警備

はちやゆう

第1話

 吝嗇で知名な富豪マダムエレーヌは頭を悩ませていた。給与契約がこじれてしまい屋敷の夜警担当者が多く辞めてしまったためだ。ここは花の都とはいえ、ひとの住まう街である。光あればそこに影はある。好景気にわく街の片すみで泥棒の噂はたえない。屋敷の警備を早急に整えるひつようがあった。だが、泥棒がやってくるその瞬間にだけひつようとなる人間をマダムは高給で雇い入れる気にはなれなかった。マダムが執務机で彫刻のようなたたずまいをしていると高給取りの執事が紅茶の給仕にあがった。

「ジルベール、わたしがなにを考えているか分かるかしら」

 マダムエレーヌは頬杖をついたまま執事ジルベールに問うた。

「マダム、それは屋敷の警備のことでしょう。こそ泥や強盗のうわさも街では多くきかれます」

「であるならば、なにか妙案でもあるかしら。もちろん無駄づかいはだめよ」

「もちろんです、マダム。まず、街の掲示板の全てに警備の求人をだしましょう」

「それで。無駄づかいはだめよ」マダムはカップを鼻先に近づけ香りを楽しんだ。

「次に屋敷に泥棒がいると警察に通報するのです、それだけです。ただでお金を頂戴しようという泥棒とその泥棒をつかまえるべく警官がただでやってきます。わんさかやってきますよ。税金もむだにしたくないですからね。マダムのひとり勝ちです」

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警備 はちやゆう @hachiyau

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