバンとリースは、どうしてヨキが過呼吸を起こしたのかわからず戸惑っていた。

 ヨキの過呼吸が収まったのを確認すると、ヨキの体調を考えてそのまま帰宅する事となった。


 ヨキがケイとマリの二人と離れ離れになってから数刻すうこくが経ち、ある程度実りの街の事を覚えたヨキは、その日一人で街を歩き回ったあとに実りの街を見渡す事ができる展望台に来ていた。

 ヨキはそこから実りの街を見下ろして夢の事を考えた。


(あれは夢? とても懐かしい感じがした。もしかしてあれは僕の記憶⁉

 けどそれ以上思い出せない、どうして⁉)


 ヨキは何度も何度も考えた。だがやはりわからなかった。何も思い出せなかった。

 それから何時間たったのだろう、バンがヨキの所にやってきたのだ。

 どうやらヨキを探していたらしい。


「ヨキ、探したぞ」


「あっ、バン。どうしたの?」


「どうしたもこうしたもねぇよ。夕方になっても帰ってこねえから探してたんだ」


 バンの言う通り、ヨキが夢の事について考えている間に夕方になっていた。

 丁度黄昏時だったらしく、ヨキは不意にこう呟いた。


「黄昏……」


「えっ?」


「今の名前は、二人がくれたんだ」



*****



 今から八年前の事になる。ヨキは聖なる祠にあった石の箱の中にいた。

 ケイとマリに見つけられた時、ヨキは二人がいる事に気付かず、しばらくの間放心したまま前だけを見つめていた。

 やがて二人がいる事に気がついた。


『ねえ、アナタはダレ?』


『…なんのこと?』


 ヨキの心は不安でいっぱいだった。ヨキの不安に気がついたケイが自分の名前を言った。


『おれは薬師ケイ。よろしく』


『アタシは未来マリ、ケイのいとこよ。アナタのなまえは?』


 マリに自分の名前を尋ねられたヨキは、二人に自分の名前を教えようとしたが、自分の名前を思いだせなかった。


『ぼく…わからない、おもいだせない』


『どういうことだ?』


『キオクがないのね。こまったわ、これじゃあお家にかえしてあげられないわ』


『まぁ、そとにでようぜ』


 ヨキが自分の名前を思い出せないと知ったケイとマリは、聖なる祠の外にヨキを連れ出した。

 その時は黄昏時で、夕焼けがとても美しかったのだ。


『うわぁ、いつみてもきれいね』


『なー』


『きれー……』


 ケイとマリに聖なる祠から連れ出されたヨキは、そこから見える夕焼けに目を奪われていた。

 するとケイがこんな事を言い出した。


『そうだ! 今日からオマエのナマエ、黄昏ヨキにしようぜ!』


『たそがれ……ヨキ?』


 不思議そうに自分の名前となる言葉を聞いたヨキは、ケイが言ったその言葉が自分のなまえとなる言葉だと認識する事ができず、首を傾げながらケイを見た。

 そんなヨキに対し、ケイはヨキの名前の由来を説明し始めた。


『みょうじのたそがれは、オマエを見つけたのがこのじかんだったからで、ヨキってナマエは、これから良いことがありますようにってガンカケな!』


『ヨキ、たそがれ、たそがれ、ヨキ…。ぼくは、黄昏ヨキ?』


 ケイがヨキの名前の由来を説明し終わると、ヨキは自分の名前を何度も繰り返し呟き、それが自分の名前になるという事を漸く自覚した。

 ヨキの名前の由来を聞いたマリは、笑顔でケイに賛同した。


『あっそれいいわね!』


『だろ!』


『よろしくね、ヨキ!』


『うっうん。ヨキ、ヨキ、たそがれ…。そっか、ぼく、黄昏ヨキなんだ』


 自分が誰なのかわからないままだったヨキは、自分が黄昏ヨキであると分かり、うれしさと安心感を感じた。

 その日ヨキは、黄昏時に包まれたその場所で黄昏ヨキとなった。



*****



「へ~、ヨキにも幼馴染がいたのか」


「うん、ケイはヤンチャで悪戯好きでいつも悪戯して怒られてるんだけと、村じゃムードメーカーで人気者なんだ。

 だけど最後の最後でマリに掃除をさせられちゃうんだよ」


「なんだかケイってニヤトと気が合いそうだな」


「ニヤト⁇」


「俺の仲間さ。アイツ結構いい奴なんだけど、エミさんにしょっちゅう怒られてるんだ」


「そうなんだ」


「で、マリってどんな子なんだ?」


「マリはケイの従姉だよ。頭の根元からグラデーション状に紫がかった、珍しい白銀の髪を長く伸ばしてて、瞳が紅玉みたいに綺麗なんだ。

 カッコよくて頼りがいがあるんだ。

 でも小さい頃に両親を事故で亡くしたらしくて、マリはその真実を受け入れられなくて心を閉ざして容赦なく人に怪我をさせちゃったらしくて、親戚の人達に何度もタライ回しにされて、遂には氷みたいに心を閉ざしちゃたんだって」


「それだけ心の傷が深かったんだな」


「うん。でもケイのお母さんがマリを引き取って、ケイの家で暮らす事になったみたいでね、その時のケイは三歳で年が二つしか離れていないマリに遊んでもらおうと、積極的に話しかけた事がきっかけでマリは心を開いたそうだよ」


「へ~、ところでマリって歳いくつなんだ?」


「十四だよ。僕より一つ年上なんだ」


「って事は俺は一つ年下か」


 ヨキはバンに二人の事を話していると、二人が今どこにいるのか、安否がわからず不安な思いが巡り不意にこう呟いた。


「二人とも、大丈夫かなぁ?」


 ヨキがケイとマリの安否を心配していると、ヨキの思いを汲み取ったバンが意外にもこんな事を言った。


「大丈夫、信じてればまた会えるさ」


「バン……そうだよね」


 バンに励まされたヨキは笑って答えた。

 バンのその一言でヨキは先程までの不安が消え去り、ケイとマリが無事であると信じられるようになった。


「そろそろ帰ろうぜ。リースも心配してると思うし」


「うん!」


 ヨキとバンは家への帰路につくと、そのまま歩いて帰って行った。ヨキは心の中で思った


(バンの言う通り、信じていればまた会えるよね)


 ヨキの今までの不安は新しい友人達によって消えていった。

 だがヨキはまだ知らない、それが原因でバン達を世界の命運を賭けた戦いに巻き込む事になる事を。

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