白ギャル来襲

 一人ぼっちの小休憩。

 あの後、日向が俺に話しかけて来る事は無かった。

 日向は自分の席で泣きそうになっていた、泣いてはいない。大五郎がどうしていいかわからない顔で俺を見る。


 クラスメイトは俺のせいにしようとしていたけど、日向と大五郎がそれを制止する。

 前だったら制止なんて聞かないのに、今日はクラスメイトがおとなしく引き下がる。

 やっぱり空気感が違うな。


 俺たちにしかわからないやり取り。

 ずっと一緒だった幼馴染。

 日向との思い出がより鮮明に蘇ってくる。だけど、それは過去の思い出。

 俺は前に進むと決めたんだ。この暗い感情と一緒に。


 ――はぁ、前よりはマシだけど気をつけて行動しなきゃな。


 俺だけが誤解にあうのは構わない。俺は鋼な心で全てを受け止めていた。

 心は傷つくけど、耐久性には自信があった。……ボロボロで限界だったみたいだけどな。もしも、俺のせいで友達――小池さんや天道が傷ついたら……きっと耐えられない。


 ていうか、次の休み時間は小池さんの教室でも様子を見に行くか。

 そう思っていたら――






「九頭竜武蔵っている〜、あーし、話あるんだけどー」


 二人の灰色のギャルを連れ立って、白ギャルこと白戸しらとさんが俺の教室へと入ってきた。あごは常に上を向いていて、腰に手を当てて非常に高圧的な物言いであった。


 教室の入り口近くにいた女の子がビビりながら俺の事を指差す。

 こら、人を指差しちゃ駄目だぞ。


「あんがとー、てか、だるいから、あーしの所まで来なよ」

「リリー声上ずってね?」

「リリーのもろタイプじゃね??」


「うっさいよ!? あ、あんな男全然タイプじゃないわよ!? わっ!? ち、近いわよ!?」


 言われた通り近くに来たのに怒られる俺……。くそ、なんだってんだよ。


「ふ、ふん、あんた、前に私の事注意した男よね。覚えているわ。あの時はムカついて仕方なかったけど、今は忘れてあげるわ」

「ちょ、リリー、そんな前の話覚えてんだ」

「やっぱもろタイプだったからショックだったんじゃない?」

「…………」


 こいつらなんとも言えない良い性格をしているな。


「で、なんのようだ? 俺は忙しいんだよ」


 今の休憩時間で作詞をしようと思っていたんだ。まあ今やらなくてもいいけど、時間があっからな。


 白戸リリーは俺を覗き込むように睨みつける。

 なんとも言えない威圧感である。


「……あんた小池とどういう関係? てか、遊んでないわよね?」


 予想外の質問が来やがった。むしろ、俺がお前らに問いたい気分だ。


「あん? 俺と小池さんは友達だ。今朝も一緒に登校した仲だぜ」


「な、なに……、あ、あーしだって、今日、小池に化粧品持ってきたんだもん! あっ、ふ、ふん、小池はブサイクだから化粧すればいいと思って」

「ヤバ、照れ隠しじゃん」

「ていうか、今朝、小池と超楽しそうに化粧品の話してたじゃん」

「…………ごほん」


 あまりにも話が進まなさすぎて、俺はもう一度白戸リリーに聞いてみた。


「っで、なんのようだ。小池さんに意地悪したら俺が許さねえぞ」


「――っ、やば、超かっこい……。………………はっ、あーしは何も言ってないわよ!! ……そ、そう、あんたが小池と仲良しならそれでいいわ。……じゃああの嫌がらせは……誰が? ふ、ふん、じゃあうちらいくわ」

「あれ? アドレス交換はいいの?」

「てか、リリーの超タイプっしょ? ねえねえ、交換しないの?」

「う、うるさいわね、こ、小池が先よ!! いくわよ!! ……も、もう少し仲良くなったら……こ、交換するわよ……」


 三人は姦しくお喋りしながら去っていった。

 ……あれ? そういや、あいつら俺に対して超普通に接していたな。特に嫌な風に思わなかったんだな。……俺、ギャルと相性がいいのか? うちのクラスの豊洲も有明もギャルである。天道もギャルっぽい。小池さんも痩せたら見た目はギャルっぽく変化したかも……。


 ま、まあいいか。

 それにしてもあいつら、やっぱ良い奴らなんだな。

 小池さんの事気にかけている。……嫌がらせか。気になるな。


 俺は白戸の後を追うことにした。

 どうせ隣のクラスだ。





「ちょ、まてよ。白戸ーー!」


「ふぁっ!?」


 後ろから声をかけたら、白戸は驚きすぎて転びそうになってしまった。

 俺はとっさにダッシュして白戸の細い腰に手を回す。

 瞬間、頭の中ではこの行動が誤解を生む事を覚悟していた。


 だが、暗い選択肢は何もなかった。どれを選んでも全くもって明るい色しかなかった。

 な、なんだこいつは?


「ふわわわ……、きゅ、きゅう……」


 俺は白戸を立たせて灰色のギャル二人を見る。


「うん、あんたはリリーを助けた。良い男っしょ」

「流石リリーのタイプな男だけあるじゃん。あんがとね」


 二人はそう言いながら、誤解しそうになった周りの生徒をシャーシャー言いながら威嚇していた。

 半べそかいているリリーはスカートを払いながら俺と向き合う。

 な、なんだこの状況は? 


「……あ、あんがと。そ、その……び、びっくりして……。で、でも、女の子の身体に触っちゃ駄目だぞ。誤解されるちゃうぞ……」


 おい、口調が変わってんぞ!?


「あん? 誤解されても怪我がない方がいいだろ? ったく、そんだけ元気そうなら良かったな!」


「――っ!? ……きゅ、きゅう……」


 な、なんだこいつ? ギャルなのに変な感じだな。

 まあいいか。俺は小池さんの事を聞いてみることにした。


「なあ、小池さん、なんか嫌がらせ受けてんのか?」


 白戸リリーは真面目な顔に変わった。きりっとした顔は威圧感満載である。

 ……もう少し太った方が可愛いのに。


「……そ、その事だけど」


 白戸リリーが話そうとしたら予鈴が鳴ってしまった。

 白戸は自分たちの教室を見つめる。


「……あとで時間あるわよね? 次の休憩時間の時に話すわ」

「話すわ!」

「また会えるからアガるじゃん! 主にリリーが!」


 白戸は二人の事をポカポカ叩きながら教室へと入っていった。

 小池さんの姿を見かけると、白戸は少し照れくさそうに小池さんの所へと向かった。

 俺に気がついた小池さんは小さく手を振る。

 俺はそれがなんだか嬉しくなって俺も手を振り返した。

 ……何故か白戸も一緒になって手を振っていたけどな。


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