10.3つ目のお願い

母さんの納骨も終わり、ボクと血の繋がった家族は、いなくなった。

父さんは数年前に、既に他界してしまっている。

思えばボクも年をとった。

もう、立派な中年だ。


「マリカ」

「なに?」


長い銀髪をなびかせ、マリカが振り返る。

外に出る時は、ボクと同じような年頃の女性の姿をしていて、表向き、ボクたちは『夫婦』のようだが、もちろん結婚なんて、していない。

・・・・2つ目のお願い、『マリカと結婚したい』にすれば、良かったかな?

なんて、時々思ってみたりして。


「うん。そこに座って」


言われるままに、マリカはボクの前に座る。

ボクはマリカの顔を、じっと見た。

魂に焼きつけるように。

絶対に忘れないように。


「ボクの、最後の願い事、言うね」


マリカの目が、見開かれる。

変わることのない、キレイな赤い瞳。

忘れないよ、マリカ。

ボクは絶対に、忘れない。


「マリカ、ボクのこと」

「ダメだ」


マリカがボクの言葉を遮った。


「ダメだ、輝。急ぐな、もっとちゃんと考えろ」


そっか。

マリカにはもう、バレてたんだね。

ボクの3つ目のお願い。

そうだよね。

何も言わなくても、ボクの思ってること、わかっちゃうんだもんね。


「ちゃんと、考えたよ。ずっと、考えてた。知ってるでしょ?マリカ」

「バカかお前はっ!」


気のせいか、マリカの目が潤んでいるように見える。

・・・・悪魔も、泣くこと、あるの?


「誰が泣いてるんだっ!いいか、最後の願いが叶ったら、お前の魂はあたしに獲られるんだぞ?お前は、死ぬんだぞ?!まだ時間はある。そんなに急ぐことは」

「ボクはもう、十分なんだ」


そっと手を伸ばし、マリカの頬に触れる。


「だから、ボクの最後のお願い、ちゃんと聞いて」

「言葉遣いを直せ、でもいいぞ。ぜってー直さねえけどなっ!」

「ダメじゃん、それじゃ」


相変わらず往生際の悪いマリカに、思わず吹き出してしまったけど。

マリカの赤い瞳を真っ直ぐに見つめながら、ボクは言った。


「マリカに、ボクを好きになって欲しい」


マリカの目から、涙がこぼれ落ちたのが見えたような気がした。

次第に意識が遠くなる。

知ってるよ、ボク。

マリカがボクのこと、好きでいてくれてたこと。

でも、確かめたかったんだ。

それが、契約だからか、本心なのか。

きっとマリカは、【契約だからだ】って言うだろうけど、絶対に違うよね。

だって、願いとして口にしたとたんに、ボク、死んだもの。

マリカが力を使う暇なんて、なかったはず。


やがてボクは体を抜け出して、フワフワと浮遊し始めた。

魂ってやつに、なったみたい。

マリカの手が、フワフワと漂うボクを、優しく捕まえた。


ねぇ、マリカ。

マリカはボクを取り込んで、『すげー悪魔』から、『もっとすげー悪魔』になるんだよね?

いいよ、ボク。

マリカになら、取り込まれて消滅してしまっても。

だって、マリカの一部になれるんだから。


そう思ったのに。


一度だけギュッと抱き締めると、マリカはボクから手を離して、言った。


「お前なんて、さっさと天国にでもいってしまえ」

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