どこへ?
放課後になると、生徒たちが騒ぎ出す。
部活へ行く生徒、友達とカラオケへ行く生徒、教室でだべっている生徒。
日向は女子グループと一緒にカラオケへ行くようであった。
俺はというと、小池さんに送るメッセージをずっと考えていた。
なんて送ればいいかわからん。内容が無いメッセージを送っても迷惑だろう。
かと言って、小池さんの家に行く日を決めるのも、それは小池さん次第だから連絡まちである。
……とりあえず、もう少し考えるか? 簡単な挨拶程度でいいかな?
くそ、まるでわからん。こういう時に相談できる友達がいれば……。
俺は周りを見渡すと……、何やら教室がさっきよりも騒がしかった。
ん、なんだ? みんな窓の外を見ている……。この教室からは校門が見えるだけだ。
「ねえねえ、あれってやばいって!!」
「マジで本物!? ボブ子じゃない!!」
「サングラスしてるけど、絶対タクヤ様よ! ファンクラブ会員だからわかるわ!!」
「ちょ、ボブ子踊ってるって……、やば、おれ、ちょっと校門まで走るわ!!!」
「待てよ!! 俺も行くぜ!!」
……俺は嫌な予感がして窓の外を見た。
そしたら、ボブとタクヤが校門の前にいた!?
思わず窓を開けてしまった――そしたら目が合ってしまった……。
ボブもタクヤも声量が半端ない。
アイツらは――
「はろーーーー!! ムサシーー!! 昨日の約束忘れてないよね??? あーそーぼー!!」
「九頭竜武蔵っ、俺を待たせるな――」
俺は予測できなかった事態に思わず叫びたくなってしまったが、心の中で抑えた……
――馬鹿野郎!? なんだって学校に来やがるんだ!!! ちょ、お前らそこ動くなよ!!!!!
俺はまずい事態に気がつく。
「はっ?」
「え?」
「ま、じ?」
「まさか、知り合い?」
「ありえねえ……、でも、九頭竜の名前呼んでたよな」
クラスメイトたちが全員俺を見ている……。くっ、ここは……とりあえず逃げよう。
くそっ、全部アイツらのせいだ!!
俺はダッシュで教室から逃げた――
っと、入り口の所で誰かとぶつかりそうになり、女子生徒を抱き止めてしまった――
なんだか、知っている匂いの香水だ……、懐かしい気分になる。
俺は小さな女子生徒を抱き止めたままだったのに気がついて、すぐに離れた。
「す、すまん! け、怪我はないか!? わ、わりいちょっと急いでて――」
「あっ、せ、せんぱい、わたし―」
「わりい!! なんか俺に用があるなら明日にしてくれ!! 明日の朝、いつもの中庭で待ってるからよ!!」
「えっ……、せ、んぱい?」
俺は全力でダッシュする。
今度は誰かとぶつからないように気をつけて走る――
――――ん? 俺はさっき誰とぶつかりそうになった? 知ってるやつだったのか? 気がついたら中庭で待ってるって俺は言っていた。
胸がドクンと高鳴る。変な気分に陥る。
校門の前は生徒たちでわちゃわちゃしている。
ボブとタクヤは無駄にサービス精神旺盛で、生徒たちに手を振ったりしていた。
タクヤのマネージャさんである三森さんが必死に生徒たちを止めている。
ファンらしき女子生徒も三森さんに協力してタクヤと生徒との境界線を作り、そこから先は行かないように管理している。
ボブは……踊っていた。
あいつら……、マジで何やってんだよ。タクヤもボブもファンサービス精神旺盛な奴らだけど、流石に学校の前にいたら面倒な事態になるってわかるだろ?
それに俺の名前を呼びやがって……。
タクヤは手で髪をかきあげている姿で止まっている。いや、ゆっくりとだけど、動いている。足を車のタイヤに乗せるポーズへと移行していった。
撮影会じゃねえかよ!? バカ!
目ざといボブが俺に気がついた。
「むっ、やっとムサシが来たよ。タクヤ、そろそろ行こうよ」
「遅いぞ、九頭竜武蔵。俺の未来のライバルよ」
「ライバルじゃねーよ!? 俺は役者目指さねえし! てか、お前ら何してんだよ」
ボブは首を傾げる。可愛らしい仕草に、男子生徒が悶絶している。
……こいつ男だぞ。いや、こいつのファンはボブが男だからいいのか……、業が深いな。
タクヤはマネージャーさんの車をトントン叩く。
乗れって言ってるらしい。
三森さんが俺に近づいてきた。胸元が大きく開いた服が三森さんの胸を強調する。
無自覚な色気がはちきれんばかりであった。
「……ご、ごめんね、武蔵くん。どうしてもここに来たいって言って。今までどんなワガママも言わなかったタクヤが、どうしてもって言うから……」
「そ、そうなのか? ……まあ話は後だ」
俺は無駄口を叩かずに三森さんの車に乗り込んだ。
俺を指差したり、何か言ってくる生徒がいたが、意識からシャットアウトしていた。
タクヤとボブも車に乗り込む。
そして、車はタクヤのファンクラブ会員の女子生徒の先導によって、校門から出るのであった。……おい、タクヤ、お前のファンって統率されすぎてねえか?
「くくくっ、武蔵。なかなか面白い顔が見れて良かった」
「ねっ! ムサシ、超びっくりしてたよね? サプライズだってばよ!」
「いやいや、なに学校来ちゃってんだよ!? お前ら有名人だろ! 俺は一般人なんだよ!」
「……お前が、一般人、だと? 何を寝ぼけた事を言っている。お前の演技の才能は俺が認めているのだぞ」
「そうだよ、ムサシ〜、ダンスもうまいけど、ぶっちゃけ僕の登録者数をぶっちぎりで抜いてるじゃんか」
そ、そうだったのか……、知らんかった。
俺は話しを流して、改めて質問してみた。
今まで二人が学校に来たことはない。外で会うこともない。基本的に俺んちでパーティーするだけであった。
「なんだって学校来たんだ?」
「えっ? なんか大丈夫そうかなって思ったんだよ。ほら、ムサシ、最近誤解される事が無くなって、不運な事が起きてないっていうじゃん」
「そうだ、今までなら俺たちが学校にでも行ったら、大変な目に合ってただろ? ……。もう大丈夫だと思ったんだ」
「そうなんだよ! タクヤったらムサシの事が超心配で、その癖、『俺が学校へ行ったら武蔵は俺のせいでいじめられないか?』とか言っちゃってさ! ――あいてっ!?」
タクヤがボブの頭をぽかりと叩く。
「うるさい、そういうお前も『ムサシ……僕と知り合いってわかったら学校の友達できるきっかけになるかな……』って言ってただろ?」
「わ、わるい! わ、わたしだってムサシの事大好きだもん」
俺は二人の思いが嬉しかった。二人は俺がボッチだって知っている。学校中で嫌われている事も、いつも傷だらけだった姿を見ていた……。
……だけど、俺はどこに連れてかれるんだ?
俺は三森さんに尋ねてみた。
「これ、どこ向かってるんですか? 俺、帰って配信の準備したいんですけど……」
「え? あ、あの、昨日言ったはずです……えっとまた説明しますね。今夜、日本の歌姫である沙羅さんのライブがあって、そこに行きたいって武蔵さんが言ってて、それでタクヤ君が見れるように手配してくれて……」
あっ、そんな事を言った記憶がある、超眠くてうろ覚えだった……。ていうか、チケット入手不可能って言われているだろ!? タクヤ、流石だな……。
「ふんっ、俺も興味があったからな。業界で20年第一線で活躍してる貴婦人だ。……それに、九頭竜武蔵は俺のライバルであり……弟みたいなものだからな」
タクヤは少し照れくさそうに窓の外を見る。
ボブはスマホゲームをしながら俺に言った。
「えー、タクヤがお兄ちゃんだったら、僕は……奥さんかな! てへへっ!」
「おいっ!? ちげーだろ!? 俺は変な性癖ねえよ!」
そういいながらも、俺は二人に感謝をしている。
二人とも20代半ばを超えていて、俺とは年が離れている。
友達ってよりも、確かに兄貴たちみたいな感じだ。
俺は小さく呟いた。
「あ、ありがとな……」
二人は何も言わずに微笑を浮かべていた。
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